桜のご先祖様
あれから、毎日、タカ坊と一緒に登校してる…正確には4人でだけどね。 お昼はみんなで、お弁当をかこんでわいわいと。帰りも一緒に下校。 なんだか、校内では有名になってるみたいね私たち。 私にとっては、タカ坊を独占できるのはいいけれど…このままじゃ、進展のしようがないわね。 でも、一足飛びにすすめるのは、怖いし…。
そんな、ある日曜日、私はなんということもなく、ぶらぶらと買い物へ。 タカ坊を誘いたかったんだけど…一応電話したんだけど、留守電になってたし、仕方ないからひとりで、ぶらぶらと。 コーヒーでも飲もうと喫茶店へ入ったら、なんと!タカ坊と愛佳さんが…。 気付かれないように、彼らの死角になるテーブルに陣取って、ダンボの耳をして二人の会話を聞いていた。 幸い、店は静かだったのでおおよその内容は聞き取れた。
「たかあきくん、今日は、どうも付き合ってくれてありがとう。学校の買い物だったのにごめんなさい。」
「いいよ、愛佳。いつもお世話になってるから。このぐらいでお返しが出来たら嬉しいよ。」
「最近は、向坂先輩といつもいっしょだから、あんまり、話も出来ないしね…。」
「うん、タマ姉も悪気はないんだけど、ああいう性格だから、いったん決めたら、猪突猛進っていうか…なんていうか」
おうおう、言ってくれてるわね…これというのも、あなたが鈍感で、女の子を侍らしてくるからじゃないの…。
「ねえ、たかあきくん。向坂先輩って、たかあきくんの事が好きなのかな?」
「じょ、冗談じゃない!そんなことがあるはずないじゃないか。タマ姉は単なる幼馴染だよ。このみが単なる幼馴染の妹っていうのと同じで単なる幼馴染のお姉さんだよ。」
「そうなんだ、よかった〜。」
「なんで?」
「あっ、なんでもない…えへへ」
…そ、そうなんだ…一生懸命やってるのに…
…単なる幼馴染のお姉さんなんだ…
あれっ?これなに?涙?あはは…どうしたの私? …ひどいよ、タカ坊…じゃあ、やさしいそぶりを見せないでよ …どうして、そんなにさらっと、他の女の子に言えるの?
私の気持ちはどうなるの?
涙はすぐに止まったけれど、彼の言葉は、大きく私の心に響いていた。
…幼馴染のお姉ちゃん…か…。
「じゃあ、そろそろ帰ろうか?」
「うん、私が払うから…」
「いや俺が…」
………
「じゃあ、たかあきくん、お願いします。」
二人が、出て行くときに、ばれないように隠れていたんだけど、タカ坊にしっかり、みつけられてしまった。
「あれっ?タマ姉?いたの?」
「え、えぇ、私も途中で貴方たちがいるのに気が付いたんだけど…お邪魔したら悪いかな?なんて思ってね…私も帰るわ。」
「じゃあ、一緒に帰ろう。」
う〜がまんできない…
「あ、あなたは、愛佳さんと帰りなさいよ!私は単なる幼馴染のお姉ちゃんなんだからお邪魔でしょう?じゃあね!」
「タマ姉…なに怒ってるんだよ。」
「あ…あなたは…あなたには、一生…わからないわよぉぉぉぉ」
私はそのまま、レジにお金を置いて飛び出していった。 心のどこかで、タカ坊が追いかけてきてくれるんじゃないかと期待しながら…でも、来てはくれなかった。 あんな小娘の前でなんて醜態をさらしちゃったんだろう? 明日からどんな顔をして彼に会えばいいんだろう?誰か教えて。
家に帰った私は、そのまま、部屋に入って、夕食だと告げに来た雄二にいらないから放っておいてくれと言い放つと、不貞寝していた。いつの間にか寝込んでしまい、夢を見ていたような気がする…。そして…目が覚めたのは、真夜中…時計を見ると2時だった。私は何かに引かれるように部屋を出て、庭の桜へ。そこには、いつか夢の中で見たままの人物が私を待っていた。
「やっと、会えましたね。」
「あなたは、夢の中でお会いした…たしか…あさひさん。」
「ええ、あなたは、私とは違って強い心をお持ちの人だから…と思って見守らせて頂いていたのですが、私の力をお貸しする時が来たようですね。」
「えっ?」
「今日のことは、全て見させていただきましたよ。」
「す、すべて、見てたのですか?」
「はい、私は、あなた。あなたの中にわたしはいるのですよ。わたしは、成就できない恋を成就させるために、この桜に宿っているのです。この桜が枯れない限り、私は、この家のすべての恋する女の子の味方です。」
じゃあ、今日のことは全て知ってるんですねと聞くと、彼女は無言で頷いた。 私は、今日の醜態を反省して、明日からどうしようかと、彼女に相談を持ちかけた。 彼女は、私の言うことに無言で頷き、微笑みながらこう言った。
「…安心しなさい…明日になれば…全て…解決していますよ…明日になれば…必…」
突然の目覚ましの音で目が覚めた私は、あわてて、周りを見回した。 あれ?庭にいたんじゃなかったかしら?それとも、昨日のことは夢だったのかしら?
目覚めのぼんやりした状態から、だんだん、意識がはっきりしてくると、逆に、昨日の喫茶店での一件が思い出されてきて、憂鬱になってきた。あさひさんは、夢の中で(?)『明日になれば…』って言ってたけど、何も変わるはずないわよね…どんな顔をしてタカ坊に会えばいいのかしら…。
でも、休むわけには行かないから…行こうかと立ち上がったとき、一枚の桜の花びらが床に散るのが見えた。桜?こんな時期はずれに?まさか…ね…きのうのは、夢よ…ね。
雄二に引きずられるように学校へ行くといつものところで、タカ坊と出会った。
「おはよう、タマ姉。」
まるで、昨日のことは忘れたように声を掛けてきた。タカ坊なりの優しさなのかな?今の私にはちょっとつらいけど…
「お、おはよう、た、タカ坊。」
「あれ、タマ姉元気ないね。」
「だろ、朝から、こんな調子なんだよ。なんか勘狂っちゃうよな。ところで、今日もこのみは朝練か?」
「ああ、そうみたいだよ。毎朝ご苦労さんだよね。」
えっ?朝練?何のこと?このみは昨日も一緒に学校に行ったじゃない?
「このみ、なにかクラブ始めたの?」
「なに言ってんだよ姉貴。このみは、入学初日から陸上部でガンガンやってんじゃん。」
「?」
何のことだろう?話が見えない。
「おはよう、河野君。」
あっ、この声は、愛佳さんだ。一番会いたくない娘に会っちゃったわ…
「おはよう、委員長。」
「また〜、私は委員長じゃありませ〜ん。」
えっ?河野君?委員長?いつから呼び方変えたのかしら?
タカ坊が顔見知りの女の子たちも通り過ぎて行ったけれど、ほとんど、挨拶を交わすことなく学校についた。
「雄二、タカ坊に声かける女の子って少ないね。」
小声で、雄二に聞いた。
「あたりまえじゃん、『歩く玄武岩みたいな』たかあきに女の子がそうそう寄り付くはずないじゃん。」
「そ、そうか…な。」
ん〜どうしたんだろう?あまりにも昨日と変りすぎで…まさか…これが、あさひさんが言ってたことかしら?あれは夢じゃなかったのかしら…。
その日は一日中頭にクエッションマークが…でも、他の女の子がタカ坊の周りにいないって、本当に幸せ。 タカ坊たちも昨日の一件は忘れてるみたいだし…あさひさんの力ね、これは。今日お礼を言わなきゃね。
その夜、遅くなってから庭の桜の木へいくと、案の定、あさひさんがいた。
「あさひさん。どうもありがとうございます。全て、あさひさんのお力ですよね。」
私は心の底からお礼を言った。
「いいえ、私の出来るのは、ここまで。彼の心をあなたの虜にするためには、あなたが動かなければなりません…それは…彼に、告白することです。恐れてはいけません。勇気を出して…大丈夫です。私がついています。」
「わ、わかりました。必ず…。」
その答えを聞くと彼女の姿はぼんやりとしてゆき、霧の中に溶け込んでいった。