春休み
今日から、タカ坊たちは春休みに入った。私の大事なタカ坊を他のメスネコどもに狙われないように…毎日…
「タカ坊」
「…」
「タカ坊…朝ですよ…起きなさい」
「う、う〜ん」
起きないわね、じゃあ、私もベッドに潜り込んじゃおうっと…。 シーツに潜り込むとタカ坊の背中から両手を回して、優しく抱きしめて…タ・カ・ぼ・う、起きなさい…って、耳元でつぶやく。 タカ坊の背中はいいわ、広くて…タカ坊のにおいがして…
「う〜ん?あれ?うわっ、誰?タ・タマ姉?あ〜びっくりした。」
「びっくりしなくてもいいじゃないの。せっかく、タマお姉ちゃんが起こしに来てあげたんだから…」
「また、勝手に入ってきて、もういい加減にしてよ。」
「だってぇ〜タカ坊が一人で食事とか、お洗濯とか、お掃除とか大変だろうから、タマお姉ちゃんがしてあげようと思ってきたの に…だめなの?」
泣きまねをしながら、ちょっと甘えてみる。タカ坊は、これに弱かったはず…
「えっ?いや、そんなことをタマ姉にしてもらったら悪いし…」
ふふふ、案の定ね、もう一押し。
「そうか…タマお姉ちゃんじゃない女の人がやってくれるから、タマお姉ちゃんはいらないんだ…そうなんだ。」
言いながら、タカ坊に背中を向けた。
「そ、そんな女の人はいないよ。」
「じゃあ、いいでしょう?」
「そういう問題じゃなくって…」
「問題ないなら、起きる!タカ坊。」
「タ・タマ姉…」
と言いかけたタカ坊を無理やりベッドから引きずり落として、ベッドのシーツや枕カバーをまとめて、洗濯かごに放り込んだ。
「タカ坊、早くパジャマ脱ぎなさい。洗濯するから」
「いいよ自分でやるから…」
いいから脱ぎなさいと、脱がせていたときに、階段を上がる音が聞こえた。 ドアを勢いよく開ける音がして、飛び込んできたのはこのみだった。 ここに来る前に来るように連絡しておいたので、飛んできたんだ。 目をキラキラ輝かせて、私に飛びついてくるこのみ。
「タマお姉ちゃ〜ん。お帰りなさ〜い。」
「ただいま、このみ元気だった?」
「うん、元気だよ。帰ってきたんだね、これから、ず〜とこっちにいるの?」
「ええ、これからはこっちに住むからいつでも会えるわよ。」
「やた〜。このみうれしい〜。」
「私もよ、このみ。」
久しぶりに抱きしめた『このみ』は私の妹分。だれにも渡せない私の妹分。 この娘に彼ができたらどうしよう?もし、タカ坊だったら諦めるしかないけど…他の男の子なら…
「ところで、何してるの?」
このみは、パジャマを脱がされかけているタカ坊と私を見比べて聞いてきた。
「今日は、タカ坊の家の大掃除するつもりだから、このみも手伝って。」
「もちろん、了解であります、隊長。」
さて、とタカ坊のほうに振り返り、パジャマをと思ったんだけど、先にタカ坊が自分でやるから下に下りておいてくれと懇願。じゃあ仕方ないわね。
「タカ坊、下で朝ごはんを用意しておくから、着替えたら下りてきなさい。このみも食べる?」
「食べるであります!」
「じゃあいきましょう。」
先に二人で下りていった。そういえば、雄二はどうしたのかしら?そろそろ来るはずだけど…。
このみと食事の準備をしていると、タカ坊が下りてきた。 ほぼ同じころに雄二も到着。久しぶりにみんなで、食卓を囲んだ。
「さて、食事も終わったし、大掃除にはいりますか?」
「いいよ、タマ姉。自分でやるから…。」
「タカ坊、勘違いしないでね…掃除はタカ坊のところだけじゃないんだからね…」
「えっ?どういうこと?」
「タカ坊ん家が終わったら、雄二の部屋、それから、私ん家の蔵の中もね…。」
「えっ?どう…」
どうして言いかけて、タカ坊は私の顔をみて固まってしまった。 私はいつものように、微笑みを浮かべながら…タカ坊や雄二に言わせると微笑ではないそうだが…聞いてみた。
「タカ坊、何か問題あるの?彼女さんとデートでもあるの?」
「い…いえ、なにもありません。」
「よろしい。うふふ。」
がっくりと肩を落としている二人を見ながら、掃除とお洗濯にかかった。 このみはお洗濯、私はお掃除。もちろん、あとの二人は雑用という名のどれいね。 結局、丸一日かかったけど、タカ坊の部屋からは、お約束の大人の本も発見できたし…。
「タカ坊、これ何かしら?」
タカ坊の前に数冊の本をヒラヒラさせると、しまった…という顔をするタカ坊。 あ〜あという顔をする雄二。なんだろうと覗き込んでくるこのみ。
「タカ坊?『巨乳メイド、ご主人様にご奉仕 チュ!』って、どんなことをご奉仕するのかな?『巨乳新妻…』ふ〜ん?」
「…」無言のタカ坊。
「タ・カ・くん。こんなの見てるんだ…、でもお母さんが、男の子はそういうもんだって言ってたから、このみは、へ、変に思わないよ。でもタカ君って、おっぱい大きいのが好きなんだ…」
残念そうに、じーっと自分の胸を見てるこのみ。
「まあ、いいわ。私が始末してあげる。い・い・わ・ね。」
「はい、タマ姉の仰せの通りに…」 と言ったタカ坊は、なんだかほっとした様子だった。ふふふっ。
「それから、タカ坊、ベッドとは別のところにあったやつも、一緒に処分しておくね。」
私の声を聞くや否や、タカ坊の顔色が変り、ガクッと力が抜けるのが見えた。 お姉ちゃんを騙せる訳がないのよ、タカ坊…ふふ。
夕食を食べてたあと、タカ坊の入れてくれたコーヒーをのみながら、明日からの話を…
「でも、きれいになったわね。タカ坊。」
「うん、大変だったけど、よかったよ。ありがとう。みんな。」
「じゃあ、明日は、雄二の部屋、それから…ということで、朝9時に集合ね。」
「本当にやるの?タマ姉?」
「あら?何か不服でもあるの?タ・カ・坊?」
「…いえ…ありません。」
タカ坊ん家に比べると、わが向坂家は、とてつもなく広いので、掃除のしがいはありそう。 もちろん、一日、二日で終わるもんじゃないわね。私とこのみは、主に、食事担当。 あとは二人でお茶飲みながら昔話に花を咲かせて、二人にがんばってもらったわけ。 さて、どうかな?と様子を見に行くと、二人で蔵のお掃除。 これはちょっと大変だろうから手伝ってあげようと中に入っていった。
「どう?進んでる?」
「姉貴よう。どうしていいのかわからないものが多くて進まねえよ。たとえば、これなんかどうするんだ?第一何が書いてあるか分からないし…」
どれどれ、と一冊の本を手にした。古いけれど表書きは達筆ね。女性の字だわ。え〜と、あ・さ・ひ・め・に・き。
「これ、たぶんだけど向坂家のご先祖様の日記よ。たぶん女の人ね。あとで読んでみよ。私の部屋に運んどいて。」
そんな日も何日かが過ぎて、春休みも最後の日が来た。 もちろん、お掃除だけじゃなく、みんなにはいろいろ、近所への奉仕活動、子供たちの相手、町内の野球大会なんかも含めて手伝ってもらった…たぶん、みんな、特に、二人はくたくたに疲れているはず。 私とこのみは、手はずを整えてから、二人を呼びに行った。
「二人とも、春休みはご苦労様でした。こっちで、お花見の準備が出来たからいらっしゃい。」
「えっ?花見?」
二人は、私についてきた。
「うわ〜。気が付かなかったけれど、満開なんだね。」
「本当だ、毎日姉貴にこき使われていたから、気が付かなかったぜ。」
「じゃあ、二人とも座って。」
私とこのみは、お料理や飲み物(すこしだけアルコールも…)を運んできた。
私はみんなの前で正座をして乾杯の前に、みんなに素直に頭を下げた。
「みんな、どうもご苦労様でした。私が、長い間留守にしていたので、私がやりたかった事や、雄二がしていなかった近所様との交流なんかも出来て本当に感謝してます。春休みをつぶしてしまって、ごめんなさい。いつか、埋め合わせはするからね。そして、雄二、このみ、そしてタカ坊。タマお姉ちゃんのワガママにつきあってくれてありがとう。」
「タマお姉ちゃん、全然問題ないよ。気にしないで欲しいであります。」
「いいってことよ、姉貴。気にしなくて良いぜ。」
「タマ姉、気にしなくて良いよ。初めは、何でこんなことさせられるんだろうと思ったけど、途中で気が付いたから…。」
本当に、みんな良い子ね。
「じゃあ、乾杯しましょうか?」
「かんぱ〜い。」
「ひょ〜、ごちそうじゃん。姉貴が作ったのか?」
「このみも手伝ったのでありますよ!」
「うん、タマ姉おいしいよ。それに、桜もきれいだね。」
カシャ!カメラの音?…このみね。
「このみ、だめよ、私をとっちゃ。はずかしいじゃないの…最近ちょっと太ってるんだから…」
「タマお姉ちゃん。全然。かっこいいでありますよ。桜にあまりにも似合ってたから…。タカ君もとっちゃおう。」
「やめろよ、このみ。じゃあ、このみもとってやる。カメラ貸せよ。」
「こ、このみはいいであります。最近、ちょっと…」
みんなでお花見するのって久しぶりね。 私が九条院へ行く前だから、このみなんて幼稚園ぐらいだったかしら…。 桜の枝を折って、しかられたっけ…。
「姉貴、ところでよ、この間、蔵で見つけた誰かの日記だったっけ、あれ何か分かった?」
「日記?えぇ、あれはね…」
雄二が見つけた日記らしき本はかなりの冊数になっていて、全部は読みきれていなかった。 でもおおよそのとことろは分かっていた。
「あれはね、やっぱり日記だったわ。書いた人はね、どうも、うちのご先祖のようだけど、名前がはっきりしないの。 『あさひ』か『あさ』さんだと思うの。そんなに古い人じゃなくって明治時代の人のようよ? どうも、この桜を植えた人らいしいの。当時、向坂家は一応貴族の一員だったから、深層の令嬢というところかしら。 詳しくは読めてないんだけど、どうやら、身分の違う人を好きになったんだけど、両親に反対されて、その失意をこめてこの桜を植えたらしいわ。身分の違いで結婚が邪魔されないときが来ますようにって…。今は、そういう時代だから、願いはかなったのかもしれないわね。」
「へぇ〜、そうなんだ。そう思ってみると、この桜もなんだか違って見えるね、タマ姉。」
「はしゃぎまわっちゃいけないような気がしてきたであります。」
「いいんじゃない?たぶん、その人は、今の私たちを見て、そのへんで微笑んでいると思うわ。」
そのとき、一陣の風が吹いてきて、花びらをいっそうたくさん、散らせて行った。
「ほら、たぶん、しっかりがんばってっていう意味じゃないかしら、今の風は…」
なんだか、たくさん散っていった花びらの中に人影が見えたような気がした。 もちろん、目の錯覚だと思うけど、女の子には恋の悩みが一番おおきな悩み…いつの時代も変らないのね… せっかく身分に邪魔されなくい時代になってるんだから…絶対、タカ坊を…
さあ、明日から、学校だしがんばろう。びっくりするわよね、みんな…たぶん…おんなじ学校だと知ったら…ふふっ。