実態
「どう?タカ坊、おいしい?」
用意してきたサンドイッチにコーヒーを入れて、そして、ちょっと遅い朝食を取りながら、聞いてみた。 私は…さっき、タカ坊から充電させてもらったから元気いっぱい。
「おいしいよ、タマ姉。タマ姉のサンドイッチなんて久しぶりだね。いつ以来だろう?」
「そうね…ずいぶん前のような気がするわね。」
「ところで、いつ帰ってきたの?」
「一昨日よ。本当はすぐにタカ坊の顔見にこうようと思ったんだけど、引越しでなかなか時間がとれなかったしね。」
「呼んでくれたら、手伝ったのに。」
「いいわよ、うちには頼りにならないけど、男手もあるし…それとも、タカ坊はうら若き乙女の秘められた部分を覗きたかったとか…うふっ?」
「ちがうよ…そんなんじゃないよ。」
顔を真っ赤にして、必死で言い訳しているタカ坊はとってもキュート。だから、昔から、ついいじめたくなるのよね…。
「タカ坊、今日ヒマよね。食事のあとに買い物つきあいなさい。」
「ちょ…ちょっと、一方的に決めないでよ。」
「じゃあ、予定あるの?」
「いや…別にないけど…。」
「じゃあ、つきあいなさい。」
「はい、はい。」
「『はい』は、一回。」
「はい!」
「じゃあ、服着替えてきなさい。私は、その間に洗い物とかしておくから。」
うんわかったとトントンと階段を上っていくタカ坊を見ながら、『毎日こんな日が続けばいいなぁ』なんて思いながら… でも、彼に告白してつきあってって言ってしまったら…今までのタマ姉とタカ坊の関係も崩れてしまいそうで…。 だめだわ、怖がってちゃ、また昔と同じになっちゃう。 でも…もう、あんな気持ちになるのはいや……やめやめ、さあて、洗い物でもしよっと。
ちょうど、洗い物を終えるのと同時にタカ坊が降りてきた。わぉ、かっこよくなったわね、タカ坊…。
「じゃあ、行きましょうか?」
玄関の戸締りをしてっと。そうだ、このみを誘うの忘れてた。
「このみも誘うおうか?」
「うん、そうだね。」
このみの家は、タカ坊家のすぐ隣。ここには、私の苦手な犬が…しかも、大きな…
タカ坊に呼び鈴を押してもらって、しばらくすると春夏さんがドアから顔を出した。
「あ、タカくん。今日はね、このみは出かけて…って、そちら、どなた…?ひょっとして…たまきちゃん?」
「お久しぶりです、春夏さん。」
「あらあら、帰ってきたの?あぁ、そういえば、このみがそんな事言ってたわね。ごめんなさいね、このみったら、まだ、春休みにもなってないのに、すっかり休み気分で…帰ったら、言っとくわ。ごめんなさいね。」
「いえいえ、お気遣いなく。私たちが、急に来たのがいけなかったのですから…では、失礼します。タカ坊行くわよ。」
駅までの道すがらタカ坊が私のかをまじまじと見つめている。
「どうしたの?私の顔に何かついてる?」
「えっ?いや…何もないよ。」
「『どうして、タマ姉って、会う人ごとに態度を変えれるんだろう?』とか思ってない?」
「…えっ?…どうして?」
「タカ坊の考えてることなんか、すべてお見通しよ。だから、タカ坊に好きな人がいるのかとか、私に隠し事してないかなんて、お見通しなんだから。うふっ。」
「えっ?えっ?…」
「それにね、会う人ごとに話し方を変えるのは大人なら皆できるわ。あなたも、一生懸命勉強して、立派な男の人になって頂戴…ね。」
「…う…うん。」
「返事は、『はい』。」
「はい!」
「よろしい。うふっ。」
な〜んて話してたら、駅に着いちゃった。え〜と、まずは…っと。
「じゃあ、いろいろ買いたいものはあるんだけど、まずはデパートにいこうか?」
「何買うの?」
「う〜ん。いいのがあればなんだけど…靴とちょっとアクセサリーかな?新しい学校で雰囲気変えたいし…」
「ふ〜ん」
男の子には分からないわね…まして、タカ坊には…
「タカ坊、ちょっと見てくるからここで待ってて?」
「うん、いいよ。」
とりあえず、靴を見てっと。あんまり、いいのが、ない…あっ、これいいわ。 サイズが合えば…うん、OK。これにしよう。アクセサリーは、3階か。 じゃあ、とりあえず、タカ坊連れて上に…うん?ここ下着売り場ね。ちょっと、悪戯しようかな?
「……た〜か〜ぼ〜う、ちょっと来〜てぇ」
聞こえたかな?あっ、聞こえたみたい。こっちに向かってくるわ。
「タマ姉、たのむから、大きな声でタカ坊っていうのやめてくれる?はずかしいじゃないか。」
「あはは、ごめんごめん。タカ坊さ、赤と黒と水色だったらどれが好き?」
「なにそれ?まあ、水色かな?」
「そうか、タカ坊は水色が好きなんだ…。」
手に持った布切れを振り回すと、やっと分かったみたい。
「た…タマ姉。ここ、下着売り場じゃないか。」
「そうよ。」
「わざわざ、呼ばないでくれよ。はずかしいじゃないか。」
真っ赤になりながら抗議するタカ坊ってかわいい。
「え〜。だって、大好きなタマ姉に自分のお気に入りの下着をつけてもらったらうれしいでしょ?」
「た、タマ姉…。」
真っ赤になって、うつむいてしまっちゃった。あ〜あ、ちょっとやりすぎたかな?どうしようかしら?
「たかあきクン?」
その時、私の後ろから、女の子の声が。振り向くと髪を片方だけまとめた、小柄な可愛い感じの女の子がそこに…第一印象は…小動物(カヤねずみ)。
「あっ、愛佳。」
愛佳?下の名前で呼び合ってる?え?誰、これ?
「たかあきクンお買い物?」
「うん、タマ姉と…。そうだ、紹介しておくよ。こちらタマ姉、俺の幼馴染でひとつ上のお姉さん。 タマ姉、こちらは、クラスメートの小牧愛佳さん。」
「はじめまして、小牧愛佳といいます。」
とぴょこんとお辞儀をした。本当、小動物って感じで可愛いわね。でも、タカ坊とどういう関係なのかしら、下の名前で…。
「タカ坊ったら、ちゃんと紹介しなさい。タマ姉じゃわからないでしょ。向坂環といいます。 年はタカ坊よりひとつ上で、よちよち歩きのころからのつきあいだから…もう十年以上になるかな? まあ、姉弟みたいなものね。」
「タマ姉は、今まで、違う学校に行ってたんだけど、今度こっちに戻ってきたんだよ。 で、今日は一緒に買い物につきあわされてるわけ…。」
「一緒に?ここで?そうなの…」
ははは、そうよね、ここ下着売り場だものね。 私の持ってる下着とタカ坊を見比べながら、いろいろ私とタカ坊の関係を考えてる感じね。 タカ坊は、何も分かってなさそうだけど。
「うん、そういうこと。で、次はどこ行くのタマ姉?」
「あとは3階かな。」
「OK。じゃあ、愛佳、また月曜日に学校で。バイバイ。」
「さよなら、たかあきクン。向坂さん。」
「じゃあ、さよなら、小牧さん。」
…と二人の間で、火花が飛び散ってるんだけど…わからないかなぁタカ坊…。
その後、ちょこちょこと買い物を済ませて、タカ坊と食事をして家に帰った。(帰ったら、雄二にいろいろ聞かなきゃ)
家に帰ると、直接、雄二の部屋へ。
「雄二!」
「な、なんだよ姉貴。おれ、何もしてないぜ。それに、人の部屋に入るときはノックぐらいしろよ。」
「あ、ごめん。ちょっと、気がせいてたものだから…雄二、タカ坊のことで色々教えて欲しいんだけど。 今日、買い物途中に小牧さんっていう娘に会ったのよ。 彼女とタカ坊はどういう関係なの?二人とも下の名前で呼び合ってたわよ。」
「ああ、会ったのか。彼女は小牧愛佳さん。クラス委員で、普通は皆『いいんちょ』ってよんでる。 彼女は、ちょっと男性恐怖症で、ちょっと女性恐怖症のたかあきとは同類相憐れむという仲で、知らない間に仲良くなってた。」
「二人は付き合ってたりする?」
「それはねえな。」
「そう…。」
「姉貴。言っとくけど、そんなことで、一喜一憂してたら身が持たないぜ。」
「えっ?どういうこと?」
「たかあきは、全然理解してないけど、あいつ、すごくもてるんだぜ。恋愛ブルジョアだぜ。 小牧さんもそうだけど、あいつに好意を寄せているのは、俺の知っているだけで… 小牧の親友の十波由真、小学校時代の同級生だった草壁優季、ミステリー研部長の笹森花梨、留学生のるーこ、生徒会長の久寿川ささら、小牧の妹の郁乃、もちろん、このみも、それから、このみの友達もそんな感じだな。なんてったっけ、ちゃる、とかよっちとか言ってたな。あと、2年生、姉貴の学年にもファンはいっぱいいるとか…。」
聞いてて、眩暈がしてきた。そういえば、雄二が『昔のまんまだぜ。 相変わらず人がいいし…まあ、その辺が女の子にもてる秘訣だろうけど…』って言ってのはこういうことだったのね。 どうしよう。私はどう考えても出遅れてる。ここ何年もまともに会ってないし…どうしよう…どうしよう。
「雄二、タカ坊はどう思っているの?誰か意中の人がいるの?その中に」
「いると言えばいるし、いないと言えばいない。女子の側は一生懸命アプローチしてるんだけど、たかあきが理解してないんで、進展がないというのが実情。バレンタインには、本命チョコをもらっていても、気付かない。気楽なやつだよ…ほんと。うらやましい限りだよ。」
そうなのね、朝の幸せな気分から、一気に奈落の底へ突き落とされたって感じね…ふぅ。
このみは想定内だったし、そういう娘もいても不思議はないとは思ってたけど…まるで、アイドルじゃないの…でも、本人が気がついていないのは救いね。
よし…タカ坊…春休みはないものと思って頂戴ね…ふふふ。