べ、別に気にしてないんだからね

「ふん、ふん、そうか…あたしって、思春期に入院してたもんな…ホルモンが…ふん、ふん」
 
「い〜くの、何読んでるの?」
 
やば、お姉ちゃんだ。
あたしは、慌てて本を閉じると、後ろ手に隠してお姉ちゃんのほうに向き直った。
 
「あ、べ、別に大したものじゃないから、お、お姉ちゃんには関係ないものよ。そう、お姉ちゃんにはね」
 
「え〜、お姉ちゃんに隠し事するの? お姉ちゃん悲しいな…」
 
「あぁ、うるさい、うるさい、うるさい。
 動物じゃないんだから、あたしにも、知られたくないことのひとつぐらいあるの! 
 もう部屋から出てってよ」
 
「そう〜? 郁乃〜相談事があったら言ってね〜」
 
お姉ちゃんは、そういいながら、自分の部屋へと消えていった。
 
ふぅ〜助かった。
これ、見られると、恥ずかしいからな…
 
 
『バストアップの方法』
 
これが、今隠した本の題名。
 
なぜ、こんな本を読んでるかって、説明する必要はないはず。
年頃の女の子には永遠の課題だからだ。
 
なんたって、今のあたしには、あいつをあきらめて次の恋を探すことがこそが重要。
 
でも、問題が…
 
そう、この貧弱な体なのよね。
お姉ちゃんは、まあ、理想的なスタイルだし、その上、あの性格でしょ。
男が放っておく訳はないはず。
 
それに引き換えあたしは…
性格悪いし…
ぶっきらぼうだし…
お姉ちゃんみたいに、へらへら笑わないし…
その上、この貧弱な体ではね…
 
だから、なんとかバストアップぐらいは、と考えてるところ。
でも、こんなことお姉ちゃんには死んでも知られたくない。
いくら姉妹だからって、知られたくないことはある。うん。
 
本を読んで分かったことは、どうやら、いろいろな方法があるってこと。
でも、どれが効果的なのか良くわからないな。
誰か、相談できると良いんだけど…
 
このみはねぇ…あたしより貧弱だしな…毎日牛乳飲んでるって言ってたけど、効果なさそうだし。
他にはね…珊瑚? あたしといい勝負だし、そんな事を気にする奴じゃないし、
瑠璃は、結構、まし…かもだけど、あの意地悪な奴が、あたしに教えてくれるはずはない。
 
他には、あ! そうだ、よっち。
お姉ちゃんより、『ぼんきゅぼん』だもんね。
 
そうだ、このみにお願いして、彼女に相談してみよ。
思い立ったら吉日っと? 電話してみよ。
 
とぅるる…
「はい、このみだよ」
 
「あ、あたし、郁乃。元気?」
 
「いくのん、元気だよ…って、昨日学校であったよ」
 
「あはは、そうか、あのさ、このみに頼みがあって電話したんだけど、
このみさ、よっちと会うことある?」
 
「え? よっち? 今、ここにいるよ」
 
「え〜ほんと? ね、ね、今からそっち行っていい? よっちに相談があって…」
 
「ちょっと待ってね、聞いてみる……ねぇよっち、いくのんがよっちに相談があるんだって、今から行ってもいいって聞いてるよ…え? かまわない? …いくのんOKだって」
 
「じゃあ、すぐ行くから」
 
あたしは支度をすると、お姉ちゃんに、このみの家に行ってくると言って家をでた。
 
このみの家の呼び鈴を押すと、二階の窓からこのみが首を出した。
 
「あ、いくのん、今から行くからちょっと待ってて」
 
このみの部屋に入ると、よっちとちゃるが来ていた。
 
「あ、いくのん、オヒサ〜」
 
「郁乃、久しぶり」
 
相も変わらず、好対照な二人だこと。
そういえば、スタイルも好対照だわね。
ちゃるって、あたしと同体型?
 
「ところで、わたしに相談って何ッスか?」
 
「こ、これを頼めるのは、世界広しといえど、よっちさんしかいなくって…
…じ、実は…あ、あのさ、は、恥ずかしいんだけど、だ、誰にも言わないでね。
バ、バストアップの方法教えて下さい!」
 
「バストアップ? お〜お〜 そうか、そうか、小牧妹も遂に色付いてきたか。
まあ、センパイと小牧姉にいちゃいちゃされれば、しかたないッスよね」
 
「郁乃、こんなのに聞いても無駄。これは、脳に行く栄養が胸にまわってきただけ」
 
「あ〜ちゃる〜そんな言い方は無いッスよ。これでも、努力はしてるんッスから」
 
「胸に回った分だけ、追試が増える。今回は、何科目だ?」
 
いや、だから、その、二人で掛け合い漫才しないでほしい…あたし、真剣なんだから…
 
「もう〜ちゃるったら〜。
まあ、それはそれとして、え〜っとッスね。
一番いい方法は…やっぱ、揉みまくる〜」
 
と、言いながら、両手をわきわき動かしながら近づいてくる。
いや、ちょっと待て、それ、単に触りたいだけだろ…
そ、そうだ、忘れてた。
この二人スキンシップの塊みたいなキャラだったんだ〜
 
「ちょ、ちょっと待って、こっちへ来るな〜。
それってホントなのか〜? 迷信だろ〜やめろ〜」
 
「いや、いや、あながち嘘でもないみたいよ。
マッサージとか運動の方法ってあるんだ、本当に。
後で、教えるッス。
それから、食べ物。
豆乳とキャベツが良いらしいけど、私は豆乳嫌いだから、主にキャベツを主食にしてま〜す。
あとは、サプリとかあるみたいだけど、あんまり効果あるってきかないッスね」
 
ふむふむ、やっぱ、努力してるんだな。
 
このスタイルは、その成果なのか?
それとも、ちゃるが言うように、単に体質なのか…
でも、あたしだって、お姉ちゃんを見てたら、
そういう遺伝子が無いってことはないと、思うんだけど。
 
「でも、結局、一番手っ取り早いのは…それ用のブラだって。
 寄せてなんとかってやつ? いいよ、あれ。
最近は、寝てる間にバストアップしてくれる便利なものもあるらしいッスから」
 
そ、そんなのがあるんだ…ん?
一回、百貨店にでも見に行ってみようかな…
ん? ちょ、ちょっとなんで、あたしの後ろに回りこむんだ…
あ、油断した、やばい。
 
「じゃあ、ここいらで、よっち様直伝のマッサージの実地訓練を…
このみ〜ちゃる〜押さえ込め〜」
 
「了解であります!」「了解」
 
「や、やめろ〜このみ〜友達だろ〜 や、やめろ〜ははは、くすぐったい〜さわるな〜」
 
……
………
 
「…ということで、大体わかったッスか?」
 
「…うぐっ…」
 
疲れた…
ホントにマッサージなんだろうか…?
なんだか、単に触りたかっただけじゃないのか?
相談したあたしがバカだった…かも。
 
そんな、あたしに、ちゃるが声をかけてくれた。
 
「郁乃。よっちみたいな巨乳も魅力的だけど、最近は貧乳もステータス。
結構、それなりの需要はある。心配しないでも大丈夫。
わたしの描くキャラも、そういうキャラのほうが人気は高い」
 
そういう考えもあるんだ…そうか、そうかもね。
 
「そ、そうかな?」
 
「そう、このみも結構需要はある。非公式ファンクラブまである。
胸の大きさだけが、女の魅力じゃない。
大事なのは、当人のキャラ。
郁乃は、そのスーパーツンデレキャラで、男を撃ち落せば良い。
それに、見栄えもそんなに悪くない。
大丈夫だ、問題ない」
 
ツ、ツンデレ! あたしが?
そ、そういうふうに見えてるのか…
 
じゃ、じゃあ、
『うるさい、うるさい、うるさい』とか
『べ、別にあんたのために、やったんじゃないんだからね』
とか言うのか……あ………そ、そういや、言ってる…かも。
 
「そうッスよ。
 いったん、引きつけて好きにさせたら、
 後は何でもありなんじゃないかなって思うッスよ。
 あばたもエクボって言うしね」
 
「そうそう、いくのん、かわいいんだから、自信持てば、大丈夫でありますよ」
 
ありがとね、みんな。
 
 
その後、よっちやちゃるの体験談などを交えながら、
4人で恋愛談義に花が咲いてしまったものだから、家に帰ったのは夕食時になってしまった。
お姉ちゃんに怒られるかな?
 
「…ただいま〜」
 
恐る恐る家に入ると、見慣れた男物の靴が。
来てるんだな、あいつ。
 
「おかえり」
「おかえり、郁乃、遅かったのね、先に食べちゃおうかって、今話してたところだったのよ」
 
「ご、ごめん。ちょっとみんなで話し込んじゃってさ、あぁおなかすいた」
 
「じゃあ、ごはんにしましょう」
 
あたしは、食卓に向かいながら、あいつに向かって釘をさしておいた。
 
「ところで、あんた、あたしがいないからって、
姉に何かしてたんじゃないでしょうね、変なことしたら殺すからね」
 
「何もしてないって、やだな郁乃ちゃんったら、ははは、さあ食事にしよ」
 
「あんたに言われなくても、そうします。ここはあたしのうちですから」
 
あたし達は、食卓につくと食事を始めた。
そうだ、いい機会だから聞いてやろ。
 
「ねえ、あんたさ、姉のどこが良かったわけ? 
優柔不断だから、いらない仕事ばっかり引き受けてくるし、
すぐ泣くし、甘いものには目が無いし…」
 
 
 
「まあ、たしかにそういうところもあるけど、やっぱり優しいところかな」
 
「貴明くん…」
 
やさしい…おせっかいの間違いじゃないの?
やさしい…かな? でも、結構うっとうしいよ、この姉は…
 
ははは、そか、そう言うこと…か。
あばたもエクボ…か。
 
じゃあ、あたしも、自分のキャラを磨くかな…ツンデレ…か。
 
「はいはい、どうも、ごちそう様でした。でも、姉に変なことしたら、ぶっこぉすわよ」
 
こんなもんかな?

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ツンデレいくのんでした。いくのんもお年頃ですので、胸の大きさは気になるところ。まして、愛佳おねえちゃんは…ですから。

でも、そんなこと気にしなくても、いくのんは可愛いです。では、ツンデレ道を磨いて下さい。 ↓よろしければ、ポチっとお願いします。作者の創作意欲が高まりますので…

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