封印

 
「おい、油断するんじゃないぞ。いつもの奴より手ごわそうだ」
 
「うん、わかった」
 
俺と法子は悪霊と戦っていた(正確には戦っているのは、俺だけだが…)。
 
霊? 
そんなものがいるのかと思うかもしれないが、
話せるし、術の使える狐がいるくらいだから、別におかしくないだろう。
 
なぜ、そんなものと戦っているのかって? 
これには、訳がある。
この法子は、自分では意識していないが強大な霊力をもっているらしい…
っていうか、最近、特にその力が強くなってきている。
この力は、こいつの先祖に由来するものなんだが…。
 
その力を我が物にしようとする輩が、次々と現れてきている。
そのたびにそれを倒してはいるんだが…
最近は、相手も強くなってきていて、俺の力でいつまで守りきれるか不安だ。
いや、こいつのために全力は尽くすが。
 
「御伽羅波羅 風火の術。」
 
ギャーーーー。
 
ふう、この程度で、やっつけられてよかったぜ。
 
「玉ちゃん、いつもすごいね」
 
「まあな。お前とは出来が違うからな」
 
「うん、もう、わたしだってちゃんとやればね…」
 
「ああ、わかった、わかった。
お前は、おれが対抗出来ない奴が現れたときの切り札だから、そのときはたのむぜ」
 
「えへへ、切り札? そ、そうかな?」
 
…バカ…相変わらず、単純な奴だな…ま、そこが可愛くもあるんだけど…
 
「ねえ、玉ちゃん、今、絶対失礼なこと考えたでしょ?」
 
こういう、感は鋭いんだから相変わら…うん?
 
新手か?
 
「法子、気をつけろ、別の奴だ」
 
「えっ?」
 
ちょっと待ってくれ、相手は一体じゃねえぜ。
2、3、4体。
 
 
いや5体か…こいつら、悪霊じゃねえな…そのほうが戦い易いが。
 
「御伽羅波羅…」
 
俺は、前後のやつをとりあえずやっつけて、
右側の奴に気を集中したときに、真後ろからの攻撃をうけた。
 
「うおぉぉ〜っと、やってくれるじゃねえか。こいつ。」
 
「玉ちゃん大丈夫?」
 
「おぉ、大丈夫だ、垂錨の術」
 
さ、三体目…ふぅ。
四体目の攻撃に移ろうとしたときに、別の奴に体の自由を奪われた。
 
とたんに、四体目が、ふっと消えうせた。
しまった、これは囮だったのか。
これは、困ったぞ、術が使えない。
 
俺たちの目の前に、敵の親玉らしきやつが姿を現した。
 
「なかなか、強さだな。玉五郎とやら」
 
「なんだてめえ、法子は渡さねえぞ」
 
「ふふっ、その状態でも口だけは一人前だな。ふんっ!」
 
俺は、奴の八卦をまともに受けて、吹っ飛ばされてしまった。
もちろん、全精力をかけて防御したから、
それほどのダメージにはなっていないが、すぐに反撃できる状態にはない。
 
「玉ちゃんになにするの? わたしが相手よ」
 
法子は、俺の前にでて、ファイティングポーズをとった。
やめろ、いまのお前がかなう相手じゃないぜ。
 
「法子、どけ、俺が相手してやる。こんな奴、俺一人で十分だ」
 
「ははは、その体でよく言えたものだな…ふんっ! 翼于計」
 
俺は、近くの大木まで吹っ飛ばされ、身動きできなくなっていた。
 
「垂錨の術」
 
俺は動けないながらも、反撃を試みた。
だが、こいつは、おれの術を片手で払いのけ、平然としていた。
やばい、こいつ、霊力が桁違いだ。
俺一人では…、とはいえ、法子の覚醒は期待できないし、
今の法子ではやつに霊力を奪われる。
 
しかし、奴は、動けない俺には見向きもせずに、法子のほうに向き直った。
 
「どうだ、お前を守ってくれるナイトはあのざまだ。
おまえ自身と、お前のナイトを守るために、私とたたかってみないか?」
 
「いいわよ、覚悟なさい。風化の術ーーー」
 
えっ? いつの間にそんな術を覚えたんだ?
 
「ううむ。さすがに、すごい霊力じゃわい。気に入ったぞ、その力我が物にしてくれよう。」
 
そういうと、奴は両手をかかげて、法子の術を振りほどいた。
 
「えっ? これが効かないの? どうして?」
 
奴は、じりじりと法子に近づく。
 
「法子、逃げろ、お前の力でかなう相手じゃない。早く、逃げろ。
村へ帰れば、長老もいるし他の奴にも助けてもらえる。
早く逃げろ。俺が食い止めている間に」
 
俺は、奴に気をぶつけて時間を稼いだ。
ほとんど効いていないが、足止め程度にはなる。
奴は俺のほうを一瞬向いたと思うと、最大級の八罫をはなった。
 
「うおぉぉ〜」
 
俺は、全勢力を傾けて耐えたが、奴の八罫は、俺の動きを止めるには十分だった。
だが、なんとか法子を逃がさなきゃ。
 
「ま…だだ、お…お前の…相手…は…俺だぜ。
 の…法子、は、早くに…げ…ろ」
 
「でも、でも…玉ちゃん」
 
「い、いいから、に、逃げろ。
 こ、こんな奴、おれが料理してやる。
に、逃げろ、そ、そして長老や他の奴に助けを願え、いい…」
 
うおぉぉ、言い終わる前に奴からの攻撃を受けた。
これは効いたぜ、立ち上がれないぜ。
 
だが、法子は逃がさないと…と思い、法子をみると、親玉にじりじりと詰め寄られていた。
だめだそっちは崖だ、逃げれない。だが、俺も動けない…もはやこれまでか…
 
ぎゃあーーーー
 
な、なんだ、今のは、ん?
知らない間に親玉がやられているぜ。
 
「の、法子、お前がやったのか?」
 
「ううん、違うの。突然死んじゃったの」
 
「な…なんでだ…? な…にか…やった…か?」
 
法子が覚醒したのかと思ったが、すぐに原因がわかった。
 
「大丈夫ですか、お二人さん。見たところキツネさんですね。見事な術ですね」
 
「お…おまえ、だ、誰だ?」
 
「おやおや、命の恩人に対して、随分なお言葉ですね」
 
「い…のちの…恩人?」
 
「まあ、そういうことですね。
 私の力がなければ確実にお二人はやられていたでしょうからね」
 
「そ…そうかな?」
 
俺は、顔を上げると今出来る最大級の気をぶつけてやった。
だが、こいつは、それを片手で受け止めて、
自分の目の前でとめ、まるでお手玉を操るように俺のすぐ後ろの木にぶつけた。
木は根元から砕け散った。
 
「おわかりでしょうか? 彼女は別にして、あなたとは、桁が違いますよ」
 
こいつ、強い。
しかも、法子のことをわかってるとは…
油断ならねえ…どうしてくれよう。
 
「あ、ありがとうございま〜す。ほら、玉ちゃんもお礼言わなきゃ」
 
なんで、こんなに脳天気なんだ。
そいつは、法子の言葉に答えて微笑みながら自己紹介を始めた。
 
「私は、風間 陽、ごらんの通り人間です。
 訳あって、修行しながら旅をしています。
ごらんになって分かりましたとおり、霊能力者で、
かなりの力を持っていると自負しています。
そちらの女性の方の霊能の波動を感じて、
かけつけてみれば、先ほどの戦いに遭遇したというところです」
 
「本当にありがとうございます。ほら、玉ちゃんもお礼言う」
 
「…」
 
「ごめんなさい、負けたものだから拗ねてるんですよ。
よければ、村まで来てください。御礼もしたいので」
 
「こ、こんなやつ、村に連れて行く必要ないぜ」
 
「玉ちゃんは黙ってる」
 
法子は、おれを拾い上げると、抱えて歩き始めた。
情けない話だが、今の戦いで、俺は立てなくなっていて、
法子に抱かれながら、村まで帰るしかなかった。
やつは、では、少しお邪魔しましょうといい、俺たちについてきた。
 
村に着くと、法子は一部始終を長老に話した。
当然のことだが、長老も法子の長姉も
この風間という奴には最大限に感謝の意表し、
御礼の意味で、しばらく村へ逗留してくれとまで、言い始めた。
 
風間は、ちょうど、このあたりで逗留する必要があったので、
それでは、お言葉に甘えさせていただきましょうかねと、長老の家に宿泊することになった。
 
俺はというと、ちょっと気にはいらないものの、
風間に助けられたことは事実なので、複雑な心境だ。
こいつの正体が気にはなるが。なにと言っても、あの妖怪を倒した奴だからな。
 
とはいえ、今日は、風間のお礼を込めた歓迎会だ。みな、長老の家に集まっている。
 
「みんな、昨日、法子が強大な妖怪に襲われ、そのときにこの御仁に助けて頂いたことは、
聞き及んでいると思う。今日は、そのお礼を込めた歓迎会じゃ。
おおいに楽しんで、この御仁をもてなして欲しい」
 
パチパチパチ。一斉に拍手が起こった。
 
「さあ、法子、風間殿におつぎして」
 
「はい、風間さん。どうも、有難うございました。一杯どうぞ」
 
「じゃあ、遠慮なくいただきます。ここのところ、酒は飲む機会が無くてね」
 
「ところで、風間殿は、なぜ、諸国を回っておられるのですじゃ?」
 
「わが、風間一族は、代々皇家に仕えておりましてですね、
私の兄が、その主な命をうけているのですが、
私は、修行をかねて、昨日倒したような、妖怪を倒すのが仕事です。
この地方は、どうも、地脈が乱れているようで、
もう少し、逗留し根こそぎ妖怪どもを退治しようと考えていたところに、
昨日の妖怪に出逢ったというわけですよ」
 
「そうですか、しかし、法子に聞いた話では、聞きしに勝るお力とか。
そこにいる玉五郎も決して能力の低いものではないのですが、
あいつが、手を焼く相手を事も無げに倒すとは…」
 
「ははは、偶然ですよ。
 彼が、戦っていたおかげで、相手が弱っていたのでしょう」
 
「ううん、そんなこと無いわ。とっても強かったんですよ、長老。
私も、玉ちゃんも、全然歯が立たなかったんだから」

「そんなことねえよ。
 一対一なら、あんなやつに負けはしねえよ」
 
「負け惜しみ言って〜」
 
「うるさい、うるさい」
 
「まあ、そういうことにしておきましょうよ、法子さん。
確かに彼は残りの雑魚を3体倒したんですから…」
 
いちいち、気にいらねえやつだな、こいつは…
この場は、とりあえず、引き下がってやるが、
いつか化けの皮をはいでやるぜ、風間さんよ。
 
次の日、おれは、法子と風間の声で目が覚めた。何やってるんだあいつらは?
 
「うー。風化の術」
 
「もう少しですね、もう少し、ためが必要です。
まだ、十分に気が満ちていない間に、術を放っています。
それでは、攻撃力は半減です」
 
広場にでた俺はびっくりした。
あいつらは、二人で術の練習をしているところだった。
 
「おい、お前ら何してる?」
 
「あ、玉ちゃん、おはよう。術の練習だよ」
 
「やめろ、やめろ、そんなに急に術の練習しちゃだめだ」
 
法子が覚醒して、九尾の狐の魂に精神をのっとられたら、
もう、俺では、太刀打ちできない。
 
「なんでよ〜。玉ちゃんは、私が術を覚えるのをどうして止めるのよ」
 
「い、いや…そ、それは…」
 
これは、こいつには言えない。俺と長老の間の約束だからな。
 
「法子さん、玉五郎さんは、あなたの能力に嫉妬してるんですよ。
あなたの能力は彼よりはるかに上ですから」
 
こいつ…すでに法子の能力に気が付いたんだな。
 
「ほらほら、玉ちゃん、今度から、私が助けてあげるから、邪魔しないで。
風間さん、続きやりましょう」
 
くそっ、たしかにその通りなんだが…なんとかしなきゃ、法子が覚醒してしまったら…。
 
「さあ、法子さん、もう少しやりましょう。ここ数日で、ぐっと霊力は増していますよ」
 
「ハイ」
 
なんとかならねえか…。このままじゃ、法子が。
長老に相談してみようか、いや、だめだ、
長老もこの風間って奴を絶対的に信用してるし、法子の姉ちゃんもそうだしな…。
 
なんか気にらねぇ、とはいえ、今の状況で俺が手を出せる状態には無いしな…。
俺はいつもよく法子と日向ぼっこしていた丘まででてきた。
しゃあねぇや、日向ぼっこでもするか?
 
あーあ、面白くねぇ。
 
しかし、あの風間ってやつ、本当に俺たちの味方なんだろうか?
今までの感じからするとそうなんだけど…
 
ちょっと待てよ。あいつ、そういえば俺が戦っているときは加勢しなかったよな。
法子が戦ってるときもぎりぎりになってから、戦ったよな。
偶然といえば、あまりにもできすぎる気がする。
あれだけの霊能力の持ち主だ。
俺がその前のやつらと戦ってるときから気が付いてたはずだ。
 
じゃあ、なぜ?
 
ひょっとすると…奴の狙いは他にあったというのか? 
 
ま、まさか…
 
「た〜まちゃん、だ〜れだ?」
 
急に後ろから声をかけられたと思ったら、同時に目隠しされた。
こんなことする奴は一人しかいない。
 
「雪かな? 泰子? タマか?」
 
「あ〜ん、いじわるぅ〜。判ってるくせに…」
 
「ははは、まあ、そう怒るな、法子」
 
「やっぱり、判ってたんだ。だから玉ちゃん大好き」
 
だ、大好き…って、おいおい、顔が赤くなるじゃないか…
 
「あはっ、玉ちゃん照れてるの。かわいい」
 
俺は、それ以上突っ込まないで、法子のほうに向き直ると術について話し始めた。
 
「法子、術のほうはどうだ?一生懸命練習してるみたいだけど」
 
「うん、大分、うまくなったよ、見ててね。燐火の術」
 
といって、両手に炎をまとい始めた。
その炎は見る見る間に大きくなっていった。
 
「どう? すごいでしょ」
 
た、確かに…やっぱり霊能力が違うからな、でも心配だ。
 
「なあ、法子、そ、その、術の練習もそのぐらいにしないか?
心配しないでも、俺が守ってやるからさ。」
 
「また、そんなこと言ってるの?
まあ、私が強くなるのが羨ましいのはわかるけど、いやよ。
もっと、もっと強くなるんだから。
そうしたら、玉ちゃんを守ってあげられるよ、大きいおねえちゃんみたいに」
 
「でもなぁ、あまり強くなるとなぁ…」
 
「玉ちゃん、しつこい。
わかった〜、私が風間さんと仲良くしてるので嫉妬してるんでしょ。
大丈夫よ、風間さんは人間だもの、私は、玉ちゃんのほうが好きだよ。
術を教えてもらってるだけだからね」
 
いや、そういう意味じゃないんだけど…ん?
こいつ今、さりげなく、恐ろしいことをおっしゃりましたよ。
お、俺のことが、す、好きだって?
 
「そ、そうか、まあ、がんばって、はやく俺を越えれるようになってくれ」
 
「うん、がんばる」
 
次の日、あの風間って野郎は、法子を連れて谷まで妖力向上の練習にいきやがった。
 
俺は、こそっと、長老の家に。
しめしめ、誰もいねぇや、いまのうちに。
俺は風間の部屋に忍び込んで、やつの荷物を調べた。
 
ん〜、あまり変ったものは持ってないなぁ、やはり、奴のいってることは本当なのかな? 
 
これは何だ?
 
これは護符だな、かわった護符だな、見たことがないやつだな。
あとで、誰かに聞いてみよう、一応、写しておこう。
おっ、これは、ふむふむ、過去に倒した奴の記録だな。
 
こ、これは、あいつは、狐も倒してる。
 
『妖力は並外れた力を持っていたが、通常の化け狐を越えるものではなかった。九尾の狐ではないと思われる。』
 
な、なにーー。こ、こいつ、九尾の狐を探してるのか?
 
ひょっとして?
 
俺は大急ぎで、やつの荷物を片付けると法子の姉さんのところにいった。
 
「姉さん、こ、これは、なにかわかりますか?」
 
とさっきの護符の写しを見せた。
 
「ん? なんだい、藪から棒に、見せてごらん」
 
法子の姉さんは、それを見ながら何かを考えていたようだが、突然、はっとしたように顔を上げて、俺を見つめた。
 
「た、玉五郎、これをどこで?」
 
「風間って奴が持ってたんだ。それは、なんなんです?」
 
「こ、これは、九尾の狐を封印する護符だよ。」
 
「な、なに? っていうことは、あの風間って奴、法子が狙いですか?」
 
「そうかもしれない、今二人はどこにいるの?」
 
「谷へ行ってる」
 
「玉五郎、あたしも、あとから行くから、お前ひとっ走り様子を見に行っておくれ」
 
「承知」
 
俺は、大急ぎで谷へ向かった。
練習をするなら、あそこだろうと目をつけていた場所に二人はいた。
おれは、そこで、驚いた光景をみた。瀧の流れをせきとめ逆流させている法子がいた。
法子は、あんなことができるようになってるんだ。
 
「法子」
 
俺が声を掛けると、法子はこちらを振り返った。
からだから、青白いオーラがでている。いつかのときと同じだ。とめないと。
 
「法子、やめるんだ。きょうは帰ろう」
 
法子は、俺を認めると術をといた、途端に、瀧は普通に流れ始めた。
 
「玉ちゃんすごいでしょ」
 
「ああ、でも、やめて帰ろう。こいつといると、ろくなことにはならないぜ」
 
「また、そんなこと言ってる」
 
「そうですよ、玉五郎さん、男の嫉妬は見苦しいですよ」
 
「や、やかましい。じゃあ、これはなんだ。
お前の荷物の中にこれと同じものが入っていたぞ。
こ、これは、九尾の狐を封印する護符だろ。
お前の狙いは、九尾の狐の末裔を探し出し、封印することだろう。」
 
「な、何いってんの玉ちゃん?」
 
「そうですか、気が付きましたか、止むを得ませんね。
確かに、貴方の考えている通りです。
そして、私は九尾の狐の血を色濃く受けている、この法子さんを見つけました」
 
「き、きゅう、九美のきつね?」
 
…か、漢字が違う。
 
「そ、そうだ、お前の先祖は九尾の狐だ。
 その妖力が暴走しないように今までみてきたんだ。
しかし、それもこいつのおかげで、難しくなってきたがな」
 
「大丈夫ですよ、玉五郎さん。彼女は、まだ、完全に覚醒していません。
彼女の能力をみていると、間違いなく、九尾の狐の直系ですね。
覚醒する前に、私が封印しますよ」
 
「くそっ、やっぱりそういうことか…はぁーー」
 
俺は、八罫をやつに放った。やつは、それを事も無げに跳ね返す。
やはり、おれの力ではどうしようもないのか。
 
「次は、なんですか、玉五郎さん。風化の術でしょうか? 于翼計でしょうか?」
 
「御伽羅波羅 風化の術ぅぅぅ。」
 
しかし、やつは、術が当たる寸前に体をかわした。
 
「あなたの戦い方は、以前見せていただきましたし、貴方程度の力では、私は倒せません。
素直に法子さんを渡せばよし、さもなければ、まずあなたから葬らなければなりません」
 
「たとえ、負けるにせよ、おれは、法子を守ると心に誓ったんだ。
法子を封印したければ、おれを倒してからにするんだな」
 
勝ち目は、全く無いが、時間を稼げば、法子の姉ちゃんが来てくれるんじゃないかという期待と、ひょっとすると、長老も。
 
「では、臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前 風止の術。さあ、身動きできないでしょう」
 
た、たしかに、う、うごけない。
そう思った瞬間、おれの目の前に奴の放った八罫が、
最大限に防御したが、ほとんど役にたたなかった。
俺は、やつの八罫を食らうと、前に倒れていった。
く、くそっ、か、体がうごかねぇ。
 
「玉ちゃん、玉ちゃん、大丈夫?」
 
「だ、大丈夫じゃねぇ…」
 
「玉ちゃんになにするの。
 玉ちゃんは、玉ちゃんは…
 わたしの、わたしの大事な人なんだから〜」
 
法子の体から、青白いオーラが出てきた。
 
や、やめろ、法子。
 
しかし、今の法子には、そんな言葉が聞こえるはずも無く、いきなり攻撃に移った。
法子の発する気は風間の前で、奴の気とぶつかった。激しい衝撃波を感じる。
二人の気のせめぎあいだ。
 
「うわぁぁぁぁ」
 
法子のパワーがまた一段と強くなったようだ。
 
「おぉぉ、こ、これほどの力とは…ぎゃぁーーー」
 
風間は法子の気でふっとばされ、川の向こう岸まで飛ばされた。
法子をみると、自分の気を槍の形にしているところだった。
これで、串刺しにしようというのか。
これが法子なのか?
もう、元にはもどらないんだろうか?
 
風間のほうも、気を溜め始めた。
ん? 違う、あいつの狙いは法子じゃない。
 
お、俺だ。
 
そう思った瞬間奴の気が俺めがけて飛んできた。
俺は、なすすべも無くそのまま、瀧の横の大岩にたたきつけられた。
意識が遠くなる中で、法子の声が聞こえている。
法子、負けてもいいから、逃げてくれ。
 
俺は、そのまま、意識を失った。
 
つぎに目が覚めたときは、ぼろぼろになった風間が目の前にいた。
おれは、戦いたかったが、もう何の力も残っていない。
 
「か、風間、お前がいるということは、法子は負けたんだな」
 
「そうですね。苦労しましたが、彼女が、あなたを助けようとした瞬間にスキができました。
そこを狙って、攻撃したさせてもらいました。
なんとか、あとは一進一退の戦いでしたが、最後の瞬間で勝たせてもらいました」
 
「と、いうことは、法子は封印されたんだ…」
 
そういいかけて、そばにいる法子に気が付いた。法子も、俺と同じように横たわっていた。
 
「し、死んでるのか?」
 
「いいえ、封印させていただきました」
 
「じゃあ、もう目覚めないのか?」
 
「いいえ、彼女の腕を見てください」
 
法子の左腕を見ると、数珠でできた腕輪が…
 
「あれは、一種の護符です。めったなことでは切れません。
まあ、私より強力な術者がいれば、切れるかもしれませんが、
そのときは、彼女の命の保障もありません。つまり、あれは、私しかはずせません。
つまり封印できたわけです。」
 
「たしか、九尾の狐の封印は、岩にするって聞いたぞ。どうして…」
 
「そうですね。それが正式な方法ですね。
でもね、あなた方を見ていたら、たとえ、九尾の狐の血を引いてるとしても、
その幸せを奪うことはできないと思いましてね。
それにあなたがついてる限りは、彼女が覚醒することもないでしょう。
たとえ、覚醒しても、貴方が良いほうへ導いてくれるでしょうから。」
 
「風間…あ、ありがとう」
 
「ははは、はじめて、あなたからお礼の言葉がいただけましたね」
 
「そ、そうか…」
 
「ふふふ…」
 
「ははは…」
 
「玉五郎さん、わたしは、これで、この地を離れます。
このことが知れるとあなたの一族の中には
私のことを快く思わないものもでてくると思いますので。
そこで、あなたに、2つプレゼントです。」
 
「プレゼント?」
 
「はい、ひとつは、あなたの力を倍以上にできるお守りです。
 あなたの気は、陰の部分が少なすぎる。
 そのため、パワーが無駄遣いされています。
 このお守りはその足らない陰の部分を補うことができます。
 
 もうひとつは、彼女の封印を解く方法です。
 あなたの力でも彼女を守りきれず、如何しようもなくなったら、解いてあげてください。
 彼女の力を、邪悪なものには渡せません。
 今の彼女の力であれば相当なものでなければ勝てないでしょうから。
 ただし、その場合は、彼女の命と引き換えになる可能性があることを肝に銘じておいてください。」
 
「風間…こんなことしていいのか? おまえの一族で問題にならないのか?」
 
「いえ、封印はしましたから、問題ありません。
もしかしたら、わが一族から刺客が放たれるかもしれませんが、
その時は、しっかり守ってあげてください。」
 
「わかった、男と男の約束だ。俺の命を懸けても守るぜ」
 
「ありがとうございます。では、私はこれで、失礼します」
 
「ああ、どうもありがとう、それから、達者でな」
 
「あなたも。では」
 
風間は、そういい残すと去っていった。
法子、よかったな。これからも、命を懸けてお前を守るぜ。
これで、おわりじゃないんだ。これから始まるんだ。
 
でも、今日は、目覚めたら、村に帰ろうな。俺たちの村へ。疲れたぜ…
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法子の第4話です。とりあえず、ひと段落といったところです。この後、法子の人生を書いていきたいと思ってます。九尾の狐の末裔として生まれてきた悲哀と苦悩。玉五郎の協力のもとに一生懸命生きる法子を見守って生きたいと思います。大好きな法子へ… 

↓よろしければ、ポチっとお願いします。作者の創作意欲が高まりますので…

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