出会い(郁乃) 後半
「郁乃おはよう〜。」
あっ、お姉ちゃんだ。
っていうことは、今日は日曜か…曜日の感覚なくなるもんね、ここにいると。
「おはよう、お姉ちゃん。あれっ?今日は、あいつは?」
「ふふっ、来ないと寂しい?」
「そ、そんなこと無いよ。来なくて清々してる。」
「今日は、友達と買い物だって。」
ふ〜ん。そうなんだ、じゃあ、ちょっといい機会だから聞いてみようかな?
「あのさ、お姉ちゃん。お姉ちゃんって、あいつと付き合ってるの?あいつのことが好きなの?」
言ってから、振り返ってお姉ちゃんを見たら、ベッドのそばで固まってた。
あちゃ〜、しまった〜、言うんじゃなかったか?大丈夫かな、息してるかな?
「ねえ、お姉ちゃんってば!」
お姉ちゃんの肩をつかんで、揺すぶって、大きな声で呼びかけてみたら、ようやく動き出した。
「あわわ、わわ、い、い、いく、郁乃?何?」
「もういい、わかったから。」
「ええ〜、私何か言った?」
「いい、聞かなくてもわかったから。」
そ、そう?とか言いながら、頭に?をいっぱいつけてたけど…もう、放っておこう。
「ところで、お姉ちゃん、その箱なに?気になるんだけど。」
「そうそう、郁乃、きょうは、ケーキ買ってきたのよ。一緒に食べよう。」
「あ、そうなんだ。何のケーキ?」
ジャーンとか言って姉が出したケーキは駅前のカフェノエルのチョコレートケーキ。あはっ、これすきなんだ。
「お姉ちゃん、大好き。食べよ、食べよ。」
「うふ〜ん。そういうと思ったんだ。郁乃ここのケーキ好きだものね。お姉ちゃんお茶入れてくるね。ちょっと待っててね。」
そういって、部屋から出てお湯をもらいに行った。
コンコン。しばらくしてノックの音がした。
「どうぞ、お姉ちゃん、早か…」
そこにいたのはお姉ちゃんではなくて、あいつ、河野貴明だった。
「な、なによ、あんた。き、今日は、買い物行ってるんじゃないの?」
「ああ、そうだったんだけど、駅前で、チョコレートケーキ見つけたんで、とりあえず、持ってきた。友達が待ってるからすぐ行くけど、愛佳と一緒に食べてよ。じゃあな。」
「ちょ、ちょっと、待ちな…」
もう、勝手な奴…でも、気にしてくれてるのかな?
わざわざ持ってきてくれて…
違うよ…お姉ちゃんに持ってきたんだよ、たぶん。
でも、半分は、私に持ってきてくれたって言うことかな?
(ドキドキ…えっ?どうして?)
「ごめんね、遅くなっちゃった〜。お湯がなかなか沸かなくてね。」
「お姉ちゃん、あいつに、私がチョコレートケーキ好きだって事言った?」
「あいつ?ああ、河野くんね。ううん、言ってないよぉ。」
そうか、ちょっと期待したんだけどな…
「これ、今、あいつが持ってきた。お姉ちゃんと食べてって。」
「え?何?河野くん来たの?あっ、ひょっとして同じもの?」
「そうみたい。買い物行くときに見つけたからって、わざわざ、ここまで持ってきたみたいだよ。」
「うふふっ。河野君らしいね。じゃあ、お言葉に甘えて食べちゃいましょう。一人2個食べれるよ〜。」
と言ったお姉ちゃんは、本当に嬉しそうだった。
ケーキ好きの姉にとっては、嬉しいことだろうけど、このはしゃぎ方は、やっぱりあいつが持ってきたせいだろうなぁ…
そんな感じがする。
まあ、いいか、今日はひさしぶりにお姉ちゃんとふたりで楽しく過ごそう。
あいつが、いないと…
「じゃあ、そろそろ帰るよ、郁乃。また、来るから。」
とお姉ちゃんが、ジャケットを持って立ち上がったのは、もう夕方になっていた。
私は車椅子に座らせてもらい、カーディガンを羽織って、お姉ちゃんを見送りに行った。
門のところで、振り返り、振り返りこちらを見ながら遠ざかっていくお姉ちゃんを見えなくなるまで見送って、部屋に戻ろうとした。そのとき、車椅子が何かに引っかかった。ん?何?下をみると、小枝が車輪に引っかかってるみたい。
これは、やばいかな?と思いながらも、力をこめて車輪を回してみた。だめだ…、もう一度、渾身の力をこめて…きゃっ。
…どさっ。
バランスを崩した車椅子から、私は投げ出されてしまった。
イタ…タ…でも、怪我はたいしたことないみたいね。どこも痛いところはないものね。
問題は、どうやって帰るか。歩いて帰れるかな?
微妙ね、こんなに長い距離歩いたことないもの。車椅子を戻す力は無いから…。
結論。ここで、待つ。そうすれば、だれか助けに来てくれるはず。でもちょっと寒いかな?
「郁乃…ちゃん?」
そんなことを考えてたら、後ろから声がした。助かった。これで、看護婦さんを呼んでもら…
「あ、河野貴明!な、何してんのこんなところで。」
「やっぱりそうだ、そうか、転んじゃったんだ。愛佳はもう帰ったんだ。」
と言いながら、あいつは、私を抱き上げると、そのまま歩き出した。
「ちょ、ちょっと、車椅子に戻してくれればいいんだから…おろしてよ。」
「え〜、でも、そうすると、またお前を地面におろして、車椅子を直したりと邪魔くさいだろ。このまま行くよ、そんなに遠くないし。それにしても、お前、こんなに軽いんだな。」
「は・な・せ、あんたに抱っこされるのは…やだ。」
「こらこら、暴れるな、こういう時は言うこと聞けよ、郁乃!」
あっ…郁乃って…ドキン!
私は、その言葉を聞いて、急におとなしくなってしまった。
でも、これって、看護婦さんに見られたら、明日からからかわれるだろうなぁ…
お姉ちゃんにも怒られるかなぁ。なんたって、思いっきり恥ずかしいよぉ。
ドキドキ…ドキドキ…?え?なんで?静まれ心臓。
この人は、お姉ちゃんの彼氏(たぶんね)。
ドキドキすることないじゃない。ああ、だめ、ドキドキがとまらない。
どうしよう…体がくっついてるからわかっちゃうかな?どうしよう…どうしよう…。
どさっ。
一生懸命、目をつぶって、心臓静まれ〜って思ってたら、突然、ベッドの上に寝かされた。
「も、もうちょっと、優しく降ろしなさいよ、レディなんだから…」
「はいはい、申し訳ありませんでした。お姫様。ところで、怪我とかしてない?お医者さん呼ばなくても大丈夫?」
「うん、問題ないと思う。」
「じゃあ、車椅子拾って、返しとくな。今日はこれで帰るわ。」
「……と。」
えっ?何?と振り返ったあいつが、なんだか、格好よく見えた。
「き、今日は、本当にありがとう。た、助かったわ。
別に、もう少ししたら、誰か来てくれたはずだから問題なかったんだけど…
一応、お礼は言っとく。それから、これあげる。」
私は、ベッドの横の引き出しから、さっき売店でお姉ちゃんに買ってきてもらったチョコを出した。
「もう、夕方だし、おなかすいてるでしょ。これでも食べながら帰りなさいよ。
言っとくけど、今日のケーキのお礼に用意しておいたんじゃないんだからね。
たまたま、あっただけなんだから。
ここまで、運んでもらっても、あんたにお礼できるの、このぐらいしかないし…。」
「お、ああ、ありがと、ケーキのお礼にもらっていくよ。」
あいつは、にやっと笑ってそう言った。
「ち、違うっていってるだろ。たまたま…」
「ああ、わかった、わかった。じゃあ帰るわ。またな。」
あいつは、わたしの言い訳を途中でさえぎって部屋を出て行った。
あいつが帰ったあと、一人残された私は、看護婦さんから冷やかされたり、怒られたりで大変だった。
でも、今日はいい日だった。
お姉ちゃんを奪って行くあいつは、やっぱり好きにはなれないけど、普段のあいつは、好きになってしまったかもしれない。
お姉ちゃんが好きになったのも、うなずけるな。
でも、やっぱり、あいつはライバル。お姉ちゃんをめぐってのライバル。
負けないわよ、だからちゃんと勉強して、手術受けて、同じ学校にいくんだ。手術受けるって、明日、お姉ちゃんに言おう。
でも…できれば…お姉ちゃんの彼氏じゃない、あいつに遭いたかったな。お姉ちゃんが、あいつに惹かれる前に。お兄ちゃんじゃなくって、たかあきさんとして…
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また、郁乃ちゃんのお話かいてしまいました。愛佳が郁乃の病院に貴明を連れて行った頃の話です。お姉ちゃん子の郁乃にとって、貴明は招かれざる客であったことは間違いと思います。でも、そこは姉妹、同じ人に惹かれて行く自分に気がつく郁乃を書いてみました。できれば、貴明と結ばれるようにしてあげたいのですが…
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