覚醒

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空を見上げて、緑の草原に体を横たえた少女と
彼女を覗き込むように座っている、小さな(?)男の子。
恋人のような、兄弟のような、そんな空気が彼らの周りに満ち溢れていた。
 
「ねえ、玉ちゃん」
 
「ん? なんだ?」
 
「最近さ、玉ちゃんって幻術で人間スタイルになってるけど、
 ず〜と、私にあわせてくれてるの?」
 
「あぁ、まあ、そんなところだな。一応、弟分なんだろ?」
 
「うん、そうだけど…じゃあ、どうして、しっぽとみみはそのままなの?」
 
「お前のへたくそな変化の術にあわしてる」
 
「…そんな言い方しなくてもいいじゃない…」
 
垂れた耳をさらに垂れさせて、しゅんとなってしまった。
こういうのも可愛いんだな…。
 
実は、この間、変化の術が解けなくなって、大騒動だったんだが、
なにぶん、こいつの一族は、優秀な狐が多く、
『おっきい姉ちゃん』とこいつが呼んでいる
一族の長姉に戻る方法を習って、事なきを得た。
だが、その後も、人間の姿が気に入ったようで
(たぶん、俺が、かわいいと言ったせいだとは思ってるが…)
また人間に戻ってしまった。
俺もなんか人間とず〜っと一緒にいるような気がするので、
俺も幻術で、人間に見えるようにはして合わせてはいる。
なにぶん、弟分らしいので…
なんか勘違いしている気もするが…お前が妹だろ?
 
「あのさ、玉ちゃん。
 いっとくけど、私のほうがず〜っと、ず〜っと年上なんだからね。
もう少し、お姉さんと思ってほしいな。
だって、私、玉ちゃんの生まれたころからお世話してるのよ。」
 
ちょっと、口を尖らせて、抗議のスタイル。
こいつの言ってることは間違いっていない。
たしかに、こいつは、かなり年上のはず…
とはいえ、俺たちのように化けるタイプの狐の寿命は半端じゃない。
だから、あまり年上と言われてもぴんとこないし、
こいつは、ドジだから、とても俺の年上とは思えない。
 
「あぁ? 
 まあ、もう少し上手に術が使えるようになったら考えてやるよ。バカお姉ちゃん」
 
「あ〜また、また〜バカって言った〜。
 バカって言うほうがバカなんだからね。」
 
実は、俺は、ただ、こいつが好きだから
(ただ、こいつは、超鈍感だから、そんなことは全然分かっちゃいないだろうが…)
という理由だけで一緒にいるわけではない。

何日か前に俺は長老に呼ばれてこいつについて重大な事実を聞かされた。

 
「玉五郎。お前は、法子のことをどう思ってる?」
 
「どう思ってるって…ってどういうことだよ」
 
「好きか、嫌いか聞いておる!」
 
「……嫌いじゃない…な」
 
「そうじゃな…、では、お前に法子を任せるから、彼女を守ってやってほしい」
 
守る? 俺が? 
なんで? 
別に悪い話じゃないが…なんで長老が?
 
「………」
 
理解できないので不思議そうな顔をしていたら、長老はいろいろな事を話してくれた。
 
実は、あいつの先祖は、九尾の狐だそうだ。
しかも、玉藻なんとかと言って、
その昔は天皇に取り入り好き放題やらかした狐らしい。
その本体は、やっつけられたとか、
どこかに封印されているとか言われているが、
どうやら、あいつの一族がその血を引いているらしい。
そういえば、あいつの一族は術の得意な狐が多いよな…

あいつを除いて…。

 
「でも、それと、あいつを守るのはどういう関係があるんだよ?」
 
「うむ。それはじゃな…
 実は、あの一族も、代を重ねるたびに、
 その妖力はどんどん落ちてきており、
 今では、他の狐より少し強い程度になっておるのじゃ。」
 
ふん、ふん。なんとなく分かるような気がする。
 
「じゃが、時々、先祖がえりで、特別に妖力の強いものが生まれることがある。
あの子がそうじゃ。あの子は、念じるだけでいろんなことができてのう…
あの子が生まれたころは大騒ぎじゃった。
自分が行きたいところへ、勝手に瞬間移動をする。
ほしいものはあっという間に手に入れてしまう…。
今回の人間への変化の術も、あの子が念じただけじゃ。
戻れなくなったのは、何か戻りたくないという気持ちがどこかにあったためじゃ。」
 
「あまり、そんなに術が得意には見えねえけど…」
 
「それは、わしらが封印したからじゃ。
あまりにも危ないのでな、近隣のものがあつまって、あの子の能力を封印したのじゃ。
だから、今ではほとんど術の使えない普通以下の狐になっておる。
じゃが、この間の人間に化けたのをきっかけに、あの子の力が徐々に強くなっておる」
 
「じゃあ、また、封印すれないいじゃないか」
 
「もう、あの子の力を抑えることが出来る狐は、そうたくさんはおらぬ。
今の長老たちの力では無理じゃ。そこで、お前に託したい」
 
「…って、意味わかんねぇ。長老に出来ねえものを俺が出来るわけないだろ」
 
「実は、過去にもあの子のような娘が生まれたことはあったらしい。
 その時には、九尾の狐の末裔として世の中に災いをなしたそうじゃ。
 そのときに、その娘をもとに戻したのは、
 彼女を心から愛し、自分の命と引き換えてでも元に戻そうとした
 一匹の雄狐だった。
 そいつは、その愛の力の助けを借りて、彼女の力を封印した…
 と言われておる」
 
「な、なんだ。実話じゃないのか?」
 
「伝説じゃ。
 その雄狐が何をしたのか、その後その娘はどうなったのかは…誰も知らん。
ただ、わしらの言い伝えでは、そのような力を持ってしまった狐の末路は…
世界を自分の物にしようとして…そして…滅ぶのじゃ…」
 
「法子をそうはさせたくないという一族の願いもある。
 もちろん、お前の力で封印できるのかどうかはわからん。
 じゃが、お前以外では出来ないことは確かじゃ」
 
長老の長い話は終わった。
そんなこと、おれにはできねぇ。

あいつのことは好きだが…。 

「長老、そんなことはおれには無理だ。できねぇ」
 
「そうかもしれん。しかし、誰かがやらねばならん。
 やらねば、あの子は間違いなく妖弧になる。
 そうなっては、取り返しがつかん。
 そして、それを防ぐことができるのはお前だけじゃ… 
あのバカものを心の底から想っているのは…
お前だけなのじゃ…たのむ」
 
「……そ、そんなこと急に言われても………」
 
長老のほうを見ても頭を下げたまま。
ふと気がつくと、いつの間にか、長老の後ろにはあいつの長姉の姿も…
 
「……わ、わかったよ。でも、できなくても知らなぇぜ。
 やるだけはやってみるけどよ」
 
まあ、そういう理由もあって、こいつと出来るだけ一緒にいる。
もちろん苦痛ではないから、俺的には気にいってる。
 
「どうしたの玉ちゃん? 
 私の顔をじ〜とみつめて、何かついてる?…
あっ、ついてた。鼻が…へへへ」
 
「………」
 
「だめだよ、お姉ちゃんが、ちゃんとジョーク言ってるんだから、リアクションしなきゃ…」
 
体中の力が抜ける思いがする。
本当にこいつが、そんな妖力を持っているんだろうか…?
 
「…は〜。まあ、いいけどな。
 ところでお前、最近、術の練習はしてるのか?」
 
「うん、やってるんだけどねぇ〜」
 
「なんだそれ?」
 
「それなりに、進歩はしていると思うんだけど…
 思うようなものができていないのよね〜。
このあいだも、椿の花を出そうとしたの。
でも、出てきたのは椿には似ても似つかない花のような、草のようなものだったし、
おまけに飛ぶのよ。みんなには大笑いされるし…」
 
う〜ん。
確かに変だけど、でも、結構すごいんじゃないのか?
笑ってるやつらのほうがおかしいんじゃないか?
そんな術しらねえぜ。やっぱり、すごい妖力なんだな…
コントロールできないだけなんだな…。
 
「まあ、あせらないで、ゆっくりやれよ。大器晩成ってのもあるしな」
 
「た、たいき…ばん…? 何? それ」
 
ああ、俺がわるかった。術はともかく、頭は小学生レベルだったのを忘れてた…。
 
「かわいい狐は術を覚えるのもゆっくりだって事だよ」
 
「えっ…えへへ…そうかな…」
 
…バカ…
 
「おい、そろそろ、夕方になるから村に帰ろうか」
 
そうねと言って立ち上がったこいつの後ろについて、俺も村に向かった。
村に着くころには、夕日も沈み、夜の帳がおりようとしていた。

村に近づいていくと、なんだか騒々しい。

村の中央に行ってみるとみんなが一軒の家の前に集まっていた。 

「玉ちゃん、なにかあったのかな?」
 
「さあな。でも、みんなの雰囲気からするとあまりいいことではなさそうだが…。
あっ、長老、何かあったのか?」
 
「おぉ、玉五郎か、実はな、優二郎が瀕死の重態なのじゃ。
森から出たところで、人間に矢で射抜かれてのお。」
 
「優くんが? なんで?」
 
「これを咥えておったので、たぶん、これを取りにいったのじゃろうな。」
 
長老の見せてくれたものは、金色と見まごうがばかりの美しい黄色の花だった。
その花を見たとたんこいつの様子がおかしくなった。
 
「そ…それ…このあいだ、
 優くんに教えてあげた花…
 私が好きだって…
 優くんに…
 優…」
 
ふらふらしながら、
優二郎の家のほうへ、2、3歩動き始めたときだった。
優二郎の家から大きな泣き声が聞こえてきた。
 
「優二郎〜死なないでおくれ。
 ゆ…ゆう…」
 
後は言葉になっていない。
中を見なくてもそこにいる全員に意味はわかった。
優二郎が天に召されたのだ。
 
「玉ちゃん…優くんは…?」
 
「…死んだんだよ」
 
「優…くん…死…くん、優…」
 
ん? なんだ? この波動は? びんびん感じるぜ? なんだ? なんだ?
 
「玉五郎! 法子を止めるのじゃ! 早く! 早くせんか!」
 
長老の声に、はっとして、あいつのほうを振り返ると体から青白いオーラをだした法子がそこにいた。
 
「玉五郎! 何をしている! 早よぉ!」
 
俺は、あいつのほうへ走り出そうとした…と思うが、次の瞬間。
 
「ゆ…う…いや…いやあ〜〜〜」
 
という声(もちろんあいつの声だが)を聞いたとたん、俺の意識は飛んでしまった。

気がつくとさっきまであいつと一緒にいた草原だった。横には法子がいる。おまけに、昼になってる。どういうことだ?

夜だったはずだぞ。そんなに長い間気を失ってたのか?
そんなずはない。ほとんど時間はたってないはずだ。
法子の様子がおかしい。
急に立ち上がると森のはずれに向かって歩き出していった。
俺も後を追う形で付いていった。
どうなってるんだ?
いったい、今はいつなんだ?
 
ん? あれは何だ? 人間が何かを追いかけている。追いかけられているのは、優二郎! 
死んだんじゃ…? 
そう思っていると法子は、すたすたとその方向に歩き始めていった。
一人の人間がボウガンを構え、優二郎に狙いを定め放った。
矢が優二郎に向かって飛んでいくのを、まるでスローモーションをみるように…そのとき。
 
「優くんになにするのーーーーーーーーー」
 
その声と同時にすさまじい波動が、俺のほうにも。

波動の中心はもちろんあいつ。

俺は、自分の精神波をつかって思いっきり耐えたが、
それでも近くの大木まで跳ね飛ばされてしまった。
直接、その波動を受けた人間どもはふっと歪んだと思ったとたん、空気のようにかき消えてしまった。
 
「優くん。大丈夫? 優くん…優くん…」
 
「あっ、法子お姉ちゃん。ありがとう助けてくれて。
 お姉ちゃんすごいんだね。すごい術だね」
 
術? 
そんな甘いものじゃねえ。
状況から考えると、こいつは、おれを巻き込んで時間遡行したんだな。
そして、優二郎が射られる前に助けにいったんだな…
自覚しているかどうかは別だが…。
 
「よかったね、優くん。うっ…うっ…うぇーん。よ、よか…よかった…」
 
なんでお前が泣くんだよ。自分が何したのか分かってるのか?
 
「お姉ちゃん、泣かないで。もう大丈夫だから…」
 
ほら、お姉ちゃん、これといってあいつに差し出したのはさっき見た花だった。
 
「お姉ちゃんが好きだって言ってたから取りに行ってたんだよ」
 
「ゆ…ゆうくん…あ…ありがとね。
でも、もうこんなことしないでね。
この辺は危ないんだからね。おねがい…」
 
「う、うん。わかった。もうしないよ」
 
「おい、とりあえず早く村まで帰ろうぜ」
 
「そうね、優くんもいこう」
 
「うん!」
 
俺は村に帰ると、長老のところに行って、すべてを話した。
長老はうなずきながら話を聞いてくれた。
 
「玉五郎、そういう事があったのじゃな。
ううむ、どうも、法子のやったことは単純な時間遡行ではないような気がする。
玉五郎、この家や村にお前の記憶にないものはないか?」
 
えっ? と思って回りを見渡す。
そういわれれば、何か違うような…。
うん、あちこちに記憶にないものがある。
あるいは、記憶していたものがなかったりする。
 
「確かに。優二郎の家には、朝顔が咲いていたはずだが…そのほかにもあるな」
 
「やはりな。法子は時間遡行を行うと同時に次元を越えたのじゃ」
 
「次元…を越える? なんだ、そりゃ」
 
「この世には同じような世界が存在しており、それぞれが、次元の壁で隔たれておる。
つまり、お互い見えないが、少しづつ違うよく似た世界が隣り合わせに並んでいるのじゃ。
法子は、お前たちがいた前の世界から、優二郎を助けることのできる次元、
この世界じゃな、に次元を越えて移動してきたのじゃ。」
 
「そ、そんな都合のいい話があるのかよ」
 
「ある。九尾の狐は次元を越え、空間から突然姿を現すのじゃ。
恐れていたことが始まってしまったな…。
放っておくと、法子は自分に都合が悪くなると新しい次元を創り始めることになる。
つまり、法子が望むたびに、新しい次元が増えるのじゃ。
しかし、前いた次元では、突然お前たちが消え、次元のバランスが崩れ、
さらに恐ろしいことが起こっているはずじゃ。消滅する可能性だってある。
法子が新しい次元を作るたびにその世界のバランスが崩れ、
それを阻止しようとする時間と次元のエネルギーによって…
いずれは…法子が消滅させられるか、あるいは、その前に妖狐として人間に葬られるか…」
 
「長老! じゃあ、前に言ってた、法子はその身を滅ぼすってのは、そういうことか?」
 
「お前が、前にいた次元のわしがそう言ったのなら、そういうことじゃろうて…」
 
「………」
 
俺は声も出なかった。俺を声もなく立ち上がり、法子のもとへ向かった。
 
「あっ、玉ちゃん。ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
 
法子は俺を見つけると、小走りに駆けながら近寄ってきた。
 
「ん? 何だ?」
 
つとめて、平然を装いながら、いつもどおりの答えを。
 
「あのね、私何してたの? 
確か、玉ちゃんと村まで帰ってきて、その後、何かがあって、次に気がついたら…
優くんを抱きしめてたの。私、何であそこにいたの? 
優くんはどうしたの?」
 
「あぁ、それはな…」
 
説明を始めようとしたが…今は、黙っておこう。
こいつが知らない間になんとかできれば、いいんだからな…
 
「…俺の幻術だよ。
 優とお前にお前が優を助けたような幻術を見せたんだ。
おかげで、お前はヒーローじゃねぇ、ヒロインになれたろ?
ちょっとは、感謝して欲しいなってもんだな。」
 
「あぁ、そうだったの…なんだ…うれしいけど、ちょっとショック。
私、本当に術を使って優くんを助けたのかと思ってたのに…」
 
すまねえな、今はそのぐらいのショックですませてくれや。いずれ、何とかしてやるからよ…
 
俺の命に代えても…。


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第4話をうpしたついでに、リニューアルしました。少しは読みやすくなったと思うのですが…SF好きのMAKOTOには格好の題材でした。あと、狐みみも好きですけど… 

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