ラブレター
「破ることはないよ」
「え?」
「だって、大事なものなんだろ」
タカ坊は、私が破り捨てようとしていた手紙を、その内容も見ずにそう言ってくれた。
これは、私にとっては大事なもの、小さな私がしたためたあなたへの気持ち、そう…恋文。
アルバムを見ているときに、偶然に出てきたあたしの小さいときの手紙が、いつものようにドタバタ騒ぎを引き起こして、そして、いつものように…丸く収まったかもしれない。
私の気持ちを除いて…。
あれは、私が九条院へ行く少し前だったかしら、あの頃は、いつも雄二を引き連れてタカ坊やこのみと遊んでいたと思う。いつも楽しく遊んではいたのだけど、一つだけ、思い通りにならない事があった。それは、タカ坊が、私を女の子として扱ってくれないこと。
彼は、とってもジェントルマンだったから、このみには、完全にナイトとして振舞っていたけど、私には、まるで男友達と一緒にいるような感じで接してきていた。それ自身は、別にいやではなかったけれど、どこかで、このみに対する嫉妬みたいなものがあったかもしれない。
そんなある日、私たちは、いつものように裏山の秘密基地へと遊びに行っていた。
ここは、雄二をこき使って作ったものなのだけど、当然、タカ坊とこのみも来て良い事になっていた。
基地からは、街の全景が見下ろせてとっても爽快。
だから、時々、ここに来て景色を眺めながらお昼寝したりしていた。
でも、その日は、急に天気が悪くなり、気がついたときにはかなりの雨が降っていた。
「タマ姉、すごい雨だね」
「そうね、ここにいれば大丈夫だけど、しばらく、あまやどりかな?」
「このみは、雨がやむまでまつよ」
「そうね、それしかないわね」
私たちは、しかたがないので、雨が止むまで待つことにしたけれど、その日の雨は、いつになっても止みそうに無かった。
いや、むしろ、雨足が強くなってきたみたいだった。
「タカ坊、雄二、このまま待っていても、雨は止みそうにないし、私、走って家に帰って、かさ取って来るよ」
「ダメだよ、タマ姉。こんな雨の中帰ったら風邪引いちゃうよ。行くなら僕がいくよ。」
「タカ坊、私が一番年上なのよ。私の言うことをききなさい。」
私は、タカ坊に有無を言わさず、外へ飛び出していったけれど、格好よくというわけにはいかなかった。
飛び出して、始めの坂で滑って下まで落ちていってしまった。すぐにタカ坊が飛び出してきて、私のそばまで来てくれた。
「タマ姉。大丈夫?」
大丈夫、と言いながら、立ち上がろうとしたけれど、足が痛くて立ち上がれない。
「あ…つ、痛」
「タマ姉…大丈夫?…じゃないよね」
「だ、大丈夫よ…」
そういいながら、立ち上がろうとしたけれど、力を入れようとすると激痛が走る。
もう、この時点で二人ともびしょ濡れの泥だらけ。
彼は、私の痛む足のほうに回ると肩を貸してくれたので、ようやく立ち上がることができた。
「タマ姉、歩ける?」
「うん、多分、大丈夫だと思う」
「OK、じゃあ、どのみちびしょ濡れになっちゃったから、タマ姉ン家まで行こう」
「そうね、ふふふ」
私は、彼につかまりながら、家まで歩いていった。結構時間がかかったので、家に着くころには雨はほとんど上がっていた。彼は、私を送り届けたあと、タカ坊も一緒にお風呂をという母の言葉に、「このみが待ってるから」と一言残して、走り去っていった。
このみと雄二は、結局雨が止んだので、それぞれ家に帰っていた。
結局、私のやったことは何の役にも立たなかった。
ただ、タカ坊をずぶ濡れにさせてしまっただけだった。
その後、私が、しゅんとなっていたのは、足が痛かったからでもなく、おばあさまに、こっぴどく叱られたわけでもなかった。
タカ坊が風邪を引いてないか心配で仕方がなかったからだ。
だって、私がいらないことをしなければ、彼をあんな目にあわせることも無かったはずだし…。
心配は的中した。次の日、タカ坊が学校を休んだのだ。
私は、授業が終わるのと同時に、一目散にタカ坊の家に向かった。
でも、呼び鈴を押そうとして、私は、ためらった。
だって、タカ坊を休ませたのは私だもの…私のせいだもの。
どうしようかとためらっていたら、中からドアが開く気配がした。
「あらあら、誰かいるのかと思ってみたら、環ちゃんだったのね、お見舞いに来てくれたの? 環ちゃんは足のほうはどうなの?」
「あ、は、はい。とりあえず、歩けるぐらいにはなりました。これもタカ坊のおかげです。と、ところで…タカ坊のようすは、どうですか?」
「だいじょうぶよ、単なる風邪だし」
「おばさま、ご、ごめんなさい、私のせいで…わたしの…」
謝ってるうちに、なぜだか分らないけれど涙がこみ上げてきて、言葉を詰まらせてしまった。
「あらあら、、別に環ちゃんが悪いわけじゃないわよ」
「でも、でも、おばさま…」
「話は、貴明からきいてるわよ。あなたも、貴明も正しいと思ったことをしただけでしょ。二人とも間違って無かったと思うわ。ほら、中に入って頂戴」
おばさまに促されて、私は彼の部屋へと向かった。
ドアを開けて、タカ坊の寝ているベッドのそばまで近寄っていったが、彼は気付かず眠り続けていた。
氷枕に頭を乗せて、ベッドで寝ているタカ坊は、いつもより呼吸が速く苦しそうだった。
『私のせいだ』…そう思うと、涙がこみ上げてきて、いても立ってもいられなくなってしまった。
「タカ坊…ごめんなさい…ごめんね、タカ坊」
私は、うつむいたまま、タカ坊のベッドの布団の端を握りながら、謝っていた。
いまさら、謝ったって、どうしようもないし、誰も許してくれるはずは無いのだけれど。
「タマ姉…」
えっ? と思って顔を上げたけれど、タカ坊は眠ったままだった。
でも、反射的に、私は思わずタカ坊の手を握りしめていた。
タカ坊は眠ったままだったけれど、握った私の手にはタカ坊のぬくもりが伝わってきた。
そう…少し、熱っぽい彼の手を一生懸命握り締め続けた。
どれくらいの時間が経ったのだろうか?
私は不覚にも、そのまま、タカ坊の手を握ったままベッドでうたたねをしていた。
目が覚めたときには、もう、夕方になっていた。
私は、タカ坊を起こさないように、そっと、手を離して、「ごめんね、タカ坊」というと、タカ坊の部屋を後にした。
帰ってから、自室で彼のことをずっと考えていた。
あの時、私は、自分で格好をつけるために、雨の中に飛び出していった。
タカ坊は、私が滑り落ちたのを見ると一目散に飛び出してくれた、雄二よりも早くに。
その後、彼が肩を貸してくれて、家まで帰ったとき、正直、とっても嬉しかった。
どうして?
だって、初めて、やさしくされたんだから。
やさしく?
私、そんなことを願っていたの?
タカ坊に?
えっ? もしかして…私、タカ坊が好き…なの?
私は、私の気持ちに初めて気付いた。
ちょっとこのみに嫉妬していた気持ちも、やっとわかった。
私は、タカ坊に、恋してる…の? ね?
ど、どうすればいいの?
漫画とかじゃ、男の子が告白するんだよね…私がするものじゃないよね…。
でも、女の子は代わりに、ラブレターを渡したりするんだ。
そうだ! ラブレターだ。
私は、立ち上がると、お気に入りの便箋を出してきて、タカ坊に、ラブレターを書き始めた。
なかなか、うまくいかないけどやっと書き終えて、封筒に入れた。
ここまでは、良かったのだけれど…こ、これを、渡す?
そう考えたとたん…カーっとなって、顔が火照るのを感じた。
多分、真っ赤になってると思う。
そう、その手紙は、結局渡せず、そのまま、アルバムの中に封印された。
それが、これ。今回の騒動の元。
彼は、破らなくてもいいと言ってくれたから、破らないけど、この気持ちには終止符を打つわ。
「タカ坊、ありがと。破かないでおくわ…、タカ坊、あ、あの聞いてくれる?」
「ん? 何? タマ姉」
「あ、あのね、私ね、タカ坊のことが…ずっと、ずっと…子供のときから、あの、好…」
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TH2ADのDVD第一巻を見て、あの、ラブレターには何が書いてあったんだろう…なんて想像しながら書いてみました。
タマ姉の恋心をもう少し描ければよかったかもしれませんが…難しかったですね。一応、DVDを見てない人にもわかるように書いたつもりなんですが…どうでしょうか?
このあと、タマ姉は、結局、告白できたのでしょうか?
鈍感な、貴明のことですから、少々のことでは、無理でしょうから…無理だったかも…
でも、タマ姉的には「けじめ」は、着いたんじゃないかな?と思ってます。
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