恩返し

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「なあ、お前、恩返しに行くんだろ?」 
 
「ん? そうだよ、玉ちゃん」 
 
「じゃあさ、どうして、お前はちゃんと化けないんだよ」
 
「化けてるじゃないの…かわいくない?」
 
「いや…か、かわいいけど…それって、人間に化けてんだろ? 
  じゃあさ、どうしてその『みみ』と『しっぽ』だけ狐のままなんだよ」
 
「だ〜って、完璧に化けるの難しいんだよ…玉ちゃんだって化けられないでしょ」
 
「俺はオスだから関係ないの」
(狐の世界では、化けるのはメスだけだそうです…
ただ、オスも術は使えるので、化けなくても幻覚を見せることによって
化けたように見せることは可能らしい)
 
「別に恩返しするのに、しっぽぐらいあったっていいじゃない。
 私、変化の術は得意じゃないんだから…」
 
じゃあ、何が得意なんだよ…
と言いたいところではあるが、まあ、しかたないか。
こういうやつだし…。
 
今、俺と話しているのは、俺と同じ狐の『法子』。
人間に恩返しに行くって聞かないもんだから、お目付け役としてつきそってきた。
こいつは、俺の幼馴染で、俺のことを玉ちゃんって呼ぶ。
まあ、名前なんて狐には特別重要じゃないから何でもいい。
 
そもそも、恩返しって言うのは、
罠にかかっていて、死にそうなところを助けてもらったとか…
車にはねられそうになったのを身を挺して助けてもらったとか、
そういう、聞いてて、ああなるほど…っていうものだろ。
 
こいつの場合は、森から出て行ったら、
帰り道が分からなくなって、巣にもどれなくなって、
挙句の果てに親切な人間に森まで送ってもらった…
というわけだから、どっちかって言うと、バカなんだよな…
でも、それに付き添ってる俺もまあバカだよな。
 
「ね〜え、今、バカって言わなかった?」
 
ちぇっ、なんで、こんなところだけ鋭いんだ?
 
「言ってねえよ、バカ」
 
「あ〜バカって言った〜。バカって言うほうがバカなんだからね〜」
 
「ところでよ、お前、恩返しって言ってたけど、何をするつもりだ?」
 
「えっ?何って…何したらいいの?」
 
「お前、そんなことも考えてなかったのか?」
 
「ん〜と、勉強はしたのよ。要するにお願いを聞いて、そのお願いをかなえてあげればいいんでしょ?」
 
「エッチなことを言われたらどうするんだ?」
 
「エッチなことって?」
 
「だ、だから、あ…あんなこととか、こ…こんなこととか…」
 
「…………む……むり……」
 
「じゃあ、こういうことが出来ますって初めに言わなきゃなんないだろ。
でも、お前、願いをかなえられるほど術が使えたか?」
 
「えへ〜。だ・か・ら・玉ちゃんと一緒に来たんじゃない」
 
「ん〜そうか〜…って、おい、おい、俺がやるのかよ」
 
本当にどうしようもないやつだな。
 
「で…その恩返しする人間ってどこにいるんだよ?」
 
「う〜ん。この辺だと思うんだけど…においが強くなってきたから…」
 
「…知らねえのか…」
 
「あっ、たぶんここだ。え〜といるかな? あっ、いたいた。あの子。」
 
あの子? なんだそれ? ひょっとして子供?
とか思いながら俺も覗いてみると、庭で小学生らしき子供が一人で遊んでた。
 
「ひとつ聞きたいんだが、まさか、あのガキに森までつれてきてもらったのか?」
 
「そうよ。なにか?」
 
「あのガキに連れてきてもらわなきゃ、おまえ、帰れなかったのか?」
 
「うん!」
 
嬉しそうにいうな、この…この、
 
「…バ、バカ…」
 
「あ〜バカって言った〜。バカって言うほうがバカなんだよ〜」
 
「わかった、わかったから、早く用件済まして帰ろうぜ…」
 
こいつに付き合ってると、こっちまで調子が狂っちまうぜ。
…と思ってると知らない間に、子供に声を掛けに…行動だけは早いんだからな…。
 
「ボク。こんにちは」
 
「お姉ちゃん…誰? それ? …コスプレ?」
 
俺は思わず爆笑してしまった。
た、確かに…これは誰がみてもコスプレだわ…はははっ。
 
しばらく、腹を抱えて笑ってたら蹴りを入れられてしまった。
ふん、凶暴雌狐め。
 
手…じゃなかった、足だけは早いんだから…
 
とりあえず、事情は説明しているみたいだな。
まあ、向こうにも記憶はあるし、こんなガキなら、
狐の恩返しって言っても納得するわな。
相手が子供でよかったな。
 
結局、その恩返しの内容は
俺が術を使ってかなえてやって、森に向かって帰ることにした。
人間の街なんてろくなことは無いから長居は無用だ。
 
しかし、気に入らねえのは、帰るときに、あのガキが、
「お姉ちゃんありがとう〜」とか言ってこいつに礼を言ってた事。
おいおい、俺がやったんだぞ。
 
それとも俺は何か? 
法子のお付の従者か? 
 
気にいらねえなぁ…と思ってると、ひょいと抱きかかえられた。
 
「玉ちゃん、今日はありがとうね。
 玉ちゃんのおかげでちゃんと恩返しが出来たよ」
 
法子はおれを、ぎゅうと抱きしめられた。
こいつ、人間に化けてるから、サイズも大きくなってんだよな。
しかも、両腕で胸に抱えられてるから、柔らかいものが…
 
これも悪くはないな…
 
「…ん、まあ、別にたいしたことじゃねぇから。
 なあ、お前もさ、ちょっとぐらい術が使えるように勉強しろよ」
 
「うん。今日の事で、ちょっと考え直した。
 やっぱり術は必要だよね。
 頑張って勉強するから、玉ちゃんも教えてね。
 それと、ちゃんと出来るようになるまでそばにいてね」
 
「ん? そりゃ、かまわないけど。」
 
いつまでも、おれを当てにするやつだな…
まあ、惚れた弱みか…
それに、この柔らかなものには勝てねえな…
とか思いながら、そのまま森の近くまでそのまま抱きかかえられながら帰っていった。
 
少々名残惜しかったが、こいつの腕からぴょんと跳ねて飛び降りた。
 
「お前、そろそろ、森も近いんだから、変化の術を解けよ」と言うと、
「うん」っていいながら、スケート選手よろしく、くるっと一回転した。
 
おいおい、普通、変化の術ってトンボ切るんじゃなかったか? 
こいつ、まだ、トンボを切れねえのか…
 
 
ん? 戻ってないぜ?
 
「おまえ、術が解けてないぞ」
 
「あれっ? 本当だ。もう一回」
 
くるっと一回転したが結果は同じ。
何回もくるくる回っていたが、結局術は解けず、
法子は目を回してうずくまってしまった。
 
「大丈夫か?」
 
「大丈夫じゃない。気持ち悪いし…元に戻れない…どうしよう」
 
「どうしようって、普通、トンボ切るんじゃないのか?」
 
「だって、できないもん」
 
「だって、じゃねえよ。じゃあ、どうやって、術を掛けたんだ?」
 
「掛けるときは、これで出来たんだよ。どうして戻らないの? 教えて?」
 
「知らねえよ。とりあえず、帰って、戻し方を誰かに聞こうぜ」
 
「もし、ず〜と元に戻らなかったらどうしよう…お嫁さんに行けないよ〜」
 
そう言って、泣き出す始末。
おまえ、嫁に行くつもりにしてたのか…
たぶん…俺以外じゃ相手してくれねぇと思うぜ…
 
「大丈夫だって、すぐ戻れるさ」
 
「でも、お嫁さんに行けなかったら、披露宴のご馳走食べられない〜」
 
そっちかよ…おいおい
 
「わかったよ。ご馳走ぐらい俺が食わしてやるよ」
 
言ってから、顔が火照っているのがわかった。
これって、遠まわしなプロポーズだもんな…
 
「えっ? 本当? ちゃんとちゃんとしたやつじゃなきゃダメよ。おっきいお姉ちゃんのときみたいなやつよぉ」
 
って、ほとんど俺の告白を理解してねえな、この鈍感雌狐。
 
まあ、いいか、ちょっとは元気になったみたいだし。
でも、この術解けるのかな? 
普通、自分で掛けた術は自分で解かないと解けないはずだが…
いらないことを言うと、また泣き出しそうだから、
今日のところは黙っておこう。
うん。
 
「と、とりあえず戻ろうぜ…そ、それに、そのままでも十分、か、かわいいぜ…」
 
「えっ? …か、可愛い?」
 
と言ったきり、キョンと俺を見つめたまま固まってしまった。
 
「おい、大丈夫か? 起きてるか?」
 
「…か、可愛い、私が…このままでも…可愛い?」
 
と呪文のように繰り返す。おい、今は、そんなこと考えてる場合じゃないだろ。
 
「ねえ、玉ちゃん。私、今のままと狐に戻ったときと、どっちが可愛い?」
 
「どっちも、可愛いぜ。」
 
と半分投げやりに。でもこいつはこのモードに入ったら、
俺の話なんか聞いてたためしがない。
 
「どっちも? このままでも? うふ〜ん。そうかなあ…えへへ」
 
今泣いたカラスがもう笑ったぜ。
本当、能天気なバカなんだから…
 
「玉ちゃん、帰ろう。」
 
なんだか知らないが、突然元気になりやがって。
でも、まあいいか?
こういうやつだからな。
俺はまた、こいつの腕の中に飛び込んだ。
 
「じゃあ、帰ろうぜ。今日のご褒美にこのまま、村までつれて帰ってくれ」
 
そう言って、法子を見上げると、可愛く微笑んでやがった。
少しだけ、お姉さんしてるつもりなのか?
 
「ふふっ。わかったわ。じゃあ、帰りましょう。」
 
もう少し、この柔らかさを感じながら村まで帰ろう。
でも、帰ったら、なんとかしてやらなきゃならんからな…
 
 
この…能天気な…バカ…に。
 
「ねえ、今、バカって言わなかった?」

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え〜と、4話をうpしたついでに、リニューアルしました。ま、内容は変わってないんですが、読みやすくしました。え? たいして変わらない? いやいや、そう言わずに…。 この法子はもともと、知り合いの方のキャラで、イラストを使わせていただくことができて、そのお礼の意味で書きました。ご本人様は、その後サイトを閉じられましたが…法子を返せとは、言われてませんので、私のサイトに嫁いできたものとして思ってます。
 
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