誓い

――― このみ ―――

その次の日から、私は、時間を見つけては、タカ坊の家に行っていた。                                    家の掃除やご飯の用意なんかをするために。                                                           

お父様には、家業を継ぐのを少し遅らせてもらったから、しばらくは来れるわ。                                       

…それにこの状況にこのみが気が付くまでになんとかしなきゃ。

このみは、今、大学の近くに、アパート住まい。

でも、相変わらず、タカ坊のことは諦めきれてないのは間違いない。

時々、このみとは電話で話したりしていたけれど、まだ、浮いた話は無いようだ。                                       たぶん、タカ坊を引きずってるんだと思うけど…。                                                              だから、タカ坊の状況を知られるとこのみとタカ坊の取り合いをしなきゃならない。

このみが気付くまでに、何とか…。
 
そんな、ママゴトのような日々もすでに1ヶ月を過ぎた。                                               

とっても楽しい日々を過ごせてはいたんだけど、なんとなくうしろめたい気持ちが拭いきれない。                         

理由は簡単。

このみに何も話して無いからよね。雄二にも、このみには何も言うなと口止めしている。                         でも、こんなの私らしくないよ、このみのお姉さんじゃない。                                                      

やっぱり、このみだけには話しておこうか…

でも、もし、このみが彼を狙ってきたらどうしよう…

もう、我慢するのはいやだし…。

 

 

タカ坊との楽しい生活とは別に毎日、このことが、私の気持ちの中にずーと引っ掛かっていた。
でも、案ずるより産むが易し。そのこのみとは、偶然彼女が実家に帰ってきたときに再会できた。

今夜の食材を両手に抱えてタカ坊の家に入ろうとしたら、後ろから、 声を掛けられた。

「タ、タマお姉ちゃん?」

えっ? いまのは、このみの声? 間違いない、この舌足らずな声は間違いない。                                       どうしよう…ゆっくり振り向くと、いつもの笑顔。

「やっぱり、タマお姉ちゃんだ。帰ってたんだね」

これもいつものように飛びついてきた。                                                                相変わらず可愛いわねと思う反面、今の状態をどう切り出そうかと、いろいろ思いがめぐっていた。

「タカくんのところにいくの? それは…今晩のごはんだね」

このみは私の両手の食材を見てそう言った。

「じゃあ、今晩、このみもいっしょに行っていい?おかあさんにそう言っとくし…」

「いいよ…このみも手伝って」

「うん。了解であります。隊長!」

相変らず、変わってない。

よし…決めた…思い切って話そう。

その結果、どうなっても、それは私の責任。                                                                タカ坊の弱みに付け込んで、タカ坊の隣の定位置を確保しようとした私の責任。

私は覚悟を決めた。

「このみ、お茶のみにこない?」

「うん、いいよ。そうだね、いろいろお話もしたいし…って、タカくんいるの?」

「いないけど、鍵は持ってるよ」

「???」

まあ、そりゃそうね、じゃあ、待ってるからといってタカ坊の家に入る。

お茶の用意してたら、このみがきた。

「ひさしぶりだな、タカくんの家も…昔は良く来たし、何回も料理も作ったな。                                  へへっ。お母さんから習った『必殺カレー』でも、ささらさんには勝てなかったし…                                     お泊りもよくしたな…あ、ごめんね、タマお姉ちゃん。なんだか懐かしくて…」

「いいわよ、このみ。その気持ちは十分わかるわ。みんなで、雄二とも一緒によくここでも遊んだわね。                         一度みんなでお泊りしたこともあったわね。あの頃は楽しかった…」

「…」

「…」

「…ねえ、タマお姉ちゃん…ひとつ聞いてもいい?」

沈黙を破るように、このみが話し始めた。もう気がついたかな?

「…あのね…もし、もし、違ってたら、怒らないでね」

ううん、決して怒らないよ。私に怒る権利はないもの。                                                         多分あなたの思っている通りだから…悪いタマお姉ちゃんを許して…このみ。

「タマお姉ちゃんって、タカくんと…そのおつきあいしてるの? タカくんと、ささらさんはどうなったの?」

やっぱり気づいたか…私は一呼吸おいて…言葉を選ぶように話始めた。

「タカ坊とささらさんは別れたようよ。タカ坊が振られたの。                                                      私は…おつきあいは…してない。まだ何も言ってないの。                                                      でも…ごめん…このみ、私はそのつもりでここにいるの。このみのいない隙に。                                        このみが気がつく前に彼を横取りしようとしてるの…ごめんなさい…でも、でも、わたし…」

私は素直に頭を下げた。

もし、このみが許してくれなきゃ、私はタカ坊を手に入れて、このみを失うことになる。

この一ヶ月毎日思っていたこと。あるいは、このみとタカ坊をめぐってのバトルになるかのどちらか…。

「うわ〜。よかったねえ。タマお姉ちゃん。このみうれしい」

「えっ?このみ?…怒ってない?」

「どうして怒るの?大好きなタマお姉ちゃんと大好きなタカくんが一緒になるんでしょ。                                          早く、告白しちゃってよ。タカくんはタマお姉ちゃんのことが好きだって」

私は、これまでの事をこのみにすべてを話した。                                                            タカ坊の弱みに付け込んで今の状態があることも…このみを裏切って彼の横にいることも。

でもこのみは、ちょっと怒るポーズを見せたものの笑いながらこういってくれた。

「タマお姉ちゃん。私のことをのけ者にしたことについては、ちょっと怒ってるかな?                                       私は、お姉ちゃんやタカくんが好きなんだから、それに、お姉ちゃんの気持ちも知ってたから、そんな遠慮しないで。                    これからもずっとだよ。約束してくれるなら許してあげる」

「ごめん。このみ。本当にごめん。でも、これはチャンスだと思ってしまったの。                                            いったんそう思ってしまってからは、タカ坊の横にいて、タカ坊を独占したい気持ちと、                                    このみとタカ坊の取り合いはしたくないっていう気持ちがからみあって…」

「へぇ。タマお姉ちゃんでもそんなことがあるんだ。びっくりしちゃった。                                             でも、タマお姉ちゃん。約束してくれる?もう、妹をのけものにしないって」

「うん、ごめんねこのみ」

「じゃあ、いいよ。それに、タカくんのことで、私のことは気にしなくてもいいって。                                        正直なところを言うと、タマお姉ちゃんとタカくんの取り合いをしてもいいんだけどね。                               

実は、タカくんには私がタカくんのことが好きだって、偶然知られちゃったの。                                    よっちとかちゃるのが原因でね…でもね、タカくんはね、このみのことをどうしても妹してしか見れないって。                  だから、これからも、大事な妹として一生付き合っていきたいって言われたの。                                  

それはそれで、悲しかったんだけど、別に嫌われたわけじゃないし、ささらさんとお付き合いしているときでも、今までどおりだったしね」

「そうだったの…」

「そうか、タマお姉ちゃんとタカくんが結婚したら、私本当に妹になっちゃうね。                                        ふふっ。そうなったら、毎週帰って来て、お邪魔虫するね…へへっ」

よかった、正直に話をして…。

「ねえ、タマお姉ちゃん。ときどき、タカくんのところに昔みたいにおとまりしてもいい?」

う〜ん。あなたねえ…昔とはうのよ…と思ったけど、なにもあるはずないわよね。このみとタカ坊を信じよう。

「もちろんよ。でも誘惑しちゃだめよ」

「さあ、どうかなあ…なんてね…大丈夫だよ。安心して。                                                          やった〜うれしい〜じゃあ、今日はご馳走つくろ。このみもね、随分上手になったんだよ」

帰ってきたタカ坊は、私たちを見ると目を丸くしてびっくりしてたけど、すぐ昔みたいにうちとけて、一緒にご飯を食べた。             食事の後、お茶を飲んでたら、タカ坊が急に黙っちゃって、

「どうしたの、タカ坊?具合でもわるい?」

「タカくん大丈夫?」とこのみ。

「ううん。タマ姉、このみありがとう。ささらと付き合っているときは、                                                 放ったらかしにしてたと思うのに、こんなに大事にしてもらって…ありがとう、そして、ごめんね」

う〜ん。なんてかわいいんでしょう。

「タカ坊。なに謝ってるのよ。私たちって、家族みたいなものじゃない。                                               私は、気がついたら、あなたのことが好きだった。                                                         このみも雄二も。そして、あなたも、私たちが好き。違う?」

「違わない。その通りだと思う。」

「その私たちが、他の人と比べられるわけ無いじゃない。ねっ、このみ」

「そうだよ。タカくん。迷子になって、泣いていたこのみをタカくんが迎えに来てくれた頃から、タカくんのことが大好きだよ。    ほかの誰よりも。このみは、あの頃から、なんにもかわってないよ。                                               ず〜とタカくんの妹だし、タマお姉ちゃんの妹だよ。                                                   だ・か・らねぇ…」

ちらっと、こっちを見るこのみ。                                                                       えっ?何今のは?あっ〜こら〜、まさか…このみ…だめだって、何も言うなこのみ。もし、もし…

「タカくん。タマお姉ちゃんと結婚して。そうしたら、このみは本当に二人の妹になれるから」

言っちゃったぁ…どうしよう…拒絶されたら、やっぱりタマ姉とはそんなこと考えられないとか言われたら…

「こら、このみ何を言うの」

「このみ…それはちょっとなぁ」

「なに、タカくんは、タマお姉ちゃんが嫌いなのでありますか?タマお姉ちゃんとは結婚できないとでも…」

「でも、僕はよくっても、タマ姉は、どうかわからないんじゃない。それにそんなに急には…」

もう、こうなったら仕方がない。

「私はいいわよ」

「えっ?」

「やった〜であります。決定〜。タカくん、聞いた?タマお姉ちゃんOKだって!だって!」

「ちょっと、タマ姉、本気?」

「も、もちろんよ。それとも、私じゃ不満?」

「そんなことないけど、僕、まだ、ささらのことを引きずってるし…そんな状態じゃ、タマ姉に悪いし」

「大丈夫よ、私が忘れさせてあげるから」

「うわ〜。はずかしくなってくるよ。顔が赤くなってるよ〜タマお姉ちゃん。いいのかな、このみいてても。お邪魔じゃない?」

「あたりまえじゃないの。このみは二人の妹なんだから…ね。タカ坊」

「え〜っと」

「何?なにか問題でもある?私と結婚するのいや?」

と強気にはでてみたものの、内心ひやひやもの。

もし、結婚の対象じゃないといわれたらどうしよう…と、それだけが心配。

「えっ、そうじゃないけど…こういうプロポーズは…、できれば、僕の方からしたいんだけど…」

かわいい。食べちゃいたい。

「うん。わかった。じゃあ、今日は私の気持ちを知ってくれただけでいいわ。                                               タカ坊がプロポーズしてくれるまで待ってる。それでいい?」

「…うん」

「やったであります。婚約成立…だよね…えへへ」

このみ、ありがと。

このみに目で合図すると。このみは照れながら、へへっと笑って返事してくれた。



 

 

――― プロポーズ ―――



 

そして、ついに、その日が訪れた。いつものように、タカ坊の家に行って食事をして、お茶を飲んでると、タカ坊が急に、

「タマ姉、話があるんだ」

きたーーーーと身構えた。でも、きづかれないように、

「ん?なに?」

「タマ姉。今日タマ姉の誕生日だよね。だから…プレゼント。                                                      タマ姉…ううん。向坂環さん。まだまだ、未熟だし、ささらのことも忘れ切れていないんだけど、僕と…僕と…結婚してください!」

彼は、そう言って指輪を差し出した。これ以上無いぐらいうれしくて、なんとなくわかってたんだけど、それでもうれしくて…。

「まだ、学生だし、本当に結婚するのはまだ先にしたい。                                                      その時には、ちゃんとした指輪を贈るから、それまでは、この指輪が僕の気持ちです。                                    今の精一杯の気持ちです」

ちゃんと男の子してるんだ。                                                                       あの時、九条院へ行くことが決まった小学生の時に、彼から欲しかった言葉。                                          あれから十数年経って、ようやく、この言葉が彼の口から聞けた。

一時は、もう一生この言葉は聞けないと思っていたのに…やっと…やっと聞けた。

あまりの感動に、「私でよければ、末永くお傍においてください。」なんて、柄にも無い返事をしちゃった。

彼に、指輪を左手の薬指にそっとはめてもらった時には、知らない間にわたしのほほを涙が流れていた。

「タマ姉、僕には、タマ姉しかいないって気づいたんだ。                                                      遠回りになったけど、よく考えたら、今までに、僕に一番優しかったのはタマ姉だったと思う。                                 それに、タマ姉は、このみにも優しいし、大きなもので、僕や僕たちを包んでくれてるように思う」

一息おいて彼は続けた。

「出会いは、偶然が作ってくれ、そして、恋はそれぞれの魅力が作ってくれた。                                           でも。愛は、待ってるだけじゃだめなんだってわかったよ。だから、僕も変わっていこうと思う。タマ姉と一緒に」

「ありがとう。タカ坊。愛してる」
「僕も愛してるよタマ姉」

そうして、まるでそれが、誓いのキスであるかのように…お互い、唇を、重ねた。

唇を離すとひとつ疑問が…ぴったりだった…指輪。                                                             なんで、私の指輪のサイズを知ってるんだろう?こんな器用な男の子じゃないはず…

「ねえ、なんで、私の指輪のサイズ知ってるの?」

「うん?このみに聞いたよ。だから言っただろ。僕も一緒に変わって行くって。                                            この間の土曜日は、この指輪をこのみと取りに行ってたんだよ。」

「そうか、じゃあ、このみを裏であやつっていたんだ…」

「ち、違うよ。協力してもらったんだから…ねえ、このみを呼んでもいい?」

「うん。もちろんよ」

というと彼は、携帯でこのみを呼び出す。

ぱたぱたと靴音が近づき、玄関のドアをあける音がすると同時に、 このみの声が響いた。

「タマお姉ちゃんおめでとう。よかったね。このみにも指輪見せて」

はずかしい。まるで、顔から火がでそう。きっと真っ赤になってるわ。                                                でも、うれしくて、このみも祝福してくれるとわかって…涙がとまらなくなるじゃない。

「ありがとう。ぐすっ、このみ。あじがとうね、タカ坊。幸せにしてあげる」

「ん?タマ姉、それ反対だよ、幸せにしてねでしょ?」

「ううん。私が幸せにしてあげるの」

「タマ姉…」

「…ねぇ、ねぇ、二人とも、自分たちの世界に入るのはいいけれど、このみがいるのも忘れないでね」

――― エピローグ ―――

時間つぶしのコーヒーショップを出て、タカ坊との待ち合わせ場所の駅前のモニュメントに来た。                            あっ、いた。このみももう来てる。

「あっ、タマお姉ちゃん」

「じゃあ、行きましょうか」

今日はみんなで春夏さんのプレゼントを買いに来たの。春夏さんにはタカ坊が、いろいろお世話になったから、そのお礼に。

「タカ坊、そういえば、ささらさんから、その後連絡とか無いの?」

「ん?ないよ。一度だけこちらから、タマ姉と婚約しましたって手紙は出したけど、返事は返ってきてないよ」

「気になる?」

「ううん。もう、僕にとって必要な人はここにいるから」

「きゃー、あつあつねぇ、タカくん。このみ帰っちゃおうかな?」

「でも、まだ好きなんでしょ?あなたは、そんなに器用な人じゃないことは知ってるわよ」

「うん。そのとおりだけど、タマ姉と一緒に僕も変わるって言ったでしょ。                                             タマ姉みたいに、まっすぐ前を見て生きていくよ。                                                           いつまでも、ささらをひきずってても仕方が無いし、それに大事な妹も一緒だしね」

このみを見るタカ坊の目が優しい。

「タカくん…ありがと…」

「タカ坊。相変わらず、やさしいのね」

「じゃあ、このみ、次はこのみの番ね。タカ坊に負けないような、すばらしい将来のだんな様を見つけなきゃ」

「うん…」

こころなしか、顔が赤いような…私の気のせい?

あっ、もしかして…

「このみぃ〜。もしかしてぇ〜」

「…うん…あのね、実は…」

「うん?」って、相変わらず鈍いわねタカ坊は…。

「その、そうなのでありますよ隊長。                                                                 前にね、遅くなった時に家まで送ってくれて、                                                                 …あのね…から、…って、……とっても…タカくんみたいに優しくって…暖かくって…」

そうなの、このみ。よかったわね。今度は、私たちのために尽くしてくれたあなたに協力するわ。                              

あなたが信じた人は最高のはずだから、タカ坊がそうであったように。                                               

このみったら、顔を真っ赤にしながら、一生懸命説明して。                                                        

そうよ、好きな人にはいつでも一生懸命でなけりゃね…そう、あのときのように…

…………………………………

「た…単刀直入に言うから良く聞きなさい。タカ坊私のこと好き?」

「へ?えと…うん。タマ姉」

「あ…う…」

「それがどうかしたの?」

「あ…え…だから、今日から…タ…タカ坊は私の恋人。決定したから」

「ええっ?何それ。聞いて無いよ」

「もう、タカ坊が告白したんだからちゃんと責任とるの。じゃあ誓いの言葉ね」

「誓いの言葉?」

『タカ坊は生涯私のことを愛することを誓います。                                                          もし、私たちが離れ離れになることになっても必ず再会して、思いを添い遂げることをここに誓います。』

宣誓後、タマ姉の唇が、そっとほほに触れる…

私も誓います。絶対、離れない…離さない…タカ坊…

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