誓い

それは、遠い日の出来事。少女はジャングルジムの上で、じっと待っていた。
 

これから起こることに幼い心をときめかせながら。

彼女が待っているのは、彼女のひとつ下の幼馴染の男の子。

来た!そのとき、彼が息を切らせながら走ってきた。  

「遅かったじゃない。」  

気持ちとは裏腹に厳しい言葉が出てしまった。  

「タ、タマ姉。タマ姉に呼ばれたから大急ぎで来たんだよ」

「えっ…そう。そうなの?」  

「何?用事って?」

「えっと…その…」

「何も無いなら帰るよ。タマ姉。」

「た…単刀直入に言うから良く聞きなさい。タカ坊私のこと好き?」

「へ?えっと…うん。タマ姉」

「あ…う…」

「それがどうかしたの?」

「あ…え…だから、今日からタ…タカ坊は私の恋人。決定したから」

「ええっ?何それ。聞いて無いよ」

「もう、タカ坊が告白したんだからちゃんと責任とるの。じゃあ誓いの言葉ね」

「誓いの言葉?」

『タカ坊は生涯私のことを愛することを誓います。
 もし、私たちが離れ離れになることになっても必ず再会して、思いを添い遂げることを…』

その時、後ろから、突然の声が聞こえた。

「タマお姉ちゃん。なに抜け駆けしてるの?」

…えっ。このみ?

何でそこにいるの? だいたいなんで、高校の制服着てるの?

「向坂さん。困ります。私の恋人にそんなことされては…」

…えっ。誰? 恋人? 久寿川さん?

何で彼女がここに?

「タマ姉。だめだよ。僕はささらのものなんだから。みんな、タマ姉放っといて向こうへ行こう。」

…えっ。みんな待って。私は…私は…まって〜


「まってーーーーーぇ…」

 

えっ?何?、 少しずつ頭の中の霞が晴れていくような…そうよ、私は、大学卒業したのよ。
もうあんな子供じゃない。

ベッドの上?  私の部屋?

… あ、そうか、また、いつもの夢ね…タカ坊…あきらめきれないのね。

でも、彼は、久寿川さんのもの。

タカ坊の心は彼女のもの…私のところには帰ってこない。

私は、いつも元気な『タマ姉』を演じることでしか、彼の横には立てない。                                             それは、『幼なじみの妹』を演じることでしか、彼の横には立てないこのみも同じ。                                  

あ゛〜っ。もう、だめ。こんなこと考えてたら、起きられない。がんばろっと。                                           せっかく実家に帰ってきたことだし、家業を手伝わなきゃなんないしね。

今回は、2回目の帰郷。本格的に家業を継ぐために帰ってきた。

前回は、幼い頃から、私の恋人と思っていた『タカ坊』をものにするために帰ってきた。                                 大学を卒業したら、家業を継ぐことを条件に、無理を言って高校3年の一年だけ彼の学校に編入させてもらった。                    実は、九条院小学校へ行く前に、さっきの夢みたいに告白?したんだけど…

結局はうまく私の気持ちが伝わらなかった(…と自分では思ってる)。

小学校から通いなれた九条院をいったん離れて、彼のそばで楽しいときを過ごしたのもつかの間。                                       彼の心は生徒会長の久寿川ささらさんに奪われてしまった。                                                   よく、生徒会に出入りしてたと思ったら、大変な事件を起こしちゃって…。                                             でも、その後、久寿川さんは、お母さんと一緒にアメリカへ。

だから彼は、遠距離恋愛中ってこと。

高校卒業と同時に、私は、九条院に帰って、この間卒業したところ。                                             短大だったし、タカ坊たちはひとつ下だから、彼らは今度2回生というところね。                                      

今日は、タカ坊のところへ行ってみようかしら。

帰ってきてからもう随分たつんだけど、まだ、そういえば会ってないわね。

なにぶん、遠距離恋愛だから、デートに誘ってもバレルおそれはないしね…。                                        そうと決まれば、膳は急げ。ケーキでも買って、遊びに行ってみよう。

彼の家に行く前に、私は、駅前のカフェ・ノエルへ。                                                     ここのチョコレートケーキは絶品なのよねと思いながら、店に入り、品定めを始めたときだった。

 

「ん?え?……」

ショーウィンドウの外を通ったのは、間違いなくタカ坊!

私は、大急ぎで店を出ると彼を呼び止めた。

「た〜か〜ぼ〜う」

彼は、声を聞くと、あたりを見回していた。                                                                私が、さらに大きな声で呼びかけると、彼はようやく気が付いて、驚いたように手を振ってくれた。

「タカ坊〜。ケーキ買うからちょっと待っててね」

と言うと、店に入り、大急ぎでチョコレートケーキを買って、彼の元へと急いだ。

「タカ坊、ひさしぶり。元気だった?」

「タマ姉。久しぶりだね。帰ってきたの?」

「うん。大学も卒業したし、家業継がなきゃ…ね」

「そう…」

久しぶりに会ったタカ坊は、なんとなく元気がなさそう。

心配事でもあるのかな?

「どうしたの、元気ないよ! しっかりしなさい」

「うん」

「返事はハイ!」

「ハイ!」

「よろしい。ねえ、ケーキ買ったんだけど、タカ坊のとこへ行っても良い?いっしょに食べよ」

いいよ、というタカ坊の返事を聞くやいなや、彼の手を引っぱって、彼の家へ向かった。                                  途中いろいろ話をしたんだけど、どうも元気がないのよね。

よ〜し…問い詰めてやろう…。

「どうぞ、タマ姉」

玄関のドアを開けてタカ坊が迎え入れてくれた。

「わぁ…久しぶりねタカ坊の家も。ご両親はまだ海外?」

「うん。もう、当分帰って来れないって…コーヒーでいい?」

「うん。ブラックで」

しばらく、なつかしくて、部屋をきょろきょろしているたら、コーヒーが先にできちゃった。                                 私は、大急ぎでケーキをお皿に入れ、準備完了。

「じゃあ、久しぶりの再開を祝して乾杯!」って、コーヒーで乾杯もないわよね。

「タカ坊、ところで、ご飯ちゃんと食べてる?コンビニ弁当ばかりじゃダメよ」

「うん。一応ね。時々、春夏さんも差し入れしてくれるから。このみも時々作ってくれるし」

「あれ、このみって、時々来てるの?」

「ここ、2ヶ月ぐらいは来てないかな。受験や、アパート探しとか忙しそうだったよ。

入学してからはさらに忙しそうだと、春夏さんが言ってた。」

「ふ〜ん、そうなんだ。で、タカ坊のほうはどうなの?」

「ど、どうって…」

あれっ?なんか雰囲気がおかしい。

「決まってるじゃないの、ささらお姉さまのことよ。遠距離恋愛中なんでしょ。コノコノォ」

「あ、うん。」

あれ?これ、照れてるんじゃないわね。

何かあったのかしら、まさか…ね、あれだけ、好きあってたんだものねぇ…。

「どうしたの? うまくいってないの? それとも、最近連絡ないとか? 向こうも新学期だから忙しいのよきっと」

アメリカは新学期じゃないか…なぐさめになってないわね。                                                     

タカ坊は、しばらく、ためらってたんだけど…ようやく意を決したように話し始めた。

「あ、あのね、タマ姉。ささらとは、別れたんだ…というか、僕が振られたんだけどね…はは…」

「えっ?」

今、なんて?別れた。嘘でしょ…あれだけ派手に立ち回りをして、二人で誓い合った仲なのに…。

「やっぱり、遠距離恋愛はダメだね…ささらに新しい恋人が出来たって…。                                        

『高校のときは、互いに校則を背にしていたから、同じものを目指していた様な気がしていたけど、お互い、大学生になって、自分のやりたいことをやり始めたら、二人の考え方や、目指すもののギャップが大きくなってきた』

…って、ささらから言われた」

「そうなんだ…」

「うん。でも、これは、ささらに言われなくても、僕自身もこれでいいのかな?って思ってたから、納得はできたんだ。               ただ、やっぱり、いざ別れちゃうと、さびしいよね」

「いつのこと?」

「先月かな?」

「そ…う…」

元気のないタカ坊を、私はそっと抱きしめた。

小さいときに、よく転んで泣いているタカ坊をこうして慰めてあげたわよね。

大丈夫よ、私がついてるから。今度も転んだようなものだから、前みたいに私が慰めてあげる。                              でも、内心は、すごく嬉しかった。 ひょっとしたら、タカ坊が私のほうを振り向いてくれるかもしれないし。

しかも、最大のライバルであるこのみは、今、い・な・い。

そのまま、彼を抱いたままどのくらいの時間がたっただろう。

「ところで、タカ坊?夕ご飯の用意はしているの?」

「え?う〜ん。あんまり食欲無いから、何もしていないよ」

「OK。じゃあ、適当に作ってあげる。一緒に食べない?」

台所へ行き、冷蔵庫を開けると、みごとにからっぽ。食生活が思いやられるわね。                                        う〜ん、棚にスパゲッティがあるわね、あと缶詰もあるわね。

私はすぐに料理にとりかかった。

「何か手伝おうか、タマ姉」

「いいわ、お皿の用意だけして頂戴」
「OK」

そうこうしているうちに、スパゲッティも出来たけど、まあインスタントみたいなものね。                                   明日はもう少しまともなものを作ってあげよう。

「どう?」

「おいしいよ。タマ姉の料理は久しぶりだ」

「じゃあさ、毎日は無理だけど週に2、3回は作りに来てあげる」

「いいよ、大変だから。」

「ううん。だって、その様子だと、まともに食事してないんでしょ。
 まあ、タカ坊が迷惑だって言うんだったらやめるけど」

「迷惑なんて、むしろタマ姉に迷惑じゃないかな? と思って」

「じゃあ決まりね。私に迷惑なんていう言葉無いから」

と言って、手を出した。

「えっ?」

意味のわからないタカ坊は困ってた。可愛いわね。

「食事を作りにくるんだから合鍵頂戴?」

「あ、ああ、そうか」 といって、自分の部屋へ。

もどってくると、彼は鍵を私に渡してくれた。

「これ、ささらに預けていたんだ。この間の手紙で送り返してきた。これでもいい?」

そんなことを正直に言うから、彼女に逃げられるのよ。                                                     

心の中で、そう思ったけれど、私は、タカ坊とのつきあいは長いから彼の意図しているところは全部わかる。                       何も言わずに渡すと、私に嘘をついたようで、裏切ったようでいやなのね、あなたは。

「うん。いいよ。正直に言ってくれてうれしい。でも、そのキーホルダーはずしてね」

その言葉に、明らかにしまったという顔をして、彼は大慌てで部屋へ戻った。                                          そして、新しいキーホルダーを持ってくると、鍵を付け替えた。                                                   

新しいキーホルダーは私が修学旅行のお土産にあげたやつだ。

「これ、持っていてくれたんだ」

「うん。タマ姉からもらったから、なんか、使うのがもったいなくって」

こういう純粋なところは彼のいちばんいいところ。

鍵を受け取るときに思わず抱きついてギュってしちゃった。

「タマ姉。く、苦しい。もう少し力を抜いて…」

はは、苦しかった? タカ坊から手を離して勇気を出してこう言った。

「タカ坊、悪いけど、この鍵はもうあなたの元には戻らないわよ。私はどこかの誰かさんとは違うから…」

「うん。信じてる。タマ姉だもん」

う〜ん。この超鈍感。

精一杯の告白なんだけどなぁ。

全然わかってないんだから。

…とはいえ、そこも可愛いんだけどね。

後編へ

 

 

 

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