帰り道
「あれぇ〜、郁乃じゃないか。このみから、一人友達が来るって聞いてたけど、まさか、お前とはなぁ…」
むかっ!開口一番、言ってくれるよねぇ。
こいつは、あたしの天敵、河野貴明。
お姉ちゃんの彼氏のような、そうでないような。
優柔不断な、なぜかもてるやつ。このみも憎からず思ってるはず。
もちろん、あたしも…例外じゃない…。
「わ…悪い?だって、このみとは、クラスメートだし、
今日は、お姉ちゃんもいないからって、このみが気を使って誘ってくれたんだ。」
今日は、クリスマスイブ。残念ながら、一緒に過ごしてくれる彼氏もいないし、
頼みのお姉ちゃんは、由真さんと二人でどっか行っちゃうし、
両親も二人でどっか行っちゃったし、今日は一人の予定だったんだ。
でも、そんな話をしたら、このみが、今日のクリスマスパーティーに誘ってくれた。
断る理由もないし、このみとは仲がいいほうだし…
おまけに、たかあきが来ることは見えていたから、それを目当てに来たこともあるんだけど…。
「ううん、気なんか使ってないよ。このみ、いくのんのことが大好きだもの。
今日は一人だって聞いたから、絶対誘っちゃおうっと思ったのでありますよ。
気を使わないでゆっくりしていってよね。」
「そうよ、タカくんだめでしょ、そんな言い方したら。謝りなさい。」
このみのお母さんのお叱りが入った。
このお母さんは、なんか、威厳があるわね。うちの親とは大違いだわ。
「あ、い、郁乃ごめんな。俺、ちょっとびっくりしただけなんだ。自分の家だと思って、ゆっくりしていってよ。」
「ここ、あんたの家じゃないでしょ。」
「い、いや、そうなんだけどさ、ははは…すごい料理だね。春夏さんはりきった?」
…あ、ごまかした。
「タカくん、このみも手伝ったのでありますよ。いくのんも、いっぱい手伝ったんだよ。」
「あたしは、あんまり料理上手くないから、たいしたことはしてない。」
「そうしておいてくれないと、食中毒患者が増えるからな。」
「あんたには、人に対する思いやりを教えてあげなきゃならないみたいね。」
「お前もな。」
「さあさあ、ケンカは終わり。出来たわよ、このみ、飲み物用意して頂戴。」
「タカくんなにがいい?」
「ビール!」
パコン!おかあさんのお玉があいつの頭に炸裂。
「いってぇ〜手加減なしだもんな。冗談ですよ、春夏さん。このみコーラある?」
「もちろんであります、いくのんは?」
「このみと同じものでいい。」
このみは、台所へ行くと、コーラとジュースを二つ、そしてお母さんにはビールをトレーに乗せて持ってきた。
「おっとっと、ハイ、各自取ってくださいであります。」
あたしは、緑色のジュース(たぶんメロンジュースね)を取って、乾杯を待った。
「さあて、じゃあ、始めましょう。今年も無事、クリスマスが迎えられました。
新年もいいことがありますように、メリークリスマス、かんぱ〜い!」
というこのみのお母さんの発声で、パーティーが始まった。
このお母さんは、結構、芸達者でいろいろと面白いネタを披露したり、
みんなでゲームしたりして本当に楽しんだ。こんな、クリスマスイブって始めてかな?
クリスマスケーキも、このみのお母さんの手製で、とってもおいしい。
「このみ、どう?ケーキのできばえは?」
「ふにゃ〜とってもおいしいでありますよ、隊長殿!」
このとき、このみのお母さんが、このみの変化に気付いた。
「このみ、暑いの?顔が赤いよ。」
「う〜ん。少し暑いかもで〜す。」
あれっ?このみなんか変。
でも、そういえばあたしも少し暑いかも…それにちょっとふわふわする感じ。
熱でもあるのかな?体調悪くなってきたかな?
「あれっ?あ〜、このみひょっとして…それ、何飲んでるの?」
「え〜これ〜キッチンストッカーの中にあったジュースであります。隊長殿。えへへへ。」
このみのジュースを一口飲んでから、あわてて、台所へ。もどってきたお母さんは、お玉でこのみを、ポカッ!
「こら〜このみ。これを薄めて飲んだの?これ、お酒よ、知らなかった?」
「あいた〜。えーーー?ほんと〜?知らなかったよ〜。」
このみもちょっとびっくりしたみたい。
でも、びっくりしたのはあたしも同じ。
だって、生まれて初めてお酒飲んじゃったんだから…。
こんな風にふわふわするんだ…ちょっと気持ちいいかも。
でも、あたし、大丈夫かしら、お酒なんか飲んじゃって…。
「知らなかったものは、仕方ないわね…このみはすこしおとなしくしてなさい。郁乃ちゃんはどうしようかしら。」
「春夏さん、少ししたら、俺が送っていくよ。そしたら、向こうで愛佳にも事情を説明できるし。」
「そうね、そうしてもらえる?ほんとバカ娘なんだから。」
そのあと、しばらく、このみの家で酔いをさましてたから、帰ることになった。
家には電話入れて、お姉ちゃんには、このみのお母さんから説明してもらったし、
あいつが送ってくれると言うことで、お姉ちゃんは納得っと。
お姉ちゃんったら、うらやましそうだったなぁ…じゃあ、さっさと行動しなよね!
本当に、見てるほうがいらいらするんだから。
結局、その日の遅くに、あたしは、あいつと二人で家路についた。
酔ってるせいもあったかもしれないけど、その日は冬にしてはあまり寒くない夜だった。
天気もよく、きれいな月があたしたちを照らしていた。
あいつが急に、空を見上げて、きれいな月だなぁとつぶやいた。
「きれいだな、郁乃。満月かな?」
「バカ、満月は昨日。」
「そうなのかよく知ってるな?じゃあ、満月の次の月は何ていうんだ?」
バカが、意地悪そうに聞いてきた。郁乃さんをなめんじゃないわよ。
「そのぐらい知らないとでも思った?今夜の月は十六夜。
い・ざ・よ・い。このぐらい覚えときなさいよ、このバカ。」
「え?そ、そうなのか?郁乃はよく知ってるな。」
「いっぱい、本よんだからね…あんたとは違うの。本当は、手術するまで、星なんて見たことがなかったんだ。
お姉ちゃんから、本を読んでもらったりして知ってたけど、初めて見たときは感動した。
まあ、あんたなんかには分らないでしょうけどね。」
「ふ〜ん、そうなんだ。やっぱり郁乃は、頑張りやさんだな。リハビリの時も、編入試験の時も、一生懸命だったもんな。」
「べ、別に、ふ、普通じゃない?」
あいつは、いつものように、ニコニコと笑顔を見せるだけで、それには、何も答えず。月を見あげてこう言った。
「俺は、満月も十六夜だっけ?も同じようにきれいだと思うけどな。」
「見た目はね、でも、全然違うわ。
満月は、翳りひとつないきれいな月だけど、十六夜は…
満月に一番似ているけど、一番、満月に遠い月…。」
そう、お姉ちゃんとあたしみたいなもの。
見た目は、よく似てるんだけど、お姉ちゃんには程遠い。
十六夜はためらいの代名詞。
「ん〜。確かに、この月はあと一ヶ月ぐらいしないと満月にはならないけど、
そういう月なんだろ、みんな、同じ月じゃん。
色んな月があったほうがいいんじゃないかな?
俺は、そういうのは、どれもが好きだけどな…。」
「あんたらしい感想ね。だから、そういう、ややこしい性格なのね。」
「そ、そうかな、ははは。」
「そうよ、だいたいね、あんたがそんなだか…あー、やめた、やめた。なんかバカらしくなってきた。行こっ、遅くなっちゃう。」
上を見たまま歩き出だしたあたしは、そこに段差があるのに気が付かず、前につんのめって、ころんでしまうところだった。間一髪のところで、あいつがあたしを支えてくれたので大事にはいたらなかったけれど…だ・か・ら、あたしは今、『たかあき』の腕の中にいる。
「あ、ありがと…でも、あたし、いつまで抱かれてなきゃいけないの?」
あいつは、顔を真っ赤にして、「郁乃、まだ、酔ってるのかな?足元がふらつくのかな?」と、バツの悪いのをごまかそうとしていた。
あいつのその言葉は、あたしにとんでもない大胆なことを…。
「そ、そうかもね。ま、また、転ぶといけないから、そ、その、あんたの腕を貸しなさいよ。」
「えっ?なんだって?」
「べ、別にあたしだって、そんなことしたくないけど、そ、その、あ、あたしが怪我でもしたらあんたが困るでしょ。」
「な、なんでそうなるんだよ。ホントに…はいはい、分りましたよ、郁乃お嬢様。」
あいつはおどけながら、左腕を差し出した。
あたしは、おずおずと彼の左腕にぶら下がった。
やっぱり、ちょっと酔ってるのかもしれない。
こんなこと普段なら絶対しないもの。
でも、今日だけ、今日だけのわがまま。
それからは、二人ともほとんど言葉を交わさなかったけれど、あたしにとっては至福の時間。
その間、あたしの心臓は、ずーっとドキドキしっぱなし。その音が聞こえちゃうんじゃないかって思うほど。
お姉ちゃんゴメンね。今日だけ、今だけ、ほんの少しだけ、たかあきを、あたしにください。
なごり惜しかったんだけど、あの角を曲がれば家が見えるというところまで来て、あたしは彼から離れた。
「今日は、送ってくれてありがとう。もう、そこだから、自分で帰れる。」
「ここまで、来たんだから、家まで送っていくよ。愛佳にも説明しなきゃなんないし。」
「お姉ちゃんなら、さっき電話で説明したから大丈夫。」
「でもな…」
「わかった。じゃあ、あたしが家に入るまで、ここで見ていて。」
「そうか、じゃあ、仕方がない…わかった」という、あいつの言葉を聞いてからあたしは家に向かった。
あいつの視線があたしに注がれてるのを感じる。
家の前まで、来てもらわなかったのには、訳がある。
今日だけは、あいつをお姉ちゃんに会わせたくなかったから…。
今日だけは、あいつを独り占めしたかったから…。
お姉ちゃんを差し置いて、あたしが、『たかあき』のものになることは許されないから…。
家の前まで来て、振り返るとあいつがこっちを見て手を振っていた。
あたしも、ありがとうの意味をこめて手を振り返した。
なんかちょっと悔しかったので、『べー』ってしながら…
あいつは、それを見届けると、もと来た方向へと消えていった。
ほんのつかの間だったけど、恋人気分が味わえたかな。
そうだ、今日はクリスマスイブだったんだ…『二人で、ホワイトクリスマス』には程遠いけれど、
身も心も、暖かな、今まで生きてきた中で一番ステキなイブ。
ありがとう、たかあき、そして…
「メリークリスマスたかあき」
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郁乃ちゃんの、『デレ』の部分を書いてみました。いつもは、貴明には、ツンツンしている郁乃ちゃんですが、こんな機会には、彼女もちょっとわがまま言ってみたいと思うのではないかな?という気持ちで書いてみました。このあと、お姉ちゃんにブツブツ言われるような来もしますが、今日はとりあえず、郁乃の幸せを祈って…
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