卒業(後編)
一夜明けると、月曜日。学校へは行きたくないけど、休む理由が見つからない。
階下では、朝早くから、お姉ちゃんがバタバタしてた。
多分、あいつに持っていくお弁当を作ってたんだろうな…。
とりあえず、学校へ行く用意をして、下に降りていった。
「おはよう、郁乃、今日は早いね」
「きょ、今日は、に、日直だからね」
「そうなんだ、朝ごはん出来てるからね。それから、これはお弁当。
あ、あのね、い、郁乃、お姉ちゃんね…」
姉が何を言おうとしているのかわかったので、その声をさえぎった。
「あ、お弁当ありがと、それから、幸せにしてもらいなよ」
「え? あ、あわわ、な、なんで」
「昨日、あいつに会って聞いたよ、よかったね、お姉ちゃん」
朝ごはん食べながら、お姉ちゃんにそれだけ言うのが精一杯だった。また、涙が溢れそう。
「ありがと、郁乃。本当にありがと。郁乃も困ったことあったら、何でも言ってね。
お姉ちゃんなんでもやっちゃうから」
「ごちそうさま、まあ、そんときはよろしく頼むわね。じゃあ、今日は早いから先行くね」
玄関をでて、少しにじんだ涙をぬぐって学校へと向かった。
昨日よりは、辛さが幾分和らいだかな?
こうやって、毎日、少しずつ辛さは減っていくのかな?
でも、ゼロにはならないのよね、多分。
それからは、とりあえず、毎日を誤魔化しながら、なんとか過ごしていた。
そんなある放課後、家に帰る途中で携帯にメールがはいった。
誰から? あ、このみだ。
『いくのん。今日ヒマ?』
『うん、ヒマ。』
『駅前のアイス食べに行かない?』
『いいよ、これから?』
『うん、30分後』
『OK』
ここからだと、10分ぐらいでつくけど先に行ってようか。
そういえば、このアイスショップだったよな、お姉ちゃんとあいつのデートをこのみに見せたのも…
しばらく待つと、向こうからこのみが走ってきた。
相変わらず元気なんだから…、今のあたしには、ちょっとつらいかな?
「いくのん、ごめん、待った?」
「ううん、そんなに待ってない」
「じゃあ行くであります」
いつもと変わらないこのみは、さっそく中に入って、新作を注文。
あたしは、いつものチョコ系を注文して、テーブルまで持ってきて食べ始めた。
「いくのん、これおいしよ、一口どうぞ」
「あ、ほんと、おいいしいね」
このみは、少し時間を置いて、考えながら、話し始めた。
「いくのん、最近どうしたの? なんか一生懸命元気出して、毎日過ごしてる、って感じなんだけど…」
あ、そ、そんな風に見えてるのか…
「多分ね、他の人は気付いてないと思う。このみはいつも一緒にいるからそう思うんだけど、違う?」
「う〜ん、違わない、このみの言うとおりだと思う」
「何かあったの?」
「うん…」
あたしは、ゆっくりと考えるように言葉を選んで話し始めた。
「このみは、あいつとお姉ちゃんのこと知ってる?」
「あいつって、タカくんのこと? うん、愛佳さんとお付き合いすることになったってこと?
それなら知ってるよ。よかったなぁって思ってたの」
「このみは、あいつのことが好きなんじゃないの?」
「え? うん、もちろん好きだよ、でも、愛佳さんが好きって言うのとは違うと思うよ。
タカくんは、お兄ちゃんみたいなものだからね。
愛佳さんと付き合うことになってもタカくんは、全然何も変わってないよ。
多分、一緒に遊びにいってくれるし、一緒に勉強だってできるし、お泊りだってできるしね。」
「そ、そうなんだ…」
「い、いくのん、ひょっとして、タカくんのことが…」
「それ以上言わないで」
「わ、わかった…であります。でも、いくのん、いくのんはお姉さんのこと大好きなんでしょ?
そしたら、それは、このみがタカくんのことを思ってるのと同じだと思うよ。
だから、いくのんも祝ってあげなきゃ、ね」
「わかってる、わかってるんだけど…できないんだ。このみには、この気持ちは分らないよ!」
それから、随分長い間沈黙が続いた。はじめに口を開いたのは、このみだった。
「…いくのん、愛佳さんにタカくんを取られて、このみが嬉しいと思う?」
いつになく、真剣な口調のこのみにあたしは圧倒されながら、彼女の言葉を聞いていた。
「このみだって、タカくんの横に彼女と並びたいよ、妹じゃなく。
愛佳さんじゃなく、このみを選んで欲しかったよ。
でも、タカくんが選んだのは愛佳さん、このみじゃない。
もし、タカくんにこのみを選ぶように迫ったらどうなると思う?
タカくんはこのみを選んでくれる? 無理だよね。
それって、今のタカくんとこのみの関係を失ってしまうよ。
それに、タカくんも愛佳さんもそれを知ったら、いやな気持ちになるよ。
このみはね、だれからも、望まれないことをしたくないの。
そのかわりね、このみは、愛佳さんの倍幸せになろうと決めたんだ」
「倍、幸せに…」
「そう、タカくんとは、いまのまま何も変わらない。
このみが何も言わなければ、このみたちの関係は愛佳さんでも崩せない。
そして、このみは、タカくんよりもっと素晴らしい男の子を見つけるの。
そして、このみを選んでもらうの。
そしたら、このみは、お兄ちゃんとしてのタカくんと彼氏の両方を持てて、
愛佳さんより幸せじゃない?」
このみ…見かけは幼いのに、あたしより、ずっと大人だ。というか、ずるいっていうか…
あたしが病院で過ごしていた間に色々な辛いことがこのみにもあったんだろうな。
「いくのん、いくのんも同じじゃない? お姉さんの恋人でしょ。
それに、今までも時々、いくのんとタカくんの二人っきりで遊んでたじゃない。
いくのんが何もしなければ、何も言わなければ、これからも何も変わらないよ。
いつまでも、やさしい、タカくんのままだよ」
このみの言葉には、長い間の想いがこめられていて、あたしの心を大きく動かすのに十分だった。
「そ、そうだね。このみ、ありがと、なんだか少しすっきりした。また、あしたから、頑張れそう」
「いくのん、頑張ってね。それから、この話は誰にもしないでよ」
「わかってるって、このみもね」
「ハイであります。二人の秘密であります」
「このみ、ありがとね」
「いくのん、友達でしょ、私たち」
このみに勇気付けられたあたしは、家路についた。
玄関を開けると、見慣れない男物のスニーカーがあることに気が付いた。
『あいつが来ているんだ』
「ただいま」
「郁乃、おかえり〜、あ、あのね」
「あいつが来てるんでしょ、靴があったものね」
「お、お帰り、郁乃ちゃん」
あはは、お姉ちゃんもあいつも緊張してる。
そうよね、このみの言う通りね。
もし、あたしと貴明が付き合うことになったら、悲しむのはお姉ちゃんだものね。
それに、この二人の邪魔をしても、いい事なんか何もないよね。
あたしも、一緒に楽しませてもらったほうがいいよね。
なんたって、未来のお兄ちゃんなわけだし、なんたって優柔不断なやさしいヘタレ野郎だからね。
「何しに来たの?」
「い、いや、ビデオ鑑賞会でも…とか思って」
「ふ〜ん? 姉にエッチなことしてなかったでしょうね」
「し、してないよ」
「したら、殺すからね…じゃあっと、あたしの席は…、あんたの隣にしよ」
「えぇっ?」
「いいじゃない。そっちはお姉ちゃんで、こっちはあたし。両手に花でしょ、文句ある?」
「いいえ、ありません」
「よ・ろ・し・い」
そうか、こういうのもいいかもね。
そして、いつか、こいつより、いい男をみつけてやるんだから。
その時までに、もっと、もっと、自分を磨かなきゃ。
貴明、お姉ちゃんを愛して、そしてしあわせにするのよ。
しなきゃ、殺してやるからね。
『あたしは、あんたから卒業して、もっといい男を探すから』
『あたしは、あんたから卒業するけど、出会ったことは良かったと思ってるから』
今は、まだ、心の底からいえないけど、いつか、必ず、そう言えるようになるから…
それまではね、お兄ちゃんと呼ばせて貰うわよ…たかあき せ・ん・ぱ・い!
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『大好きな…』の続編です。というか、とりあえずの完結編です。え? とりあえずって、どういう意味かって? まあ、恋愛だけはどうなるか分りませんからね…作者は、別れさせるのが好きですから…(=^_^=) ヘヘヘ。 TH2ADの展開も好きだったんですが、実際には、愛佳と貴明が付き合い始めた時の郁乃ちゃんは辛かったんじゃないかな? と思い書いてみました。 それから、TH2ADにも、タマ姉やこのみはよくでてくるんですけど、彼女たちも当然嫉妬するはずですよね。でも、ゲームではさらっと扱われています。MAKOTO的には、『意義あり〜』って感じでしたので、そういうところも盛り込んでみました。今回は、このみでしたが、タマ姉も書いてみたいですね。
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