タカ坊の留学(後日談)
プルル、プルル…あら電話だわ。
「もしもし、向坂でございます」
「あ、タマおねえちゃん。このみだよ。」
「あら、このみ、ひさしぶりね。」
「うん、久しぶりでありますね。この間のタカ君の壮行会でも会えなかったし…。」
「えっ、あはは、そうね、ちょっと体調悪かったから。」
「そうなの?…お姉ちゃん…うそついても…だめだよ。
この間、ユウ君から聞いたんだから。タカ君の留学に賛成してないとか…。」
「このみ…」
「タマお姉ちゃん。あのね、私だって、今の彼が同じこといったら、しかも、
元カノのいるところへ行くなんていったら、絶対タマおねえちゃんみたいに止めると思うよ。」
「…」
「でもね、それが、彼のやりたいことなら、やらしてあげなきゃいけないと思うの。」
「…」
「もちろんね、そんなこと、心の底から思えるわけ無いと思うのでありますよ。
でも、このみは、がまんして、がまんして、帰ってきたらいっぱい甘えさせもらおうと思って、
ちょっとあきらめるしかないと思うの。
だって、彼のやりたいことをさせてあげるって、いい女の条件だと思うからであります。」
「このみ…強くなったわね。」
「えへへ、今の彼が頼りないからね…。でも、ちゃんと考えてね、タマお姉ちゃん。
私とタカ君のお姉ちゃんなんだから…お願い。」
「わかってるわ、このみ。ありがと。
私もね、ようやく私なりに結論は出せたの。タカ坊には行ってもらうわ。」
「ホントでありますか〜?よかった。よかったよ、タマお姉ちゃん。
タマお姉ちゃんがタカくんとけんかするのは見たくなかったから…ほんと、よかった。
じゃあ、また結果、聞かせてね。」
「うん、ありがと、このみ。ばいばい。」
「ばいばい、タマお姉ちゃん。」
このみにまで意見されちゃった。まあ、仕方ないかな。
今回のは、ほとんど一方的に私が悪いんだしね。
そうね、善は急げって言うし、今晩にでもお邪魔させてもらおうかな。
そう思った私は、その日の夜、タカ坊の家に向かった。
そう、もう、タカ坊の出発まで日にちが無いものね。
ピンポーン。チャイムに応じて、パタパタと中からタカ坊の足音が聞こえる。
ガチャ。ドアを開けるとタカ坊が姿を現した。
「あ、タ、タマ姉いらっしゃい。なんとなく、今日あたり来るんじゃないかな?って思ってたんだ。」
「中、入ってもいい?」
「もちろんだよ、さ、入って、入って。」
私は中に入ると、タカ坊に促されソファに座った。
コーヒーでいい?という彼の声に、うんとだけ言って、ソファに座って待っていた。
戻ってきたタカ坊は、私の横に座ると持ってきたコーヒーを勧めてくれたので、
私は、それをすすりながら、ゆっくりと話し始めた。
「あ、あのねタカ坊、今日来たのはね…」
そこで、顔を上げてタカ坊を見ると、彼はニコニコしながら私の話を聞いていた。
どうしてそんなにうれしそうなの?
私がぶち壊してしまうなんてことは考えてないの?
「この間の話の続きなんだけど…タカ坊に、私にまかせるって言われてから、色々考えたの。
あの時、私がもし、行かないでって言ったら、行くのをやめるって言ってたけれど…
その言葉は、まだ生きてるって思っていいの?」
「ん?もちろんだよ。僕はタマ姉にまかせたんだから。」
なんで、そんなにニコニコできるの?私が何を話すか不安じゃないの?
「じ、じゃあ、行かないで…私、一人になるのはもういや…だから。」
タカ坊は、一瞬、驚いた顔をしたけれど、すぐに笑顔に戻って、私に答えた。
「タマ姉、ちゃんと考えたんだね。僕のことも、タマ姉のことも。」
「…うん。」
「…そうか…。OKわかった。じゃあ、やめる。」
「え?」 なんで?
「だって、約束したじゃん。
それに、タマ姉が考えあぐねた結論がそうなら、僕は受け入れるよ。
だって、あのタマ姉がいいかげんなことを言ったことは、
初めてタマ姉にあった日から一度も無いんだよ。」
「タカ坊…。」
「それにね、僕は忘れないよ。
高校のときにささらに対して、
一歩踏み出せなかった僕の背中を押してくれたのはタマ姉だったし、
自分のためだけに何かをする人じゃないものね、タマ姉は。」
その言葉…覚えている。たしかに言った。
でも、あなたが、久寿川さんと付き合いようになってからは、
ず〜っと、後悔してたのよ…言わなきゃよかったって。
タマ姉は、そんなに万能じゃないのよ。
でも、タカ坊は、それを私の優しさだと理解してくれてたんだ…
ごめんね、タカ坊、あなたを試すようなことして。
「ごめんなさい。タカ坊。今、言ったのは全部ウソ、気にしないで行ってきて頂戴。
そして、もっと、もっと、大きな男になってきて頂戴。」
「え?タ、タマ姉。行っていいの?」
「当たり前じゃないの。ちょっとは考えることもあったけど、
タマ姉は、そんな小さなことにはこだわらないことにしたの。
今のは、ウソ。ごめん、試すようなことしちゃった。」
私は素直に頭を下げて、話を続けた。
「そ、そのかわり…今日、泊めてね。一晩一緒に過ごしたい。」
「タマ姉、き、今日?何も用意してないよ。」
「い・い・の。ワイン持ってきたから二人で飲もう。」
私は、そう言うと台所を借りて簡単な料理を作った。
でも、本当にあいかわらず、冷蔵庫になにも入ってないんだから…アメリカで大丈夫かしら?
さあ、完成したから、ささやかなFarewell Partyね。
「さあ、タカ坊乾杯しましょ。」
「…う、うん。」
「どうしたの?」
「い、いや、二人で過ごすんだったら、酔いたくないかな…なんて思ったりして。」
「そう?じゃあ一人で飲んでもいいの?」
「あ、いや、いただきます。」
「よろしい。」
「タカ坊の前途を祝して。」
「違うよ、僕たちの幸せを願って…乾杯。」
「乾杯…ありがと。」
「タカ坊、体に気をつけてね。」
「うん。」
「ごはんちゃんと作るのよ。ファーストフードばかりじゃダメよ。」
「うん、わかってるって。」
「わかいい女の娘に声掛けられても、ついていっちゃだめよ。」
「そんなこと…しないって。」
タカ坊は、矢継ぎ早の私のお願いに、苦笑しながら答えた。
でもね、これが、一番心配なんだけどな…
なんてったって、世界鈍感選手権にでたら優勝間違い無しってひとだからね。
知らない間に、女の娘の気を引いちゃうんだな…。
「本当に、気をつけてね。何かあっても、もう、私すぐに飛んで行けないから。
昔みたいに、タカ坊を助けることできないから…。」
そう言った私は、頬を涙が伝わっていくのを感じていた。
「本当はね、一緒に行きたいのよ。
初めて、タカ坊からこの話を聞いた後、自分は行けないってきがついた時に、
なにか、『お前はもういらない』っていわれたような気がして。だから、私…」
「タマ姉…。」
タカ坊は私の肩を抱くと、自分のほうに引き寄せたので、
私はタカ坊の胸に顔をうずめるようにして寄り添った。
「タマ姉、そんな事言わないで。初めて会ったときも、今も何も変わってないよ。
僕にはタマ姉が必要なんだよ。」
「…じゃあ、どうして連れて行ってくれないの?」
私は少し拗ねながら、彼にいやみを言っちゃった。
「タマ姉…」
「うそよ、分ってるわよ…て…きてね。」
「えっ?」
「必ず帰ってきてください。」
「当たり前だよ。タマ姉は、僕にとっては港みたいな人なんだから。
一生懸命戦った後も、嵐に会ったあとも修理してもらうのは、その場所しかないんだよ。頼りにしてるよ。」
「…恥ずかしい言葉…禁止…」
「え、え〜?」
私は、タカ坊から離れると、彼のほうに向き直って、
「無事のお帰りを待っています。未来のだんな様。」と深々と頭を下げた。
タカ坊はちょっと、驚いていたけれど、向坂家の跡取りとしてきちんとけじめはつけたかったから。
その日、二人とも、ほろ酔い気分でベッドインしたけれど、特になにもなく朝を迎えたの。
多分、タカ坊が気を使ってくれたのだと思う。本当は辛かったんじゃないかな?
ピンポーン
次の日の朝、休日だというのに、誰か来たみたい。
タカ坊がドアを開けに行ったあと、私もドアの隙間から見ていると、例の双子だ、
珊瑚ちゃんと瑠璃ちゃんだったっけ。
「る〜。たかあき〜」
「あ、珊瑚ちゃん。る〜」
「あのな、こないだはごめんな。うち、ちょっとシルファの調整で手が離されへんかったから、
たかあきの送別会に行かれへんかってん。そんで、今日はお詫びのしるしに、餞別渡しに来てん。」
「いいよ、気にしなくても。」
「たかあき、これ、餞別。
うちも何回か行ったことあるけど、向こう行ったら、おいしいご飯が大事やから…
電子レンジでチンしたら、すぐできるようになってるからな。
パパやんもママやんも食べてる奴やから、おいしいで。」
「ありがと、珊瑚ちゃん。」
「それから、もうひとつや。」
チュッと、タカ坊のほっぺにキスするのが見えた。もう〜。
「ほら、瑠璃ちゃんもスキスキせんと。」
「う、うちはせえへんで、今日はさんちゃんのつきそいで来ただけやからな。
すけべのたかあきが、さんちゃんに、へんなことせえへんかどうか見張りに来ただけやからな〜。
すけべえでへんたいのたかあき〜。」
「ほら、瑠璃ちゃん、そんなこと言うたらあかんよ。ほんとはスキスキなくせに〜。」
「違う言うてるやろ〜。」
「ほな、たかあき、気いつけていってな。向こうついたら連絡してや。」
「うん、わかったよ、有難う珊瑚ちゃん、瑠璃ちゃん。」
二人が帰った後、私は、タカ坊の後ろにから声をかけた。
「た・か・ぼ・う。随分、楽しそうだったじゃない。」
「いや、餞別、持ってきてくれただけだから。」
「そう〜?キスまでしてもらってね〜。ふ〜ん?」
「昨日、可愛い女の娘に声掛けられても、ついて行っちゃダメって言ったわよね。」
「ハイ。」
「覚悟はできてるわね。」
「いひゃい、いひゃい。ひゃまねえ、ほふぇんふぁふぁい。」
ほんと、心配だわ…大丈夫かしら。
まあ、いいわ、タカ坊の事信じよう、啓子やこのみのように。
そして、帰ってきたら、たっぷり…いたぶってあげるから、覚悟してなさい…この天然浮気者。
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まあ、ようやくタマ姉も、納得して(?)丸く収まったようですが、心配の種はつきないですね。また、そのうちにタマ姉がむこうに行く話しなんかも書いてみます。私は、出身が大阪なもので、大阪弁は得意なんですが、逆に瑠璃ちゃんや珊瑚ちゃんの大阪弁は難しかったです。なんか、おかしいような気もします…。
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