貴明さん 素敵です!

 

 
「あら、草壁さん? 髪飾りなんて珍しいわね」
 
お昼休みに、私と貴明さん、小牧さん、向坂くんと木陰で話しているときに、小牧さんが私の髪飾りに気がつかれました。
 
「そう…ですね。あんまり、こういうものをつけないですものから」
 
「よ、よく似合ってるよ」
 
 
…って…貴明さんたら、気付かなかったくせに…
 
 
「貴明さん、気付いていたなら、初めに言って欲しかったです」
 
「あ、ごめん」
 
「ははは、貴明には、そういうのは無理だって、草壁さんだって分かってるだろ。
ところでさ、その髪飾りって、なにか『いわく』がありそうなんだけど、ちがうのかな?」
 
向坂くんったら、す、するどいです。
どうしようかな? このメンバーだから話しちゃおうかな?
 
「実はですね、この髪飾りにはですね、古代中国の呪いがかかっていましてですね、
持ち主に不幸を呼ぶのです…」
 
「え? え? 不幸? ほ、本当?」
 
「えぇ、ですから、これを今日は小牧さんにさしあげようかと思って…」
 
「え? え? いらない、いらないよ〜」
 
小牧さん…半分パニック状態ですね。
あとの二人は、にやにやしながら話を聞いてる。
 
「…というのは、ウソで…」
 
「え? ウソ? よ、よかったよ〜」
 
ふふ、小牧さんったら、本当に可愛いですね。
貴明さんが心をひかれるのも無理はないかしら?
 
「実は、この髪飾りには言い伝えがあって、太陽が乙女座宮にある時の満月の夜に、
その髪飾りをしている人を不思議の世界に届けてくれる…のです」
 
「ほ、本当?!」
 
小牧さんったら、目をまん丸にして…ふふふ。
 
「はい、本当です。で、今日の晩がその日なのです。
ですから、私は、今日、不思議の世界に旅立ちます。
…と言っても、実際にどこかに行く訳じゃなくって、
今日の見る夢が素敵な夢になるってことです」
 
「へぇ、そんなご利益があるんだ。じゃあさ、毎年素敵な夢が見れてるの?」
 
あら、貴明さんも興味津々のご様子。
 
「ハイ、昨年はですね。
戦国時代のお姫様になって、若いお侍さんとの道ならぬ恋を…素敵でした」
 
「それって、自分の思ったような夢が見れるの?」
 
「いえ、眠ってみて、実際に夢をみるまではわからないのです。
ときどきですけど、怖い夢もありますよ。
手に汗握る冒険も…でも、それはそれで楽しいのですけれども」
 
「ねぇ、ところで、その夢の話って…本当?」
 
貴明さんったら…私、いつもいろんな事言ってるから、
こういうときにはちょっぴり信用がないのですね。
まあ、それも楽しいのですけれど。
 
「さぁ、どうでしょう? 女の娘は不思議がいっぱいですから」
 
人差し指を唇にあてて、いつものきめポーズっと、どう? かわいいでしょ?
 
「草壁さんにはかなわないなぁ」
 
「あら、予鈴が鳴っていますわ。
 遅刻しちゃいけませんので、このへんで、皆さん教室に向かいましょう。
 夢の内容は、明日、報告いたしますわ」
 
「そうだね、じゃあ、草壁さん、またね」
 
結局、この日は、これ以上の話題にもならずに、そのまま、私は家に帰りました。
今日は、本当に夜が待ち遠しいです。
 
今日、貴明さんたちに話した内容は、半分本当。
夢を見ることは間違いないのですけれども、実は、意識だけがタイムトリップするのです。
ですから、今日これから見る夢は、本当に起こったことやこれから起こる本当の出来事なんですよ。
 
…って、誰に説明してるんですか?
 
さぁて、食事も済ませましたし、
お風呂にも入りましたし、
外出着にも着替えましたし、
準備は万端整いました。では、いざ! おやすみなさい。
 
…いい夢が見れますように、私は、そっと髪飾りをなでた。
…できれば、素敵なラブストーリーがいいな
 
 
…なんて思いながら眠りについちゃいました。
…………
………
……
 
あら? ここは、どこかしら? なんとなく見覚えのある景色ですね、ふんふん。
あ、これは、学校の近くの公園ですね。
でも、なんとなく違和感があるのは何故でしょう?
あ、そうか、公園の周りが少し違うのですね。
ということは、これは、今の公園じゃなくって、昔の時代の公園ってことでしょうか?
 
あらあら、男の子がひとりやってきましたね。
向こうから、私は見えているのかしら? 
ちょっと手を振ってみましょう。
あら、こちらに手を振り返しました。見えてるのですね、うふふ。
じゃあ、少しお話してみましょう。
 
「こんにちは」
 
 
 
 
「こ、こんにちは、お姉さん」
 
「お名前はなんて言うのかな?」
 
「え〜と、こうのたかあき」
 
「え?」
 
今、なんて? 『こうの…たかあき』? 
…って、貴明さん? 
…の小さいとき?
 
うわぁ〜素敵です〜。
 
「どうしたの? お姉ちゃん?」
 
私がびっくりした表情をしていたものだから、貴明さんったら。
 
「ううん、なんでもないのですよ。ところで、たかあきくんはいくつですか?」
 
「えとね、ぼく、5さい」
 
小さな手を広げてわたしに見せる貴明さん、なんて可愛いのでしょう。
 
「えと、貴明さ…たかあきくん。誰かお友達が来るの? 
 もし、来ないなら、お姉ちゃんと一緒に遊びませんか?」
 
彼は、うんと大きく頷くと私を手を引いて、
ジャングルジムのほうへ
…あらあら、これは
…私、スカートですのに。
 
「あの、たかあきくん。お姉さん、スカートだから、登れませんけど」
 
そういうと、彼は、私を見上げて、
お友達はみんなスカートでも登ってるよと
不思議そうな顔をしていたのです。
 
 
こんなことなら、ジーンズにしておくのでしたわ。
でも、どうしようかしら、スカートでは、あまりはしゃげないですね。
そうだ! お話なら、興味持ってくれるかな?
 
「ねぇ、たかあきくん。
 お姉ちゃん登れないから、かわりにお話してあげる。
 面白いお話いっぱいありますのよ」
 
彼は、目を輝かせて、早く話して欲しいとせがんできましたので、
ジャングルジムの前の砂場に座らせると、この間の冒険のお話を始めましたのです。
 
「…そのとき、お姫様は、悪いやつらにさらわれて…」
 
身振り手振りを交えてお話しすると…あらあら、たかあきくん、一生懸命。
これは、お話のしがいもあると言うものですね。
 
「そして、船乗りは、美しいお姫様を助け出すと、大鷲につかまると…」
 
え〜と、お姫様は私の事なんですけど、美しい…ですよね。
ま、いいか…
 
「…そして、二人は、めでたくもとの国に帰りました」
 
パチパチパチ…
 
あら、いつの間にやら、他の子供も集まってきて聞いていたのですね。
ちょっと恥ずかしいかもです。
 
「は、はい、みんな、今日はおしまい。もう遅いからお家に帰りましょう」
 
その声を合図に集まっていた子供たちも、
『お姉ちゃんまた、お話してね〜』という声を残して、
三々五々家路に向かいました。
 
わたしは、たかあきくんに送っていってあげると言って、
手を繋いで公園をあとにしたのです。
たかあきくんの手は小さくてとっても可愛いのです。
このまま、つれて帰りたいぐらいなのですけど、
それは、犯罪になります…よね…。
 
「たかあきくん。今日は楽しかった?」
 
「うん、お姉ちゃん、また、お話聞かせてね。今度、何時くるの?」
 
「う〜ん、そうですね、ちょっと分かりませんけど、また、そのうちにですね」
 
「じゃあ、今度来たら、うちにも来てね」
 
「はい、わかりました」
 
多分、もう来ることはないとは思うのですけど、
そんな、楽しいお話をしながら、帰っていると、
彼が突然『あ、お母さんだ』と言って走り出しました。
 
へぇ〜、そう言えば、貴明さんのお母さんにお会いしたことはなかったですね。
ご挨拶しときましょ…って、あとでパラドックスにならないのかしら?
 
(えと、意味の分からないお友達は、SFに詳しいお友達に聞いてください:優季談)
 
「あのね、あのお姉ちゃんに遊んでもらってたの」
 
一生懸命、お母さんに説明するたかあきくん。
ほんと、可愛い。
 
お母さんと呼ばれた人は、私のほうに向かって会釈をして、
私の顔を見つめると不思議そうにしていました。
 
 
あれ? 私、何か、おかしかったでしょうか?
そ、そうか、ちょっと不審人物かもしれませんね。
ご挨拶しておきましょ。
 
「初めまして、草壁と申します。
 さっき、公園でたかあきさんとお会いして、一緒に遊ばせてもらいました」
 
「く…さかべさん? あ、そうなんですか? 
 じゃあ、義母(はは)の親戚の方ですか? 
 あまりにも義母の若い頃にそっくりなので、びっくりしました」
 
え? なんのことでしょう? 義母?
私が頭に『?』いっぱいつけていたら、その方が説明してくださいました。
 
「すみません、突然。
 いえ、あなたが、あまりにも私の義母に似ていたものですからびっくりしましたが、
 義母の旧姓は草壁と聞いてましたから、多分ご親戚の方ではないかと思いまして」
 
「あ、そ、そうなんですか? その、お母様のお名前はなんと仰いますか?」
 
「はい、草壁優季と申しますが、ご存知ですか?」
 
え? 
 
その名前はですね…多分、知ってますよ〜。
 
…だって、私の名前ですよね
 
…義母?
 
なんのことでしょう?
 
「あ…は、はぁ、存じておりますが…」
 
「あ、そうでしたか、やっぱり、ご親戚の方でしたんですね。
ご存知だと思いますが、義母は不思議な人でしてね。
なんだかつかみどころがないって言うか、やっぱり、不思議な人でしたね」
 
「は、はぁ…」
 
そう、あからさまに、不思議だと言われると、なんだかこそばゆいですね。
それに、この人、私のことを義母って。
ということは、私が結婚してから生まれた子供のお嫁さん?
そういうことですね。
 
じゃあ、あの子は、私の孫?
でも、たかあきくんって?
 
「この子の名前もね、義母がつけたんですよ。
 義父(ちち)の名前を、そのまま取ったんです。
 この名前をつけておくと、いいことがあるとかで。
 義母の言葉を借りると、運命的な出会いがあるとかで。
 さすがに同じ漢字はということで、漢字は違うのですけどね」
 
ようやく、わかってきました。
私が、今日の経験をして、いつか、私が私の孫に会うことが分かったから、
私の孫に『たかあき』って、名前をつけたのですね…。
 
ちょ…ちょっと待ってください? 
 
 
でも、『たかあき』って、名前をつけたから、
私に会って、こういうことが分かったんですよね。
じゃあ、どっちの私が先なのでしょうか?
 
まあ、どっちでも、いいですか?
世界は不思議に満ちているんですから…
 
……
………
…………
 
『というような、夢でしたのですけれど、いかがでしたか? 貴明さん?』
 
次の日、貴明さんがひとりの時を狙って、昨日のお話をしてみました。
貴明さんったら、始めは、面白そうに聞いていたのですけれど、
途中から、もじもじしだして、可愛いったらないんですから…
 
「い、いや、な、なんともいえないなぁ、ははは」
 
うふふ、困ってる、困ってる。
 
「素敵な夢でしたよ。私、起きてからしばらく現実に戻るまで時間がかかりましたもの」
 
「す、素敵な、ゆ、夢なんだ…」
 
「ええ、ですから、今日は、貴明さんにお願いがあります」
 
「お願い?」
 
「はい、もし、私と結婚をして、子供が生まれて、
 その子供が男の子だったら、『たかあき』って名前つけてもいいですか?」
 
「あはっ、すごいお願いだね」
 
「そうでしょうか?」
 
「そ、そうだよ…それって、プ、プロポーズだよね」
 
「きゃん! プ、プロポーズ?」
 
そ、そ、そうなのですね。
そう、なりますよね、私ったら…なんてこと言っちゃったのでしょう?
多分、耳まで真っ赤になってると思います〜きゅう〜。
そ、それに貴明さんとの子供だって…ど、どうしましょう、ですぅ〜。
で、でも、言っちゃいましたですぅ…。
 
それから、しばらく、二人で真っ赤になりながら沈黙が続いていたのですけれど、
先に口を開いてくれたのは貴明さんでした。
 
「あ、あのね、草壁さん。もしも、もしもだよ、もしも、け、け、結婚したら、
名前のことは約束するけど、結婚することについてはちょっと…」
 
「…」
 
「あ、違う、違う、そうじゃなくって、草壁さんのことが嫌いなんじゃなくって、
僕たちまだ若いから、今は、そ、そ、その、こ、こ、恋人ってことで…」
 
「え?」
 
こ…い…び…と?
え? 本当? いま、そう言いましたよね。
きゃう〜。
 
「あ、あの、貴明さん、ほ、本当にいいんですか? 
 小牧さん、向坂さん、このみちゃんもいらっしゃるのに…」
 
「ん? 愛佳とはそういう関係じゃないし、むこうもそう思ってないから。
 タマ姉もこのみも単なる幼馴染だから関係ないよ」
 
うふふ…皆さん、それを聞かれたら、がっかりされると思いますよ、鈍感な貴明さん。
でも、まあ、いいですよね、人のことは。
 
「じゃ、じゃあ、本当にいいんですね…」
 
「う、うん」
 
「きゃう〜運命的ですぅ〜。貴明さん、大好き、大好きです」
 
「う、うん、お、俺も…」
 
「貴明さん♪ 貴明さん♪」
 
「あ、あの、草壁さん」
 
「はい? あ、優季って呼んでください」
 
「え?」
 
「恋人同士ですから、優季って…」
 
「じゃ、じゃあ、優季さん」
 
「『優季』! 小牧さんには愛佳って呼んでるじゃないですか」
 
「優季」
 
「はい? なんでしょう?」
 
「あのさ、さっきの夢の話って、本当に全部ホント?」
 
 
…さあ、どうでしょうか? 
 
 
女の子には不思議がいっぱいですから…
 
 

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えと、初めて草壁さんのお話を書いてみました。結構、苦労しましたが、どうでしょうか?草壁さんらしさが出てますでしょうか? なかなか、難しいキャラですね。Toherat2の中では、愛佳、郁乃についで好きなキャラなんですけど…

草壁さん=タイムトラベルみたいな感じがしていたので、そういうストーリーになってしまいました。ネタ的にはもうひとつだったかもしれませんが、また、そのうち新しいネタにもトライしてみます。

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