親友
あ〜あ、終わっちゃった…それが今の感想。
「タマ姉、卒業おめでとう」
「タマ…お姉ちゃん、おめでとう…ぐすっ。こ、これ、みんな…から」
卒業式が終わって、このみやタカ坊が花束を持ってきてくれた。
本当は、寂しさで一杯なんだけど、タマ姉たるものが、こんなことで、泣いてたまるものか。
今日は一日ニコニコして過ごすって決めたんだから。
「みんな、ありがとね。もうこれで、みんなとも一緒に登校できないかと思うと、ちょっと寂しいけど、
また、ちょくちょく帰ってくるから、一緒に遊びましょう」
「タマ姉、このあと皆でタマ姉の送別会やろうかって思ってるんだけど、どう?」
「えっ?そ…送別会? い、いや…あ、そ、そうだ、実は、まだ、明後日の出発の準備が何も出来てないのよね〜
だから、今日はパス。また、いつでも会おうと思えば会えるし、何も、今生の別れじゃないんだから」
だめよ、今、これ以上皆といたら私泣いちゃうかも…
「え? タマ姉あさって帰っちゃうの? 知らなかった。そうなんだ…じゃあ、皆で見送りに行くよ」
「いいわよ、大げさな…それに、たぶん、お父様が車で送ってやるって言ってらしたから、そうなると思うし…」
「でも…なぁ、このみ」
「いいじゃねえか貴明、また、どうせ、すぐ帰ってくるだろうし、実際、荷造りも大変だろうしな」
「じゃ、じゃあ、荷造り手伝うよタマ姉」
「あ〜ら、そうなの、タカ坊って、意外とエッチなのね。じゃあ、下着とか荷造りしてもらおうかしら?」
「いえ、遠慮させてもらいます…」
ふふふ、赤くなっちゃった。大好きよタカ坊。そんな、やさしいところも含めて全部ね。
「ということでだな、俺たちだけでぱーっと行こうぜ。このみもいくだろ?」
「うん、行くであります!」
「じゃあ、カラオケにでも行こうぜ」
「わかった、じゃあ、タマ姉、元気でね。」
「うん、ありがと、タカ坊、それにこのみもね。また、手紙書くわ。雄二、あんまり遅くなっちゃだめよ。」
「へいへい、わかりましたよ。じゃあ、行こうぜ」
「バイバイタマおねえちゃん。元気でね」
「バイバイ、タマ姉。手紙待ってるよ」
みんなは、私に手を振りながら、雄二の声につられるように、駅のほうへ向かっていった。
私は、家に帰ると自室の整理を始めた。
本当に、ちょっと最近たるんでたから、何もやってないのよね…
帰りたくないっていうのもあったんだけどね。
荷造りを始めて、どのぐらい経ったんだろうか? ちょっと疲れたわねと思ったころに、ノックの音がした。
「姉貴、いるんだろ?」
雄二の声? あれ? 随分、早いわね? どうぞ、と言うと、ドアが開いて雄二が顔を出した。
「あんた、カラオケ行ったんじゃないの?」
「いや、途中まで行ったんだけど、途中で春夏さんに出会って、このみが拉致されたんで、結局やめになった。
んで、貴明とゲーセン行って帰ってきた」
「あら、どうしたのかしら?」
「さあな、春夏さん、えらい剣幕だったから、なにかやらかしたんじゃないの? あいつ」
「ふうん。このみらしいわね…」
「…」
「今日は、ありがとね。援護射撃、助かったわ、送別会なんて気分じゃなかったし、ましてや、カラオケなんて…
本当に、いろいろ時間も無かったしね」
「ん?まあ、別に…でも、姉貴が行くって言ったら、俺とこのみは途中で抜けようと台本は出来上がってたんだぜ」
あら、そうだったの…じゃあ、行けばよかった?
ううん、やっぱり、タカ坊と二人っきりになるなんて、今の私にはできないわ。
「そ…そう…だったんだ、まあ、結果的には良かったでしょ。
それに、もし、二人っきりになったりしてたら、強引に見送りに行くって言ってたわよ、タカ坊は…」
「ははは、そうかもな。さっきも、見送りに行きたそうにしてたけど、姉貴でもひとりで帰りたい時もあるって…と言っておいた」
「え〜そんなこと言ったの? なんか、バレバレじゃない…ほんとに」
「大丈夫だって、その程度で気づくぐらいなら、あそこまで、鈍感にはならねぇって」
う〜ん、妙に説得力のある台詞ね。
確かにそうかもね、その程度では、あの鈍感タカ坊は気づかないか…ましてや…
「ところで、本当に送って行かなくてもいいのか?」
「うん、大丈夫、駅までは、お父様が送ってくださるし、大きな荷物は、どうせ別便で送ってもらうし。
それより、皆には黙っておいてよ」
「うん、わかった。じゃあ、明後日は、おやじたちに任せるとして、何か進展があったら、連絡するわ」
「何か進展って?」
「貴明に何かあったらって事じゃん。フリーになったらな」
「ば、ばか、そんなこと期待してないって!」
出発当日、お父様とお母様に駅まで見送ってもらって、私は、九条院に向かった。
電車に揺られ、ようやく目的地までついたが、これからも長いのよね、なにせ、陸の孤島だからね。
なんて思いながら、駅の改札を出たところで、なつかしい人影をみつけた。
彼女は、大きな黒塗りの車の前で、こちらを向いて、ちょこんと挨拶した。
…玲於奈だ。
「玲於奈! ひさしぶり〜。迎えに来てくれたんだ〜」
「環お姉さま。お久しぶりです。お元気でしたか?」
「うんうん、玲於奈も元気だった?」
「はい、わたくしのほうは、相もかわらずですけれど」
玲於奈の後ろにいた運転手さんが、お荷物をと、私の荷物をトランクに入れてくれた。
「それでは、お姉さま、参りましょう…陸の孤島の監獄まで…ふふふ」
「そうね、違いないわね、じゃあ、お言葉に甘えさせてもらうわ」
私たちは、そんなことを話しながら、車に乗り込んだ。玲於奈の家の車は大きいから、ずいぶん楽チンね。
「ありがとうね、玲於奈。本当に助かったわ。それにしても、玲於奈の家の車って広くていいわね」
「あ、ありがとうございます。父からも、くれぐれも失礼のないようにと言い付かっておりますので」
「うん、そういえばお父様の具合はいかがなのかしら? 今年のお正月にもお姿をお見かけしなかったのだけれど…」
「えぇ、リハビリも順調に進んでおりまして、生活にはほぼ問題ない程度までには回復しています。
まだ、外へ一人で出かけるのは少々不安があるようですが」
「そう、よかったわね」
「えぇ…あ、あの…」
「ん? 何?」
私は、玲於奈が言葉を続けるのを待っていたのだけれども、彼女は何でもありませんと言ったきり、俯いて黙ってしまった。
仕方が無いので、そのまましばらく私も黙って、外の景色を眺めていたら、やがて、彼女は意を決したように口を開いた。
「環お姉さま、あ…あの、その、こんなことを伺うのは、失礼かと思うのですけれども、
例のバレンタインの殿方とは、どうなさいましたのでしょうか?
本日も、お見送りがなかったようですし、お姉さまからのお手紙にもそれらしいことはありませんでしたので、
少々心配しておりました。あ、誰にも話してはおりませんので、その点は、ご心配なく」
あぁ、その話か…まあ、玲於奈としては気になるのかな?どうしようか…
正直に話そうかとも思ったのだけれど、やはり、触れて欲しくはないので、彼女には、そうお願いした。
玲於奈はそれを聞くと、『お姉さま』と私に寄り添ってきた。
「本当に申し訳ありませんでした。
実は、そうではないかと思っておりましたが、どうしても伺って本当の事を知りたかったものですから…」
「どうしても?」
「はい、だって、玲於奈は、玲於奈は、お姉さまのことが大好きですから!」
「あら、心配してくれてありがと。あたしも大好きよ、玲於奈のこと」
「いいえ、私の申しているのはそういう事では、ありません。
その…あの…あ、愛しております。お姉さまを心の底から愛しております。
で、ですから、そのお姉さまがお慕いされている方のことが気になりまして…」
「え? え? えぇぇ〜? あ、あ、愛してる?
私を? ちょ、ちょっと、玲於奈、私たち女同士よ、わ、わかってる?
だ、だめよそんなこと。
そ、そうだ! 運転手さんも聞いてるわよ、運転手さんも」
玲於奈は、私に抱きついたまま、振り返りもせずに、運転手さんに命令した。
「柵原、今日見聞きしたことは、口外無用です。よろしくてね」
「承知いたしております。お嬢様」
「さあ、お姉さま。もう大丈夫ですわ」
「そう言う事じゃないわよ。私は、そういう趣味はないの。だから、玲於奈の気持ちにはこたえられないの」
「お・ね・え・さ・ま、話は最後までお聞きください。
私は、小さな頃よりお姉さまをお慕い申しておりました。
私の気持ちは偽らざるものですが、お姉さまには受け入れていただけないことも、十分承知いたしております。
昨年のバレンタインの時、お姉さまには長い間、心に秘めた殿方がおられるという事を聞いて、すべて諦めました。
ですが…ですが、その方のかわりと言ってはおこがましいですが、
『妹』として私を受け入れては頂く訳には参りませんでしょうか?」
あぁ、そういうことか…まあ、女子校、しかも、お嬢様学校の特質としてこういう事は、よくあり、
事実、中高校時代にも、たくさん、こういう申し出はあった。
もちろん、今まで、全てやんわりとお断りしていた。
玲於奈にもちゃんと話して断ろうと思っていたんだけれど、突然、タカ坊の顔がちらついた。
ん? 何? …あ、そうか…私も同じか…
タカ坊を手に入れられなくって、せめて、今の関係だけでもそのままにしたいと、逃げて帰ってきた私と、
私に受け入れられないなら、せめて真似事だけでもと思う玲於奈は、同じようなものか…
そう、同じなんだ…
玲於奈は、体を離すと、まっすぐ私を見つめながら答えを待っている。
いい目ね、玲於奈…。
「わかったわ、玲於奈。いままで、だれにもOKしたことなかったけれど、あなたは、特別」
「そ、それでは、お姉さま…」
「はい、よろしくてよ…玲於奈」
玲於奈は私にもたれながら、学院までいろいろ話をしてくれた。
私がいなかった間に起こったことなんかをいろいろと。
私は、話を聞きながら、自分を必要としてくれる人が、ここにもいることを実感していた。
車は、やがて、学院に着き、私は玲於奈に案内され、かっての私の部屋へと向かった。
彼女は、落ち着かれたら食堂の方へいらし下さいとだけ言って、部屋を出て行った。
とりあえず、身支度を整えると、食堂に向かった。
食堂には大勢の人が集まっていて、壁には『Welcome Back 環お姉さま』と描かれた横断幕が見えた。
え? あ、そ、そうか、歓迎会ってことね、これ。
どうリアクションとろうかと迷っていると、後ろから背中をポンと叩かれて、懐かしい声が聞こえた。
「お帰り、環」
ふりむくと、そこには親友だった、いいえ、いまも親友の啓子がいた。
「うわ〜。啓子〜ひさしぶりぃ。これ、あなたが計画したの?」
「ううん、言いだしっぺは、あたしだけど、やったのは玲於奈達よ。一生懸命だったわよ、さあ、挨拶、挨拶。きゃはは」
私は、彼女に促されて、挨拶をし、一年ぶりの後輩や同級生と楽しいときを過ごした。
疲れていたはずなんだけど、本当に楽しく過ごせたわ。これは、玲於奈に感謝しなくっちゃね。
宴も半ばにさしかかり、さすがに少し疲れてきた私は、バルコニーへ出て、夕方の風に当たっていた。
ほどなく、中から啓子がでてくるのが見えた。
「啓子、本当にありがとね」
「それは、玲於奈に言ってあげて。一生懸命やっていたから。あなたに、喜んでもらおうと寝る間も惜しんでやったみたいよ」
「そう…」
「ところで、例の年下の彼氏は、どこかの生徒会長さんに、かっさらわれたようね」
「え? どうして知ってるの? 玲於奈から聞いた?」
いや、玲於奈には、そんな細かなことまでは話していない…とすると…
「ううん。玲於奈からは何も聞いてないわよ。私は、スパイをあの学校には放ってあったから。
って、大層なものじゃないんだけどね…いとこが、あの学校の2年生なの。
あなた達の事は、学校中で知らない人がいないぐらい有名だったらしいわね」
「そっか…うん、そうなのよね、ちょっと、勇気がなくってね」
「分かってるって、あなたらしいわよ。
まあ、しばらくは、玲於奈にかしずかれて、お姉さま気分でも味わって、そんなこと忘れなさいよ。きゃはは」
そうね…それがいいかも…ん?
今のはどういう意味?
何かが引っかかる『玲於奈にかしずかれて』?
今日の玲於奈の事を知ってるみたいな言い方ね…と・い・う・か…知ってるんだ…
ということは…啓子が全ての…黒幕?
もう、この子には、頭が上がらないわね。昔からそうなのよね。
これで、どうして、素敵な彼ができないのか不思議よね…。
啓子は言いたいことを言うと、バルコニーの手すりに体をあずけて、向こうを向いていた。
私から顔は見えなかったけれど、きっと、満足げな顔をしていると思うわ。
「啓子、ありがとね」
「ん? 何が?」
「いろいろと…ね」
「そう…」
「…」
「あきらめちゃ、だめだよ。いつも言ってるでしょ、この世の法則」
「うん、『一方が諦めなければ、気持ちは必ず通じる』ってやつでしょ」
「そう…信じていれば、良いこともあるって」
「そう…かも…ね」
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タマ姉の卒業式後、九条院へ帰るときのお話です。ささらエンドで書いてますので、玲於奈達は転校せずに九条院に残っていたという設定になってます。ちょっと、玲於奈をお嬢様風にしてしまいましたが、まあ、たぶん、彼女はお嬢様でしょうから…。啓子さんは、「タカ坊の留学」の時に、タマ姉の背中を押してくれた親友です。タイトルは、ここから取りました。タマ姉って、強い女の娘ですけど、そういう人には、必然的に優れた人が集まってくるんですよね。 最後のこの世の法則は昔(相当昔)に読んだ漫画にあった台詞から引用しました。大好きな言葉の一つです。
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