修学旅行
「タマ姉、短い間だったけど、楽しかったよ。」
えっ?何のこと?タカ坊。楽しかった…って。
「もう、これ以上俺たち、一緒にいちゃいけないように思うんだ。 タマ姉も俺に縛られないほうがいいし、俺もタマ姉に縛られないほうがいいと思うし…だから、別れよう。」
ちょ、ちょっと、タカ坊…何か言わなきゃ、ダメ、声が出ない。 タカ坊だめよ、別れる事なんか出来るわけないじゃないの。タカ坊…タカ…。
「じゃあ、タマ姉…さよなら…明日からは、幼馴染同士にもどるからね。」
だめよ、タカ坊、待って、もう幼馴染のお姉ちゃんはいやよ。タカ坊〜タカ…
「いやよ〜、タカ坊〜。」
やっと、声が、タカ坊待って…あれ?ここ、どこ?確か、タカ坊の家にいたはず。 わ…わたしの部屋ね。夢?…よかった、夢だったんだ。 修学旅行でタカ坊に会っていないから…たった数日だけど、その間、何をしてたか全然覚えてないくらい寂しかったわ。 授業中、ぼーっとしてて、先生に『どうした、いとしの弟君がいないと元気出ないか』なんてからかわれたりしてたぐらいだから。
でも、今日やっと彼らは帰ってくる。今日の夕方になれば、帰ってくる。 だから、わたしは、今日学校に行くの。土曜日で学校は休みだけど、彼を迎えるために…
わたしは、おめかしすると、学校へ急いだ。まだ、早いけど、待ちきれないもの。
学校には、もちろん、まだ誰も来ていない。校庭では、運動部が練習をしてるだけ。
わたしは、校門が見える場所に陣取ると、初夏の風に吹かれて、野球部の練習を見ながら、タカ坊の帰りを待った。
どういう風に座ってたらかっこよ見えるかしら?彼はわたしに気付いてくれるかしらなんて思いながら。
「タマおね〜ちゃん。」
突然、後ろから呼ばれて、振り返るとこのみだった。
「あら、このみ、どうしたの?クラブ?」
「ううん、違うよ。タカ君を迎えにきたのでありますよ。タマお姉ちゃんもそうなんでしょ?」
「えっ?わ、わたしは…ゆ、雄二を迎えにきただけよ。まあ、ついでに、タカ坊の顔を見ようかなって思って。」
「タマお姉ちゃん…素直じゃないんだ〜」
「ち、違うわよ。そ、それより、このみはどうなのよ。」
「ふふん。このみは、タマお姉ちゃんとタカ君のお邪魔なんかしないよ。 タカ君には、おみやげいっぱい頼んだのでありますよ。 お母さんからの分もあるんだから、もって帰らないと、いけないのであります。」
ああ、そういうことか…とりあえず、色気より食い気なわけね…まあ、そっちのほうが、わたしは助かるけどね。
しばらく、このみと話をしていると、校門からバスが何台も入ってきた。
帰ってきた!どのバスに乗ってるんだろう。待ってると、2台目のバスから雄二が降りてくるのが見えた。あれね!
雄二は私を見つけると手を振って合図した。 タカ坊は…って…どうして、女の子と一緒に降りてくるのよ。雄二は男の子と一緒だったのに…それも一人じゃないし。
このみは、彼を見つけると、『あっ、タカ君だ!』と言って、脱兎のごとく走っていった…ホント、ウサギみたい。 彼女は、その女の子の中に入ると、タカ坊の後ろから飛びついて、彼の首にぶら下がっていた。 あぁ、わたしも、飛びついて、ぎゅ…ってしたい。抱きしめて欲しい。
あ、だめよ、首から離れたこのみを抱きしめちゃ…、抱きしめるのは…わたしが先…ず〜っと待ってたんだから…。 タカ坊は、このみがこっちを向いて私を指差して、ようやく気がついたみたいね。 こっちに向かって手を振りながら、このみや雄二と一緒に歩いてきた。
「姉貴、ただいま。」
「タマ姉、ただいま。」
「お、お帰りなさい。言っとくけど、貴方を迎えに来たんじゃないからね。雄二を迎えに来ただけだからね。」
「あれ?タマ姉、なんで怒ってるの?」
「別に怒ってなんかいません!」
「そ、そう?でも、怒ってるじゃない。」
「怒ってないっていったら、怒ってないの!」
そのやりとりを、横でニヤニヤしていた雄二がおもむろに口を開いた。
「あぁ、わかった、わかった。おい、たかあき、お前、このみや春夏さんにたのまれたお土産あるんだろ? こっちへよこせよ。おれが、このみと一緒に届けてやるぜ。なあ、このみ、そのほうがいいだろ?」
「えっ?あっ?このみは誰でもいいであります。家までもって帰ってくれるんであれば。」
「OK、じゃあ、決まり。さあ、かせよ。」
そういって、いやがる、タカ坊から無理やりお土産類を受け取ると、このみと二人で帰っていった。 『じゃあ、たかあき、俺のかわりに姉貴のボディガード頼むわ』と言葉を残して。
「た、タマ姉、じゃあ、帰ろうか。送っていくよ。」
「べ、別に無理しなくても、いいわよ。このみたちと一緒に帰れば。わたしの家に来ると遠回りになるわよ。」
「いや、一緒に帰りたいんだ。」
「じゃ、じゃあ、仕方ないわね。送られてあげる。」
「…」
「…」
なんだか、ちょっと気まずい雰囲気。
「タ、タカ坊、修学旅行どうだった?楽しかった?」
「うん、そうだね、とっても楽しかったよ。」
「そう、さぞかし、楽しかったでしょうね…女の子に囲まれて。」
「タマ姉、そんなことないって、いっつも雄二たちと一緒だったんだよ。なに、言ってんだよ。」
「でも、愛佳さんと同じグループだったんでしょ?」
「そ、それは、たまたまだよ。別に何もないって。」
そう言いながら、自分自身が嫌になっちゃって…自己嫌悪…どうしてこうなんだろ? どうして素直に寂しかったって言えないんだろ。 タカ坊もわたしも、言葉を失ってしまって、しばらく無言で歩いていた。先に口を開いたのはタカ坊だった。
「タマ姉。川原に下りない?まだ、日が沈むまでにはちょっとあるし。」
私は無言でついていった。
タカ坊は、川原に座り込むと話し始めた。私も彼にならって、彼の隣に座った。
「タマ姉、ごめんね。本当は、バスが校門をくぐった時からタマ姉には気がついてたんだ…っていうか、絶対、タマ姉は迎えに来てくれてるって信じてたんだ。だから、バスの中からタマ姉を見つけたときは嬉しかった。離れていても、俺のことを考えてくれてたんだって思ったから。」
「…」
「でも、みんなが見てるから、気がつかないふりをしてたんだ。ごめんなさい。」
「…じゃ…じゃあ、どうして、私を初めに抱きしめてくれなかったのよ。どうして、このみが先なのよ。」
「あ、あれは、はずみというか、このみが無理やり飛びついてきたと言うか…。」
「そうなんだ、無理やりね。じゃあ、他の女の子が無理やり飛びついてきたら、私よりそっちを先にするんだ。 わたしって、そんなもんなんだ。」
そう言って、タカ坊に背を向けてしまった。あぁ…どうして、こんなに素直じゃないんだろ…わたしって。
「タマ姉、ごめん。俺のせいでいやな思いをさせてしまったんなら、何回でも、何百回でも謝るよ。 でも、タマ姉、俺にはタマ姉しかいないから…だから、機嫌直してこっち向いてよ。」
「何?機嫌悪いのは、わたしが悪いの?わたしが怒ってるから?わたしが勝手に機嫌悪くなってるの? あなたは悪くないの?わたし…うぐぅ」
わたしは、彼のほうに向き直り、言いたいことを言ってると、突然、彼の手が私の口をふさいだ。 わたしは、彼の手を払いのけると叫んだ。
「な、なにすんのよ!死んじゃうじゃないの!」
でも、彼は優しく微笑みながら、言葉を続けた。
「タマ姉は悪くないよ。素直じゃなかった俺が悪いんだよ。大好きだよタマ姉…愛してる…誰よりも。」
「ずるい…いつも、そうなんだから。その言葉に弱いの知ってるくせに…。 だいっ嫌い、タカ坊なんて、だいきらいなんだから…絶対、だいっきらいなんだから。」
そのとき、わたしの口にタカ坊が何かを放り込んだ。何?これ?あっ、ミントキャンディーね。
「タマ姉。大嫌いなんて言わないで、悲しくなっちゃうよ。」
「ごめんなさい。」ミントキャンディーのおかげで素直になっちゃった。
「わかったわ、タカ坊、許してあげる。でも、絶対いつも私だけを見ててよ。約束してね。」
「うん。」
「返事はハイ。」
「ハイ!」
「よろしい、じゃあ、証拠を見せて。」
「証拠って?」
ふふん。
「わたしの口からこのキャンディを受け取って、食べて頂戴。」
「えっ?それって、まさか、口移しでって事?」
「そう」
「…ここで?」
「そう、ここで。」
「人が見てるよ。」
「やっぱり、わたしだけを見てないんだ。他の人の事が気になるんだ。」
「タ…タマ姉。わ、わかったよ。どうなっても知らないからな。」
わたしは、うん、と頷くと、目をつぶって彼のほうを向いた。
偉そうに言ったけど、本当はドキドキ。だって、外でキスするなんて初めてですもの。
あ、彼が近づく気配がする。ほどなく、かれの唇が私の唇に触れるのを感じた。 彼の舌が、申し訳なさそうに、わたしの唇を押し開き、私の舌に触れた。 途端に、頭がボーっとしてきた。 このまま、彼に抱かれたいって思ってると、彼の舌がキャンディーを探し当てたのか、すっと離れていった。
「これで、いい?タマ姉」
「まだよ。」
言うなり、わたしは彼を抱き寄せ、力いっぱい抱きしめた。
「タ、タマ姉、く、苦しい。」
「だめ、わたしをはじめに抱きしめなかった罰よ。がまんなさい。」
「そ、そんなこと、い、言ったって…く、苦しい。」
「わたしは、もっと苦しかったんだから〜わかってないでしょ。」
「わ、わかったから、放して〜。」
仕方ないわね…解放してあげる。
「うふふ、さあ、遅くなるし帰りましょうか。」
「うん。」
そのあと、二人で仲良く手をつないで帰ったんだけど、さっき、キスしてるときに、橋の上で、うちの制服の女の子がこっちを見ていたのよね…タカ坊は気がついてないんだけど。誰だかわからなかったけど、今日、制服を着てるって事は、タカ坊と同じ学年よね。
まあ、明日になったら楽しいことになってるわよ…タカ坊。
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