大好きな…
 
 
「ほら、お姉ちゃん調べてきたわよ、チャンスは、今週の週末あたりよ。」
 
私は帰るなり、手帳をお姉ちゃんの机の上に広げた。
そこには、お姉ちゃんの親友である由真さんの予定がびっしり書き込まれていた。
 
「で…でも、郁乃ぉ。最近、由真は貴明君と仲良いみたいだし、こんなことしたら、由真が怒るよ〜。」
 
「あ、そっ。じゃあ、お姉ちゃんは、このまま、由真さんが、あいつとくっついてもいいわけね?」
 
「え〜。そ、それは…でも、でも〜。」
 
この優柔不断!これが私の姉、小牧愛佳。
 
 
この姉は、あいつ、河野貴明にぞっこんなんだけど、元来の内向的な性格が災いして、まだ、告白してないらしい。
あいつは、私が入院していたときに、よく、私のお見舞いによく来てたから、もう、かれこれ1年ぐらいになるんじゃないかな。
その間何してたんだろ…このバカ姉は…。
 
 
いつまでも、うじうじしてるから、知らない間にお姉ちゃんの親友である由真さんに先を越されちゃって、
最近では、結構仲良くやってるみたいなんだな、これが。
ただ、こちらも、いまいち進展がない様子なので、まだ、つけいるチャンスはありそう。
そこで、郁乃さんがこの奥手の姉のために一肌脱いであげようとしてるんだけど、これが、なかなかねぇ。
 
 
「ほら、お姉ちゃん、週末にデートに誘うの。はい携帯。」
 
「そ、そんな〜。わたしできないよ〜。」
 
「あっ、そ〜う。じゃあ、私がかけて、
 お姉ちゃんが、貴明の事を好きだって言ってるから付き合ってやってくださいって言ってもいいんだね?」
 
「だ、だめ〜、いくのぉ〜。」
 
「じゃあ、電話しよっと。」
 
「で、出来ない〜。」
 
「じゃあ、電話?」
 
「だめ〜。」
 
「じゃあ、ハイ携帯と、原稿。この通り言ってよ。」
 
 
トゥルルル、トゥルルル…
 
 
「もしもし」
 
「あ、あ、あの、あの…」
 
「もしもし、どなた?」
 
「あ、あ、あ、あ、あの〜」
 
「ひょっとして…小牧さん?」
 
「は、は、はい、そうです…なのよ。」
 
「どうしたの?」
 
「え〜と、あの、実は…ですね。」
 
 
私は横から、姉をつつき、原稿を読むように促す。
ようやく覚悟を決めた姉が、まるで、素人劇の役者のように完全無欠な棒読みで読み始めた。
 
 
「あ、あの、こ、今週の、ど、土曜日に、え、駅前の、
 か、カフェノエルで、新しいチョコケーキを食べに行きたいんですが、
 郁乃に断られたので、一緒に行っていただけませんでしょうか?」
 
「え?あぁ、郁乃ちゃんに断られたのか?由真は?ああ、そういえば、どこかに行くって言ってたな。いいよ、何時がいいの?」
 
「え、え?あ、あの、3時ではどうでしょう?」
 
OK。じゃあ、駅前のモニュメントのところで、3時にね。」
 
「は、はい、わ、わかりましたです…のよ。」
 
「じゃあ。バイバイ、小牧さん」
 
「さ、さようなら、河野くんです…のよ。」
 
電話を終わって放心状態になってる姉。
大丈夫かな?これ…と少々不安になったものの、まあ、とりあえずは予定通りか…。
 
「お姉ちゃん、もう後戻りできないわよ。
 当日は、絶対、窓側に座ってよ、それから、一回でいいから、あ〜んをしてもらうこと。
 いいわね。」
 
「そ、そんなこと出来ないよ〜。」
 
「あっ、そう。じゃあ、もしやらなかったら、お姉ちゃんと貴明が一緒のときにあいつの携帯に私が電話して…。」
 
「わ、わかった、やるよ〜、でも一回だけだよ〜。」
 
「よく出来ました。」
 
ほんと、世話の焼ける姉だわ。
 
「じゃあ、私は自分の部屋に戻るよ。せいぜい当日を楽しみにしてなさい。」
 
そんな〜いくのぉ〜と言う声を聞きながら、私は自分の部屋に戻った。
さてと、私は次なる策を練らねば。
 
 
トゥルルル、トゥルルル…
 
 
「…あっ。このみ?郁乃。…うん。元気してた?
 …うん、実は駅前のアイス新作発表なの知ってる?
 …おお、さすがだねえ。今度の土曜日にさ、一緒に行かない?
 うん、お姉ちゃん誘ったんだけど先約があるとかで断られちゃった。
 最近、お姉ちゃん付き合い悪いんだよね。男でもできたかな?ところで、どう?
 …OK?じゃあ、2時半ごろどう?
 …OK、じゃあ駅前のいつものところで。
 …うん。ありがと、バイバイ。」
 
 
これで、目撃者確保。後はお姉ちゃんがちゃんと演技してくれるかどうかね…しんぱい。
 
 
当日、私は2:30に駅前に。
このみはまだかな?早くしないとお姉ちゃんもあいつも来てしまう。
どうせ、2人とも20分前には来てるんだから…。
あっ、きたきた。
 
「このみ〜、こっちこっち。」
 
「あぁ、いくのん、今日はありがとう。誰と行こうか迷ってたんだよ。」
 
「うんうん、私も、お姉ちゃんに断られるとねぇ…じゃあ、いこうか。」
 
私たちは、ふたりでアイスショップへと向かった。
実は、このアイスショップは、カフェノエルの向かいにあって店の中がよく見える位置にある。
これが、狙い。とりあえず、二人で別々の新作を買って食べ始めた。
 
「いくのん、そっちのやつとちょっと取替えっこしよう?」
 
OK。あっ、このみのもおいしいね。甲乙つけがたいって感じね。」
 
「うん。本当でありますね…でも、アイスは何でもおいしい…かも…へへっ。」
 
「あっ…。」
 
「どうしたの?いくのん?」
 
「あれ、お姉ちゃんと…あいつじゃない?」
 
というと、うしろを振り返るこのみ。ちょうど、二人でカフェ・ノエルへ入っていくところだった。
 
「いくのん…そ…う…みたいだね。
 いくのんのお姉さんって、タカくんとお付き合いしてたっけ?
 タカくんは、最近由真さんと仲良かったみたいだけど。」
 
「う…うん。そう思うけど…ああ、そうか、先約ってこれだったんだ…。」
 
ちょっと声を潜めて、このみに耳打ち。
 
「知ってた?本当はね、お姉ちゃん、あいつのことが好きなんだよ。」
 
「えっーー?本当----?」
 
「ホント、ホント。机の上にはあいつの写真なんかがあるし…
 ここのところ、知らない間によく出かけてたのよね
 …ひょっとして、あいつとデートしてたのかな?」
 
「そ、そうなんだ…でも、たまたま、一緒になっただけかもしれないよ…タカくん誰にでもやさしいし…」
 
このみは、もともと、あいつとは幼馴染だから仲はとってもいいはず。
多少の恋心もあるはずだから、こういう話にも食いつきはいいはず。
案の定、このみは、話しながらも、ちらちらと後ろを見る。
ちょうど、お姉ちゃんがあいつに『あーん』をしてもらってるところだった。
ははっ、まるで、素人芝居みたいだ。思わず吹き出しそうになるのを必死でこらえて、
このみのほうを見たら、目をまん丸にして驚いていた。まあ、そりゃそうよね。
 
「い…いくのん。
 や…やっぱり、あの雰囲気を見てると恋人同士って感じだよね。
 もし、そうなら、これは、大ニュースだよ。タマおねえちゃんにも報告するでありますよ。」
 
「だね…。私も、帰ったら、お姉ちゃんに聞いてみるよ。」
 
 
その日は、このみとショッピングしたりして、帰ったのは少し遅くなってしまった。
家に帰ると、玄関にはお姉ちゃんの靴が。帰ってるんだな。
コンコン。お姉ちゃんの部屋をノックする。
 
「どうぞ…。」
 
お姉ちゃんの声が聞こえた。
ガチャ。
 
中に入ると、お姉ちゃんが放心状態でベッドに座ってた。
 
「お姉ちゃん?大丈夫?」
 
「う…ん。いくのお〜。」
 
「よしよし、うまくいった?」
 
「え?もう、心臓がバクバク言ってて、何がなんだかわからなかったよぉ〜。でも、郁乃に言われたことは、ちゃんとやったよ。」
 
「そうなんだ、えらい、えらい。ところで、帰ってきてから、あいつに電話した?してないでしょ。」
 
「う…ん。」
 
「ほら、携帯。台本どおり言ってよ。ここで、もう一押ししておかなきゃ意味がないんだから。」
 
「わかってるわよ〜。ここまできたら、やるよ〜。」
 
おっ、わが姉もさすがに根性が座ってきたかな?
…でもないか…姉はいつものように、台本を読むように、
今日のお礼と来週の月曜日にお弁当を作る約束をして電話を切った。
 
「じゃあ、おねえちゃん、がんばってね。
 私ができるのはここまでだから…来週はお弁当食べながら、あ〜んってやるのよ〜」
 
「いくのの、いじわるぅ〜……郁乃…今日はほんとうにありがと…ありがとうね。」
 
「いいのよ別に、おやすみ、おねえちゃん。」
 
 
自分の部屋に戻ると、ふ〜っと一息入れて机に座った。
ノートPCにパスワード入力。このPCは、誰にも見せられない。
だって、これがばれると、あのバカ姉は、私のために身を引きかねないからね…ホント、世話の焼ける姉よね。
 
 
さて、仕上げにはいるか。携帯をとってと…トゥルル、トゥルル、
 
 
「あ、このみ?うん、郁乃。今日はありがと、楽しかったわ。
 お姉ちゃんに聞いたんだけど、どうも、付き合う一歩手前みたいな感じね。
 聞いてる内容はいい感じだったよ。
 うん…そう…うん、本当にびっくりしたよね。
 うん…、……うん、じゃあ、また学校でね、あ、これ誰にも内緒だよ。
 うん、じゃあね」
 
 
ぷちっ。
  
このみが、黙ってられるわけ無いのよね。
明日にでも誰かにしゃべってしまうことは必至。
だから、学校は、来週にはこの話題で持ちきりになるに違いない…と思う。
 
そこへ、ふたり分のお弁当を持ってくるお姉ちゃん…
これ以上の舞台はないよね…疲れた…あとは、自分で頑張ってね、お姉ちゃん。
 
 
で・も・ね…お姉ちゃん。
協力は、これまでだからね。
これで、由真さんに負けるようなことがあったら、わたし、容赦しないんだから。
リベンジは妹がさせていただきますからね。
 
ふふっ、その日が来て欲しいような、そうじゃないような…不思議な気分。
 
 
複雑な気分のまま、目を落としたPCの中のあいつの写真は、優しそうに微笑んでいた。
 
その微笑みは誰のため?
 
私にも同じ微笑を見せないで。
 
それは、大事な人だけにして。
 
いつだって、いつだって、あんたは、みんなに同じようにその微笑を与える。
 
あんたは、ほんとに罪な人だよ…た・か・あ・き。
 
お姉ちゃんと仲良くなって、そして、また、私とも仲良くしてよね。
 
お姉ちゃん子の私にはそれが精一杯の願いなんだから。
 
そして、いつか…『おにいちゃん、大好き!』って言わせて…。
 
 
 
…本当の気持ちを伝えるかわりに。
 
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いかがでしたでしょうか? 初めて、郁乃のお話を書いてみました。
もっと、可愛さを出したかったんですが…ちょっと、難しかったです。こういう、少女の可愛さって難しいですね。もう少し大人になってくれれば…今度は、もう少し大人になった郁乃ちゃんにトライしてみます、保障はしませんけどね…o(〃^▽^〃)oあははっ♪

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