決心

 
よいしょっと。まずは、家の中からね。あたしだって、車椅子なしで動けるん…だ…から。
か、階段は…ちょっと怖いからいつものとおり降りてっと、よし、ここで立ち上がって、食卓まで行くぞ。
 
「あら、郁乃おはよう〜、早いのね」
 
だめ、今は返事できない、一歩づつ、一歩づつ。
よし、食卓までたどり着いたぞ! やった! やればできるじゃん。
 
「郁乃〜どうしたの? 歩く練習?」
 
「う〜ん、ちょっとずつ練習しようかと思ってね」
 
「そうなの? あまり無理しちゃだめよ。無理のきく体じゃないんだからね。少しづつね」
 
「うん、わかってる」
 
と、返事はしたものの、あせっていることは事実。
なんとか、少しでも歩けるようになって、バウムに釣り合う女の子にならなきゃ。
 
「お姉ちゃん、あたしも手伝う。たいして出来ないけど、箸を並べたりぐらいならできるし」
 
「そう…? 無理しないでね。じゃあ、お願いね」
 
うん、わかったと言ったものの、立ち上がって、一歩動くのも一苦労なんだよね、これが。
箸を取るところまでは出来たけど、結局、立っていられなくなり、床に座り込んでしまったので、お姉ちゃんが、あわてて、近寄って来て抱き起こしてくれた。
 
「郁乃、無理しないの、お姉ちゃん心配だから。そんなことしなくてもお姉ちゃんがやってあげるからね」
 
「ご、ごめん。お姉ちゃん…」
 
結局、食卓に座らせてもらって、お姉ちゃんの作ってくれる朝食を食べることになってしまった。
 
自分の部屋に戻って、ベッドに横になりながら、天井を見上げて思った…なさけない体だ、たった数歩、歩いただけで動けなくなるんだから…。
 
でも、練習しなきゃ…あたしは、ベッドから降りると、立ち上がって…立ち上がって…って、立ち上がれない…力が入らないよ。そのまま、床に座り込んで自分の体を恨めしそうにながめていた。出来の悪いロボットでも、もう少し動けるわよね…たった、あれだけで、電池切れなんだものね。
 
その日から、毎日、少しづつだけれど、歩く練習を重ねていった。
とはいえ、それほどたくさんの練習に体がついてきてくれる筈も無く、一進一退というのがホントのところ。
 
そんなある日。
トゥルル…トゥルル…ガチャ
 
「はい、小牧です…はい、はいはい、その後いかがされてますか〜? 郁乃ですね〜。少々お待ちください」
 
え? あたし?
 
「郁乃〜、バウムさんから電話よ〜」
 
「あ、わかった、すぐ行く」
 
とはいえ、時間が掛かるんだなこれが…
ようやく、電話のところにたどり着いたあたしは、お姉ちゃんから受話器を受け取った。
 
「もしもし、お待たせしました」
 
「やあ、メープル、元気してた?」
 
「うん、あたしのほうは、あいかわらずよ、そっちは?」
 
「まあ、こっちも相変わらずってとこかな…」
 
「この間は、ありがとね」
 
「ん? 全然問題ないよ。大事な友達の退院だからね」
 
友達…ね、そう、友達なんだよね…でも『だいじな』って、言ってくれてるから。
 
「ところで、どうしたの?」
 
「あぁ、そうそう、チャットでは言いにくいので、電話にしたんだけど、今度うちの家に遊びにこない? 
 ひとりでは、無理そうだったら、迎えを寄越すから」
 
バウムの家? 『嬉しい、行く』って…その言葉を呑みこんだ。だって、まだ、まともに歩けないもの。
 
「え、あ、あの、お誘いは嬉しいんだけど、最近ちょっと体調が悪いのよね。
 なんだか、疲れやすいし、ちょっと体調が戻ってからお邪魔させてもらうわ」
 
体調が悪いのはホント。
だって、毎日、かなり無理して練習してるんだもの、疲れがたまってるって言う雰囲気よね。
 
「あ、そ、そうなんだ、大丈夫なの? 病院行ってる?」
 
「そこまで、悪いわけじゃないから、体調が戻ったら、こっちから電話する」
 
「う〜ん、そうか…じゃあ、仕方ないね。電話待ってるから、必ず、電話してよ。必ずだよ!」
 
「うん、わかった。じゃあね、バイバイ、バウム。電話ありがと」
 
「バイバイ、メープル」
 
あたしは、受話器を置くと、しばらく受話器から手が離せなかった。
行きたかった…バウムと会って、話がしたかった。
チャットでは、毎日のように会話してるけど、バニラもいるし、二人だけで話はできないから。
会いたいけど、バウムにもバウムの家の人に今のあたしを見せるのはいや。
すこしでも歩けるようになってから…
 
「お姉ちゃん、あたし、ちょっと出てくる」
 
「あれ? どこ行くの? お姉ちゃん、ついて行ったげようか?」
 
「ううん、ちょっと気分転換にその辺、回ってくるだけだから」
 
「そ…う? 気をつけてね」
 
お姉ちゃんの声を後にして家をでた。
実は、最近、ちょくちょく、近所の公園まで車椅子で行って、子供用の鉄棒のところで、歩く練習をしている。
ここなら、こけそうになっても、鉄棒を握ればいいから怖くないしね。
もちろん、お姉ちゃんには内緒。
だって、そんなこと言ったら付いてくるって大変だもの。
 
少し練習して、疲れたら、地面に座り込んで休憩…っていうのを繰り返す。
最近は、ちょっとは歩けるようにはなって来たんだからね。
さて、もう一踏ん張りと立ち上がろうとしたけど、力が入らない。
どうしたの?? そんなに疲れているはずないはず。でも、それになんだか、ぼーっとしてきた。
なんだろ、これ? 血糖値は関係なさそうな症状だし…
少し休めば回復するかなと思って、そこで座り込んでいたけれど、症状は一向によくならない。
どうしよう、帰れない…最悪は、携帯でお姉ちゃんに連絡すれば良いから、なんとかなるけど…
…できれば、それは避けたい。
 
「郁乃?」
 
後ろで不意に声が聞こえた。
これは、あいつの声みたいだぞ。
 
「やっぱりそうだ、郁乃って、あれ? 大丈夫? 顔色悪いよ」
 
そう言って、あたしの前に回りこんできた。あはっ、やっぱり、あいつだった。
 
「あまり、大丈夫じゃない。動けない」
 
あいつは、あたしの体を抱きかかえると車椅子へ向かった。
 
「郁乃? かなり熱いよ、熱あるよ」
 
そ、そうなんだ、疲れがたまってるのかな?
 
「な…なんで、あ…あんたが、ここにいるの?」
 
「おまえの家に行く途中だったんだ、愛佳から相談事があるって」
 
そうなんだ…あたしはと言うと、そのまま家まで連れて行ってもらって、あいつに部屋まで運んでもらった。
あたしは、『少し眠る』といってベッドに横になった。
実際、少し眠ってしまったみたいだった。
ふと目が覚めると、お姉ちゃんとあいつがベッドから少し離れたところで話をしていた。
 
「…っていう訳なのよ」
 
「でも、どうして、そんなに、急に歩く練習を始めたんだろう?」
 
「多分、だけど、彼氏の負担になりたくなかったんだと思うわ。
 私だって、郁乃と同じ立場だったら、同じことをするかも…」
 
「でも、彼も同じ病気だろ!」
 
「大きな声出さないで、郁乃が起きてしまうわ…」
 
「ごめん」
 
「女の子って、そんなものよ。自分の大好きな人のためなら何でもやっちゃうんだから…」
 
お姉ちゃん、知ってたのか…あたしが隠れて練習してるの。
 
「でも、大丈夫かな?」
 
「たぶん、疲れがたまってただけだから、2、3日ゆっくりすれば直ると思うわ」
 
「…」
 
「…」
 
ん? 何、話してるんだろう? 声が小さくてわからない。
 
「うん、わかったよ、やってみるよ。じゃあ、今日は、帰るよ」
 
あいつは、お姉ちゃんにそう言って、帰っていったみたいだった。
 
あたしはって言うと、本当に2日間寝たきりの状態が続いた。
3日目にようやく体を起こすことが出来るまで回復して、今日は久しぶりに食卓で食事をとった。
本当は、歩く練習したいんだけど…お姉ちゃんが目を光らせてるから、しばらくは自重しなけりゃね。
 
そして、さらに一週間が過ぎ、そろそろ、練習開始してもいいかな…? なんて思ってたときに、部屋をノックする音が聞こえた。『どうぞ』というと、お姉ちゃんが部屋に入ってきた。
 
「郁乃、今日は、ちょっと外へ行かない? 気分転換に」
 
「あ、嬉しいね、お姉ちゃん。行く、行く」
 
「じゃあ、ちょっとおめかしして出かけましょう」
 
と言いながら、あたしを鏡の前に座らせると、お化粧を始めた。
 
「どこ、行くの? お姉ちゃん? こんな化粧なんかいらないって」
 
「まあ、いいから、いいから。それから、服はこれがいいわね。うん、とっても似合うわ」
 
お姉ちゃんは、ひとり納得しながら、薄化粧をして、服を着せてくれた。
この服、嫌いじゃないんだけど…あたしには、ちょっと可愛すぎないかな?
お出かけの用意ができて、あたしを車椅子に座らせ、お姉ちゃんは、玄関のドアを開けた。
家の前には車が止まってるのが見えた。乗っているのは環先輩…と、あいつ…。
 
 
なにこれ?
 
あいつは、あたしを車椅子から抱きかかえると、車の中へつれて入った。
後から、環先輩も…。お姉ちゃんは、あたしの折りたたみ車椅子を車のトランクに入れ終わった後、車に乗り込まずに、ドアを閉めた。
 
「じゃあ、貴明くん、向坂先輩、お願いします」
 
「OK、愛佳、あとはまかせておいて」
 
「大丈夫よ、任せおいて頂戴。じゃあ、やってくださる」
 
車は、お姉ちゃんを置いて走り出した。
 
「ね、ねえ、ど、どこ行くのよ? あたし何も聞いてないわよ」
 
「大丈夫だって、このまま海外に売り飛ばしたりしないから。ねぇ、タマ姉」
 
「さあ、どうかしら…郁乃ちゃん可愛いからね…マニラあたりで、高値がつくかも…ふふふ」
 
あたしは、頭の中が『?』で一杯だったけれど、何を聞いても教えてくれないので、そのまま車に乗っていた。
車は、かなり走ってから、大きなお家の前で、止まった。
 
え? も、もしかして…でも…あたしは、表札を探した。
あった…そこには…『末森』…と大きな字で書いてあった。やっぱり…バウムの家だ。
 
「ちょ、ちょっと、ここ、バウムの家じゃないの? あたし、いやよ、今、バウムに会いたくない、帰して」
 
でも、あいつは、有無を言わせず、あたしを抱きかかえた。
 
「い・や・だって言ってるだろ、や・め・ろぉ〜。あたし帰る」
 
でも、あたしが、ちょっとぐらい暴れても男の子のにはかなわない。
あいつは、あたしを車椅子に座らせ、あたしの前にしゃがむとあたしと目をあわすようにして聞いてきた。
 
「郁乃、じゃあ、ひとつだけ教えてくれる? そうすりゃ、このまま、つれて帰ってあげる。
 どうして、あんなに無茶してまで歩く練習してたんだい?」
 
「あんたには、関係ないわ」
 
「ちゃんと答えないと、つれて帰ってあげないよ。ここからは、車が無ければ帰れないよ」
 
「な、なんで、あんたなんかに教えなきゃなんないのよ。
 あんたに教えるぐらいなら、ここから、ひとりで帰って途中で野垂れ死にするわ」
 
あたしと、あいつが、そんなやり取りをしていたとき、環先輩は、バウムの家の大きな門を開けて中に入ろうとしていた。そして、その門が開けられたとき、中から車椅子に乗ったバウムが…。
 
「それなら、僕には教えてもらえるかな? メープル?」
 
え? え? どうして?
あたしは、気が動転して、声にならない声をあげていた。
それを見た、環先輩が口を開いた。
 
「あのね、郁乃ちゃん。あなたのお姉さんから、タカ坊にあなたのことで相談があったのよ。
 あなたが、末森さんにも会わずに、お姉さんに隠れて、一生懸命…ううん…無理してまで歩く練習していて、
 どうしたらいいのかってね」
 
「お姉ちゃんが…」
 
「この間、郁乃を見つけたのは、その相談で愛佳に呼ばれていたときだったんだ」
 
「そこで、タカ坊は、末森さんのことを良く知ってる私に相談に来た訳。
 で、私も、お人よしのお節介なもんだから、彼に渡りをつけて、あなたの事をどう思ってるのか、
 色々確認してみたの。まあ、その結果、あなたを連れてきたほうがいいかな?って思ったのよ。
 だから、これは、私の悪巧みの一環と思って頂戴…ふふ」
 
「向坂先輩…」
 
「さあて、末森さん。この騒動に終止符を打ってくださいな? 
 向坂家代表として見届けさせていただきます」
 
「わかりました、向坂さん。ありがとうございます」
 
彼は、環先輩に軽く会釈するとあたしのほうに向き直った。
 
「メープル。いままでの事は、向坂さんと彼から聞かせてもらったよ。
 君がなぜ、そんなに急に頑張りはじめたのか?正直、僕には、検討がつかなかったよ。
 向坂さんは、女の娘の気持ちぐらい自分で考えなさいって言うしさ」
 
「バウム…」
 
「正直、今でも良くわからない。
 でも、僕のため、僕に負担にならないように考えてるんだったら、嬉しいけれど、そんなの関係ないよ。
 君は、僕にとっては大事な人なんだから」
 
「バ、バウム……ううん、そんなんじゃない。
 そんなんじゃないの、あたし、そんな可愛い女の子じゃないから。
 
 そうね…かっこよく言うとそういうことになるのかも知れないけれど…
 本当はね、歩けるようになったら、バウムに、そして、
 バウムの家の人にも認めてもらえるかと思って練習してただけ。
 
 だって、バウムはこんな大きな家の跡取りだけど…あたしには、何も…何もないもの…
 あたしが、バウムの横にいてもバウムには何も与えることができないもの…
 だから、せめて、見た目だけでも繕うために、この車椅子を捨てたかった…それだけなの。
 
 でも、よく考えたら、そんなことで何が変わるわけもない…たぶん、あたしは、分かってた。
 
 もう、今となっては、単なる自己満足。おまじないみたいなものよ。
 『あたしが、歩けるようになったらバウムは、あたしのことを見てくれる』ってね。
 
 あたしは、自分のことしか考えてなかった。
 あなたに嫌われたくない、あなたに少しでも良く見てもらおうって…それしか考えてなかったから。
 
 だから…だから、お姉ちゃんが、どれだけ心配するかとか、ほかの人の迷惑なんて何も考えてなかった。
 …でも、もういいの…あたしの事、嫌ってくれて…いいから。
 
 いくら、練習しても、歩けるようにはならないし、バウムに釣り合う女の子にはなれないから…。
 こんな、邪魔くさい女、放っておいてくれていいから…」
 
あたしは、もう、どうにでもなれと、正直に自分の心を開いてぶつけた。
もちろん、それが二人の関係をダメにしてしまうであろうことは覚悟のうえ。
最後のほうは、泣いてたと思う。
 
バウムはあたしの言うことを聞いて、ふ〜っとため息をついて話し始めた。
愛想をつかされたかな? 
仕方ないわね、もともと、こういう女だもん…あたし…バウムには釣り合わなかったんだ…。
 
「じゃあ、僕も言いたいことを言わせてもらうよ、メープル。
 
 君も知ってるように僕は病気のために、小さい頃から、歩くことができなかった。
 そのためにあまり、外へ出なくなり、当然友達もできなかった。
 
 でも、僕は、本当は友達が欲しかったんだよ、心を開いて話せる友達がね。
 そして、僕は、インターネットという新しい媒体に希望を持った。
 ついに、僕は、そこで、望むものを見つけた。同じ病気を語り合う仲間をね。
 
 そのうえ、僕は、そこで、素敵な女の子もみつけることができたんだ」
 
「…」
 
「そして、その頃、僕は、その女の子に会いたいと毎日願っていた。
 ある日、入院先の病院で、ようやくそれがかない、友達になることも出来た」
 
「あ、あ、そ、そ、それって…あ…た…し?」
 
「そうだよ、メープル。
 でも、君は、退院パーティ以来、連絡もくれないから、僕はてっきり嫌われてるのかと思っていたんだよ」
 
「そ、そんなことあるはずがないじゃないの」
 
「そうだね、今の君を見ればわかるけど、その時の僕には解らなかったよ。
 でもね、向坂さんや君を大事に思う人たちに、ここまでお膳立てしてもらったんだから、はっきり言うよ。
 
 メープル、いや、小牧郁乃さん、僕は、あなたの事が好きです。
 
 君の気持ちはよく分かったけど、釣り合うってどういうこと?
 人が人を好きになるのに理由なんて要らないよ。
 もし、釣り合いがあるのだとしたら、二人でいるときに幸せな気持ちになれるかどうかじゃないかな?
 それが、釣り合ってるって言うことじゃないかな?
 どちらかが、どちらかのために一方的に何かをするっていうことは無いんじゃないかな?
 
 だから、だから…僕とお付き合いして頂けませんか?
 二人で手を取り合いながら、病気を克服してくれませんか?お願いします」
 
「バ、バウム…」
 
「だ、だめ…かな?」
 
「べ、別に、ダ、ダメなんて言ってないわよ。
 あ、あんたが、そこまで言うなら、つ、つきあってあげる。
 で、でも、あたし、たぶん、あんたが思ってるより、わがままだよ」
 
「いいよ」
 
「いっつも、減らず口ばかり叩いてるから、可愛くないわよ」
 
「知ってる」
 
「でも、本当は、泣き虫のダメ女かもしれないわよ」
 
「かもね」
 
「じゃ、じゃあ、良いところ無いじゃない、あたしって」
 
「ううん、そんなものは、初めから何も関係ないんだよ。
 今、言ったろ、ただ、僕には、君が必要って言うだけだよ、メープル。
 君のそばにいると幸せな気分になれるんだよ。
 君は僕が初めて好きになった女の子で、そして、最後に好きになる女の子…それだけだよ」
 
こんな言葉をバウムから聞けてるなんて…あたしは、これ以上言う言葉がみつからなくなってしまった。
 
「じゃあ、末森さん、あとはお任せしていいかしら? 
 もう少し聞かせてもらってもいいんだけど、まあ、少々恥ずかしいし…ねぇ、タカ坊」
 
「そうだね、タマ姉、そろそろ、お暇しようか」
 
「じゃあ、私達は帰るから、郁乃ちゃんの事、ちゃんと送り届けてくださいね。
 香港に売り飛ばしたりしたらだめよ。じゃあ、行こう、タカ坊」
 
「うん」
 
「あ、そうだ、タカ坊〜、あなたは、愛佳さんが最後に好きになる女の子でなくてもいいわよ」
 
「えっ? タ、タマ姉、何をおっしゃいますやら、ははは」
 
「私は、タカ坊が最後に好きになるのが私になってくれれば、それで十分だからね。
 愛佳さんに飽きたら、いつでも言って頂戴」
 
「ははは、やだな〜タマ姉」
 
あ、そうか、環先輩って、まだ、あいつのこと狙ってるんだ…お姉ちゃんに教えてあげな…
…って、いいか、あたしは、今日からこの人と歩いていく。お姉ちゃんはお姉ちゃんね。
せいぜい、環先輩に寝取られないようにね…。
 
「じゃあ、中に入ろう、メープル」
 
「うん、お邪魔します」
 
「家族に紹介するよ。実は、もう皆に話はしてあるんだ…」
 
「ね、ねえ、バウム。今日のあたしっておかしくない? この服とか…」
 
「大丈夫、とっても可愛いよ、メープル」
 
「嘘ばっかり…」
 
「ははは、中へどうぞ、お姫様」

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TH2ADの郁乃ストーリー、最終回です。本当は、もう一話書こうかと思ったんですが、やっぱりやめました。おかげで、ちょっと長くなってしまいました。郁乃ちゃんの始めてのハッピーエンドです。たぶん、これから二人は、喧嘩もするでしょう、お互いに愛想をつかすこともでてくるでしょう。でも、二人とも、はじめの気持ちさえ忘れなければ、きっと幸せになれると思います。お幸せに…メープル。
 
ところで、ちょっと、この続きで、愛佳とタマ姉の貴明の取り合いを書きたくなってきました。愛佳、別れさせようかな…
 
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