向坂 環、1981年7月7日生まれ、今年26歳、これがわたし。
今は、家業を継ぐためにお得意様のところで修行させてもらってるところ。あと2、3年は続けなきゃならないかな?
え〜と、もちろん、独身。言い寄ってくる男は星の数ほど…ってほどじゃないけど、まあまあ、もてるほうじゃないかしら。
でも、私には、大事な人がいるの、小学校のときから想い続けていたひとが…。
彼は、いったん他の女の子と付き合い始めたんだけど、うまくいかなくて、その後、わたしと付き合うことになったの。
あれは、大学卒業してすぐだったから、もう、6年にもなるかしら。
その間、彼は技術系の大学へ進学し、一年間アメリカへ留学後、今は大学院の2年生。
誇らしくなるほど素敵な彼だから、みんなに、言いふらしたくなっちゃう。もちろん、知ってる人以外には、言わないけどね。
唯一の問題は、実験の都合で、すぐデートをすっぽかされる事だけど、すぐ、彼のフォローがはいるから、特に、不満はない…。でも、そのたびに呼び出されてる、このみや友達には異論があると思うけどね…ふふ。
さてっと、今日は金曜日だから、帰りに彼の研究室に寄ってみようかな?
たぶん、実験中だと思うから。え〜と、研究室の人には、お土産でも買っていこうかな?クッキーでいいかな?

「こんばんは〜。向坂で〜す。お邪魔しま〜す。」
「あ、向坂さん。こんばんは、ちょっと待ってください。河野先輩呼んできます。」

もう、この研究室もよく来てるな。顔なじみになっちゃったな。

「あ、これ皆さんで召し上がってください。」
「いつもすみません。ちょっと待っててください。お茶でも入れさせますから。おい、4回生、誰かお茶入れて。それから、河野先輩呼んできて。あっ、こちらでお待ちください。」

学生さんが、ばたばたとどこかへ行ったと思うと、しばらくしてドアを開けて彼が入ってきた。

「あ、タマ姉いらっしゃい。もう仕事は終わったの?」
「うん、今日は早かった…ていうか、外回りだったから、会社に戻らず、直帰にしたの。」
「そうか、じゃあ、ちょっと待っててくれる?もうすぐ終わるから。」
「うん、待ってる。」

でも、それを聞いてた彼の後輩が、後始末ならやっときますよと言ってくれて、そのおかげで待たされることもなく帰れた。
あの後輩さんには、こんど何か買って行ってあげよう。

「タカ坊、どっかで食事でもして帰らない?」
「うん、いいね…と言いたいところだけど、軍資金がないんだよ。」
「おごってあげるわよ。」
「いつも、悪いよ。」
「大先生になったら、も〜っと、いいもの買って頂戴!」
「はいはい、わかりました。」

そう答えた彼の顔に、少し暗そうな表情が見えたのを私は見逃さなかった。
どうしたんだろう?何か心配事でもあるんだろうか?あとで、聞いてみよう。

いきつけのイタリアンレストランに行って、ちょっぴりお酒も入って、ほろ酔い気分だけど…さっきの表情が気になるわ。
どうしようかしら、聞いてみようかしら?でも、せっかくの雰囲気をこわしそうだから、また今度にしようかなって思ってたら、向こうから切り出してくれた。

「タマ姉、ちょっと、相談に乗ってくれる?」
「いいわよ、どうしたの?」
「実は、来年の進学についてなんだけど、やめて就職しようかどうか迷ってるんだ。」
「えっ?博士課程修了するんじゃなかったの?」
「うん、そう思ってたし、親も、お金のことは心配しなくていいって言ってくれてる。まあ、奨学金もあるし、金銭的にはなんとかると思うんだけど…。博士って、あと2、3年ぐらいで取れるもんじゃないんだよね。だから、早くても、取れたら、30歳ぐらいになっちゃう。そしたら、タマ姉との結婚がそのあとになっちゃうし、たぶん、給料も安いから、生活するのに十分なお金が稼げないし…。」

あぁ、そういうことだったのね。気にしなくてもいいのに…でも、それが、彼のいいところね。
1年間の留学のときにも、わたしを寂しがらせないように気を使ってくれたし…。

「タカ坊。決めるのはあなただから、どうこうしなさいとは言わないけど、他人のために自分のやりたいことを曲げちゃだめじゃない?少なくとも、わたしは、そう思う。」
「そうだね、タマ姉ならそう言うと思ってた。ゆっくり考えてみるよ。」
「そうね。研究室にこもってないで、たまには、雄二あたりと気晴らしでもしてきなさいよ。」
「ははは、そうだね、雄二にも長いこと会ってないような気がするな。」
わたしも帰ったら雄二にでも相談してみようかしら。

その日は、そのまま、タカ坊に送ってもらって、家の前でキスしてもらって…っていうか、強引にキスしちゃっいました…ぽっ。

「ただいまぁ〜。」
「お、姉貴、おかえり。」
「あら?雄二帰ってたの?あ、そうだ、ちょうどいいわ。最近ね、あなたとタカ坊の近くで何か、変わったことなかった?」
「変ったこと?貴明には最近会ってないしな。特にかわったことは…そうだな、まあ、俺らに共通のことと言えば…最近、結婚したり、子供ができたりという奴が多いぐらいかな?まあ、女の子が多いけどな。男も何人かいるぜ。」
 
「ふ〜ん。あんたは?名前忘れたけど、カヤネズミみたいな人の妹さんとつきあってるんでしょ?」
「あ?あぁ、もう少し金が貯まったら、結婚しようかと思ってるんだけど。
  なかなか貯まんないんだよなぁ…そろそろ、結婚適齢期なんだからと、郁乃からもせっつかれてはいるんだけどな…。」

結婚適齢期ね…そんなこと考えたこともなかったわ、性格的にあまり先のこと考えたりするの好きじゃないしね。
ちょっと雄二に相談してみようかなと、今日の出来事を話してみた。

「姉貴、そりゃ、しかたないぜ。実際さ、学生時代の友達が結婚するとあせるぜ。
  いまのままでいいのか?と思ったりして。貴明の場合は、収入もないし、ある意味、明日の保障がない訳だからな。
  実際は、俺なんかから見ると、うらやましい限りだけど、これは社会人にならないとわからんだろうな。」

「そうか…でも、難しいよね。どうしたら、元気付けられるんだろう?」

「簡単じゃん。貴明が学生の間に結婚すりゃいいんだよ。どうせ、貴明と結婚するんだろ。
  結婚したら、ここに住むことになってんだろ?貴明の両親も納得済みだろ。
  じゃあ、籍だけ入れて、ここに住みゃあいいじゃないか。結婚式は後でもいいじゃないか。
  どうせ、親父が盛大にやるつもりだろうし。」
「そ、そうか。そうね。おとうさまに相談してみよ。」
「その前に、貴明にな。」
「ありがとう、雄二。あなたの結婚のときも応援するわ。」

その晩、わたしは色々なことを思い出していた。
初めて彼に会ったときのこと…幼稚園だったかしら。
小学校、そして転校…高校での再開、ささらさんにタカ坊を奪われたこと、タカ坊を取り戻したとき…
わたしの、今までって、全てタカ坊が中心なのね。
そうよ、決めた。明日言おう。今、何時かしら?11時。まだいいわよね。

トゥルル〜トゥルル〜ガチャ

「はい、河野です。」
「タカ坊?わ・た・し。」
「あ、タマ姉、どうしたの、こんなに夜遅くに…。」
「え〜っ、電話しちゃいけないの?彼女なのに…婚約者なのにぃ〜冷たいんだ〜。もう、わたしなんか飽きちゃったんだ…他の女のこのこと考えてんだ…。」
「ちょ、ちょっとタマ姉、そんなことないよ。タマ姉が一番だよ。愛してるよ。」
「…って言うことは、二番とか、三番の人がいるわけ?」
「そんなことないよ。タマ姉が全てだよ。他の人のことなんか、これぽっちも考えたことないよ。」

ふふん、これが聞きたかったの、こう言えば、かならず慰めてくれるものね。

「じゃあ、許してあげる。ところで、明日ヒマ?」
「昼は実験があるけど、夜ならOK。」
「何時ごろ帰ってくる?タカ坊の家で、ご飯作って待ってる。」
「じゃあ、8時には帰る。」
「OK、じゃあ、明日ね。愛してるわタカ坊。」
「愛してるよ、タマ姉。おやすみ。」

次の日、わたしは、夕方から買い物に行って、タカ坊の家へ。
ご両親は、海外で仕事中っていうか、もう帰ってこないかもってタカ坊が言ってたな。

さあて、とりあえず、下ごしらえもできたし、あとはタカ坊が帰ってきたらメインを料理するだけね。
裸エプロンで迎えてあげたら欲情するかしら…って、今日はやめよう。
まじめな話をしに来たんだから、そのままベッドインは避けないと。

ピンポーン。帰ってきた!わたしは大急ぎで玄関までいくと、ドアをあけた。
そこにいたのはもちろん、いとしのタカ坊。彼に抱きつくと、キスをせがんだ。
彼はゆっくりと私の唇に彼の唇を重ねたてくれた…あぁ…愛されてるって感じ。

「タカ坊、食事の用意できてるわよ。腕を振るったんだから、期待してね。」
「うん、いいにおいがしてるよ。おなか減った〜。」
「はいはい、じゃあ、着替えておいでよ。その間に仕度しておくから。」

彼が自分の部屋に行ってる間に、仕上げに入って…と、あっ、もう降りてきちゃった。

「もう少し待ってね。」
「うん」

さあて…と出来た出来た。お皿を運んでっ…と。

「さあ、タカ坊、召し上がれ。」
「いただきます、タマ姉。どうも、ありがとう…うん、これおいしいよ。」

よかった〜、女って不思議ね。こう言われると、嬉しくてなんでもできるような気がするもの。
食事をして、食後のコーヒーを飲んでると、タカ坊が聞いてきた。

「さて、タマ姉、今日は何ですか?こういう日は、必ず、何か話があるんだよね。」

「ふふふ、お見通しっていうわけね。じゃあ、ざっくばらんに、話させてもらうわ。
  実は、昨日の話のことだけど、わたしは、やっぱり、あなたに進学して欲しいの。
  だって、あなたが、博士になってそして先生になって、あなたの横であなたのしたいことを応援するのがわたしの夢だから。
  そして、わたしのために、それを諦めて欲しくないの。」

「でも、タマ姉。そんなことしてたら、僕たちいつまでも結婚できないよ。子供だって…。」
「うん。わかってる。わたしも結婚したいし、子供も欲しい。
  まあ、子供はすぐじゃなくてもいいけど…。だから、先まで待たないで、すぐに結婚しない?」

えっ?と言いたげな彼を尻目に話を続けた。

「今のあなたに、経済力がないのは十分わかってる。
  で、それをあなたが嫌がってることも分かってるけど、それって事実なのよね。
  それに目をそむけてもダメだと思うの。
  結婚って、経済的な安定を得るためにするように言う人もいるけど、わたしは違うと思う。
  二人で、互いに助け合って、相手のやりたいことを補ってあげることが、結婚する目的だと思う。
  だから、今は、わたしの方が経済力あるんだから、わたしが支えるの。
  その代わり…ううん…その代わりなんてないの、いつだって、タカ坊の進む道を支えてあげたいの、いろんな意味で。
  そして、二人で幸せになりたの。」

「タマ姉の言いたいことはわかるけど、それじゃ、タマ姉に対する負担が大きいよ。僕は、男として納得できないよ。」

「タカ坊。昨日ね、いろいろ考えたのっていうか、思い出してたの。初めてタカ坊と会ったときのこととか…覚えてる?」

「あぁ、覚えてるよ。なんて横暴なお姉ちゃんなんだって思ったよ。」

「うふふ、そうだったかしら…でね、高校転入やその後のこともいろいろ思い出したの。
  その間、今もだけど、タカ坊は、わたしに、ずーっと優しさを注ぎ続けてくれたの。
  そして、その優しさが、わたしの欲しい全て。わたしには、経済的な支えなんていらないし、物質的なものは何もいらない。
  だから、タカ坊の優しさを、もっと…もっと欲しいの。それが、わたしの人生での最大の支えになるの。
  他のものはいらない…ほかのものは、がんばれば、手に入るもの…でも…」
「…」

タカ坊は、一生懸命何かを考えている様子だったので、わたしも話すのをやめた。しばらくして彼は、ポツリとこう言った。

「タマ姉の言ってることは…よくわかったよ。」
「えっ?」
「タマ姉の言う、『タマ姉に注いだ優しさ?』、それが、どんなものかは僕にはわからない。
  けど、それって、大事なタマ姉を思う気持ちなのかもしれない。
  タマ姉がほしいものがそれだっていうのなら、僕が考えている事はナンセンスだね。でも、本当にそれでいいの?」
「もちろん、いいに決まってるでしょ。」
「わかった。下らないことを言ってごめんね。
  なんだか、みんなが、社会に出て行く中で僕だけ置いてけぼりにされたような気がして、あせってたことは事実。
  でも、結婚のことは、目的を達成するまで待っててくれる?
  お金はないから、両親とタマ姉のおとうさんに頭を下げてお願いするから。」

結婚資金ぐらい、もう貯まってるんだけど…まあ、いいわ、彼がやる気を出してくれたことが嬉しいから。
こんど、おとうさまにお願いして、早く結婚しろって言ってもらおう。

「うん、嬉しい。大好きよタカ坊。」
「僕もだよ、タマ姉。」
「ねえ、もういい加減に、そのタマ姉っていうのやめにしてくれない?そ、その、な、名前で呼んでくれない?」
「だめ、養ってもらうんだから、その間はタマ姉さ。早く、『環』って呼べるようにがんばるから、その日まで待っててよ。」
環って…うれしい。早くそう呼んでもらえるようになりたいな…
「ええ、ず〜っと待ってる。」
「そして、死ぬまで、そばにいてよ。」
「えぇ、いやだって、言っても地の果てまでも追いかけていくわ。」

「…タマ姉…愛してるよ。」
「愛してるわ、タカ坊…」
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ところで、タマ姉っていくつか知ってます?
ウィキペディアによると、TH2は、THの2年後という設定らしい。
THは1997年発売ですから、1999年が舞台?
実際、ゲームの中で、3/24(水)終業式という表現がなされています。
1999年の3/24は、水曜日ですので、この設定が一番適しているかと。

とすると、タマ姉は1999年7月7日には18歳になるわけですから、誕生日は1981年7月7日ということになります。

…っていうことは…今年、26歳!!
という設定で書いてます。
(注)貴明の一人称について
貴明の一人称は『俺』ですが、この話は、貴明が25歳のときのはなしですので、あえて、一人称は僕にしました。
大学院にもなって俺はないですから。

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