ねこさん

「きれいな月ですね。こんな日は、素敵な彼と二人っきりで過ごしてみたいものです」
 
「うん? 悪かったな、あたしで…いつまでも、うじうじしてるから、彼氏ができない。あたしのせいじゃない。優季のせい」
 
「うん、わかってるんですけどね…」
 
今、私と話してるのは…実は、猫さん。
うちの飼い猫なんですけどね。
 
名前は、まだ無い…じゃなくって、ヤミーって呼んでます。
何故かっていうと、いつもお腹をすかせていて、なにをあげてもおいしそうに食べるからなんです。
でも、結構、高級品志向で、チーズなんかも大好きなんですよ。
 
なんで、話せるのかって言うと…分からないんですけど、何故か話せるんですよね。
本猫(ほんにん)の話によれば、もともと、普通の猫だったんだけど、
長いこと魔法使いの使い魔として生活していたので、魔力を持つようになったって…本当かな?
ただ、ちょっとぶっきらぼうで、偉そうなんですよね、これが。
 
「分かってるなら、男つくればいいと思う」
 
そうなんだけど、私はちゃ〜んと心に決めた人がいて…
でも、どこにいるか分からないんですよね…実は…
 
「私にも、好きな人ぐらいいるんですから…」
 
「誰?」
 
「こ、こう、河野たかあきさん」
 
「誰?」
 
「転校する前の小学校の同級生なんですけどね。
 お父さんとお母さんが離婚するときに、優しくしてくれたんです。そのときから…」
 
「ふ〜ん。写真とかあるの?」
 
「最近のは無いですけど、昔のなら」
 
私は、部屋の隅っこからアルバムを取り出して、たかあきさんの写真を探しました。
 
「これよ、この人」
 
「ふ〜ん? あっ…そうか…ふ〜ん」
 
ん? どうかしたのかしら?
 
「え? 何? どうかしたの?」
 
「え? 別に…飽きたから、遊びに行って来る」
 
ヤミーはそう言うと、窓からピョンと飛び出して行きました。
また〜すぐ、夜遊びに行くんだから…
まあ、いいわ放っておきましょう。
ま、もともと、夜行性ですものね、猫って。
 
私は明日から、新しい学校に行くんですもの、早く寝ましょう。
学校に行って、クラス分けしたら、偶然たかあきさんが同じ…だったりして…
まあ、そんなことあるわけ無いですけどね…ふふふ。
とりあえず。今日はお休みしましょう。
 
明けて、翌日。
 
 
顔を洗ってから、制服に着替えて食卓へ。
新しい制服は、ちょっぴり嬉しいし、ちょっぴり気恥ずかしいです。
食卓につくと、もう、食事の用意は出来ていて、お父様が新聞を読んでいました。
反対側から、何気なくその新聞を見ていると、たかあきさんの名前が…
 
え? たかあきさん?
事故?
 
「お、お父様、ちょっと新聞を見せていただけませんか?」
 
「ん?」
 
私の慌てぶりに驚いたお父様は、すぐに新聞を私に渡してくださいました。
そこには、たかあきさんの死亡記事が…
流星観測に行った帰りにトラックに轢かれて…
え? 同姓同名? 年齢も同じ? ってことは、やっぱりたかあきさん?
 
そ、そんな、まさか…
まるで、全ての時が止まったような気が…
すぐには、事態が理解できず、何をしていいのかわからなくなって、
頭が真っ白になって、ふらふらと立ち上がって…
うしろで、お母様の声が聞こえてはいたんですけど…
 
私は、何も考えず、そのまま、表に出て行きました。
 
…はずなんですけど…あたりは、真っ白。
まるで、雲の中にいるような。
 
ここは、どこなんでしょう?
なんて思いながら歩いていくと後から声が聞こえました。
 
「ねぇ、新聞見た?」
 
ヤミーの声。
 
「えぇ、たかあきさんが…たかあきさんが…」
 
「そう、実は、あたし分かってた。昨日、優季が写真、見せてくれたときから分かってた」
 
え? 何を言ってるのヤミーったら。
 
「助けたい?」
 
「え? 何を言ってるの?」
 
「この人、助けたい?」
 
「もちろんです。助けられるなら、なんでもします」
 
「そう、あなたの命と引き換えでも…?」
 
「え? はい、もちろんです。だって、たかあきさんは…たかあきさんは」
 
わたしに、優しくしてくれた大事な人。
 
そして、多分、本人は気がついてないと思うけど、私にプロポーズでしてくれた人だから。
 
わたしに、苗字をあげるって…
 
あのときから、私は河野優季になることを夢見て…
 
だから、たかあきさんのいない世界なんて、私には、私には…
 
「わかった。そう言うと思ってた。
 これをゆっくりとかみ締めて。
 そうすれば、彼が死ぬ前の世界に行ける。
 そして、彼が死なないようにすればいいと思う」
 
ヤミーはそういうと私に小さな葉っぱを渡してくれた。
 
「それ、探すのに一晩かかった。うまくいったら、ごちそう」
 
「えぇ、わかりましたわ。これを噛めばいいんですね」
 
「そう」
 
私は、その葉っぱを噛むと、意識が遠くなっていくのを感じました。
そして、しばらくすると、体を揺り動かされるのを感じ、
目を開けると、そこには、たかあきさんが…
 
「ん…あ…たかあきさん…ふぁあ…元気なんだ。よかった…ふぁああ」
 
たかあきさんが、無事なのを見ると、安心してまた眠ってしまいました。
ヤミーの言ったように、ここは、たかあきさんがまだ生きている時間なんだ。
 
私は、深夜の学校でたかあきさんとの再開を果たしました。
その後、私たちは毎晩のように、深夜の学校でデートを重ねました。
そして、そのとき、私は彼を事故から守ることに成功しました。
 
彼を事故から守って…すぐに、私は、また、真っ白な世界に戻されてきました
…このまま、私が、変わりに死ぬんだ…って思ってたんです。
 
でも、目が覚めると、そこは病院でした。
 
「あ、やっと、目が覚めたのね。よかった」
 
お母さんが、私の目覚めを見てほっとしていました。
 
「このまま、目が覚めないんじゃないかと思って心配したわよ」
 
え? なんのことでしょう?
そう思って聞いてみると、あの日、私は家を出たところで車にはねられて、ここに入院したのだそうです。
お医者さんは、一日二日したら、目が覚めるでしょうから、後はゆっくり療養してくださいということだったらしいです。
 
でも、なぜ、私は生きているのでしょう?
ヤミーは、私の命と引き換えみたいなことを言ってたんですけど…
 
「あ、それからね、これが郵便受けに入ってたわ。あなた宛よ」
 
封筒を受け取ると、差出人を確認したけれど、心当たりが無い名前。
とりあえず、中を開けてみました。
 
便箋には、一面に猫の手形が…と思っていると、
見る見る間に、それが文字に変わっていきました。
 
 
ヤミーからでした。
 
『優季へ
 この手紙を見てるって事は、多分、うまくいったね。
 あの時、あなたの命がなくなっても…って言ったけど、あれは嘘。
 ちょっと、意地悪してみただけ、ごめん。
 
あなたは、予定通り、彼を助けたはず。
 実は、あたしには、全部分かってた。
 だから、あなたの家に飼ってもらえるようにした。
 
 本当は、あたしは、未来の世界から来た。
 あたしの前のご主人様は、あなたと彼の子供。
 
 あたしは、このご主人様のお母様が亡くなった時、重要な任務があると教えられた。
 教えてくれたのは、あたしが助けている魔法使い。
 
彼女の話によると、あたしは、あなたの大事な人を助けなきゃいけないらしい。
これは、もう決まってることだから、行かなきゃならないらしい。
 
だから来た。
 
話が、ややこしくって、こんがらがってるかも知れないけど、
時間の矛盾は、今のあなたには説明できない。
 
だから、未来のあなたの子供が飼っていた猫が助けに来たって思って欲しい。
 
未来にあなたの子供に飼ってもらった時は、
あたしは、普通の猫だから話は出来ないけど、その猫があたし。
 
 
その時にに思い出して欲しい。
 
大好きな飼い主のおかあさんへ
あたしの本当の名前は…ル…やっぱりやめ…いずれ分かることだから。
 
(追伸)
あのときの約束だったごちそうは、チーズがいいな。
いつか飼ってもらった時に食べさせて頂戴。
カマンベールチーズの一番上等の奴じゃなけりゃいやだからね。』
 
ヤミー…そうだったんだ。
正直、ヤミーの言ってることは、よくわからないけど、たかあきさんを助けるために、未来から来てくれたのですね。
 
そして、たかあきさんと結ばれることを…
ありがとう、ヤミー。
じゃあ、退院したら、たかあきさんと運命的な出会いを果たして、
あなたとの運命的な出会いを待ち遠しく思いながら…そして…
 
そうそう、そのときは、いっちばん良いカマンベールチーズをご馳走して差し上げますわ。
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草壁さんルートで、過去からたかあきを助けに行く草壁さんの秘密を書いてみました。
あのタイムトラベルは、明らかに未来の世界が、過去の改変を必要とした結果起ったことのように思いましたので、
その役割を魔法使いの使い魔に託してみました。
草壁さんと猫って神秘的で似合うと思いません?
 
ところで、さくらシュトラッセをプレイされた方はお気づきかもしれませんが、このねこさんのモデルはルゥリィです。
だから、瑠璃子の親が貴明と優季になるわけですね…
でも、あまりにも、ご都合主義ですので、その辺は割愛しました。
 
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