タマ姉アメリカへ(3)

今日も良いお天気ね。というか、年中こんな感じなんだろうな。
いつか住んでみたいような、でもやっぱり日本がいいような…
 
タカ坊は、今日は、研究室のほうへ行ってる。
そんなに遅くならないように帰ってくるって言ってたけど、まあ、期待せずに待ってましょう。
その間に、お部屋の掃除でもしておいてあげようかしら。
あと、夕食の下ごしらえもね。
 
まず、寝室から…ほとんど掃除をしてないみたいね。
掃除のしがいがあるわ…これは。
なんて思いながら掃除機をかけてたときだった。
 
とぅるる…とぅるる
突然、電話が鳴り出した。
 
タカ坊かも?
 
掃除機のスイッチを止め少しばかり考えたけど。
そうだった。むやみに電話に出ちゃいけないって言われてるんだった。
じゃあ、そのまま放っておこうかしら。
 
掃除を再開しようとスイッチを入れかけたその時、タカ坊の声で「メッセージをどうぞ…」って、うふっ、英語じゃん、これ。
なんか、一生懸命ぽくってかわいいわ。
にやにやしながらメッセージを聞いていると、突然女の人の声が…しかも、聞き覚えのある。
 
「あ、あの、お久しぶりです、あの…久寿川です。お…お元気ですか? 
 向坂君に電話番号を教えてもらいました。
 こんど、そちらのほうに行く機会が出来ましたので、できれば会えないかな?
 なんて思って電話しました。
 よければ、コールバックお願いしますね。
 電話番号は………です。では、お電話お待ちしています」
 
な、なに?! これ? 
久寿川さん? なんで?
タカ坊は、久寿川さんには電話しないって約束してくれたのに…。
私に内緒でコンタクトしてたのかしら…どうしよう、どうしよう。
 
ん? ちょっとまてよ、今、電話番号は向坂君から聞いたって言ってたわね。
ということは、タカ坊が教えた訳じゃないんだ。
 
 
そうか…雄二か…
 
帰ったらただじゃ置かないだから、あいつ。
 
でも、こっちへ来るって、会いたいって。
だめよ、そんな事させるわけにはいかない。
だって、まだ、久寿川さんのこと忘れてないかもしれないもの…
 
 
そうだ! このメッセージ消せば…
あ…だめか、また電話掛かってきたら同じだものね。
どうしよう、私はもうすぐ帰っちゃうのに。
 
そ、そうよね、こんな時ほど前向きに…向坂家の家訓ですもの。
私は、受話器をとると今聞いたばかりの番号に電話してみた。
呼び出し音が続いたあと、今聞いた声が聞こえた。
 
「もしもし、貴明さん?」
 
「…え、あ、…」
 
あ、えっと…そんな急に呼びかけないでよ。
 
「もしもし? もしもし?」
 
私は大きく息を吸い込むと、一回深呼吸。
そして、ゆっくりと、いつもどおりに話し始めた。
 
「もしもし、お久しぶりね、久寿川さん。向坂です…って、びっくりしたかしら?」
 
「えっ? こ、向坂さん? ど、ど、どうしてそこに…」
 
「うふ〜 遊びに来てるのよ。ま、すぐ帰っちゃうけどね」
 
「そ、そうだったんですね。
 貴明さんから、向坂さんとお付き合いするようになったって
 かなり前に連絡はもらってましたので、そういう意味では驚きませんでしたけど…」
 
相変わらず、久寿川さんらしい物の言い方ね。
わかってるなら、タカ坊に電話なんかしないで!
ホントに…もう。
 
「そう? ちょっと、残念かな? もう少し驚いて欲しかったんだけど。
ところで、こっちに来るって言ってたけど、いつ?」
 
「あ、来週の木曜日なんですけど、母の仕事の関係で近くまで行くので、
少し寄らせてもらおうかなって思ってたんですけど…
お邪魔でしょうから、やめときます」
 
そんなに気を使われると、私も困っちゃうんだな。
本音は、来ないほうが嬉しいんだけどね。
 
「その時には、私、もう日本に帰ってるわよ。会いたいなら、来れば?」
 
私は、わざと、さらっと言ってのけた。
本当は、ドキドキものだったんだけど、
彼女は、そういう泥棒猫みたいな事はきらいなはずだから、
こういえば、多分、あきらめるはず。
 
 
彼女の性格なら間違いなく…
 
「…」
 
あれ? 黙っちゃった。
どうしよっか?
 
「ふ…ふふふ…向坂さんったら、そんなに、牽制しなくってもいいじゃないですか。
別に、貴明さんを誘惑したりしませんって…うふふ。
今、一瞬『じゃあ、寄せてもらいます』って、意地悪したくなりましたわよ。
でもね、やっぱり行くのはやめます。
別に、向坂さんに気を使ってじゃないですから、安心して。
やっぱり、貴明さんを振った女のままのほうがいいですね」
 
『振った女のままがいい』?
 
なんか、そうじゃないみたいな物の言い方ね。
ひょっとして、タカ坊から聞いてる話とは違う真相があるのかしら。
 
「久寿川さん…あなた…」
 
「あ、な、なんでもないです。聞き流してください」
 
そ、そんな、聞き流せないじゃない。どうしようかしら…
 
「じゃあ、向坂さん、久しぶりにお話できて楽しかったです。
お二人の結婚式にはぜひ呼んでくださいね。
それから、貴明さんには、私から電話があったことは、何も言わないで下さい。
留守録も消しておいてください」
 
彼女が一旦こう言い出したらもう引かないわね。
わかったわ。
 
「うん、ありがとね、久寿川さんもお元気で」
 
私は、受話器を置いた後、しばらくいろいろ考えてたけど、留守録はそのままにしておいた。
やっぱ、タカ坊に内緒にはできない。
 
その日、タカ坊は、朝の宣言どおり早くに帰ってきた。
私は、久寿川さんの話をして、留守録も聞かせた。
ちょっとドキドキだったんだけど、タカ坊を信じて…
 
「ねえ、どうする?」
 
「どうするって、僕にはタマ姉がいるから、別に関係ないよ」
 
そ、そうよね、ね、ね、ね!
私は嬉しくなって、タカ坊をぎゅ〜っと。
 
「いたい、いたい、タマ姉、ちょ、ちょっと…く、苦しい、ギブ、ギブ…」
 
いや、離さない。
私のタカ坊。
もう、だれにも渡さない。
 
「タ、タマ…姉…」
 
あ、もう限界か…もうちょっと鍛えなさい。
まあ、いいわ、その言葉が聞けただけでも…
 
「あのね、タカ坊…もし、もしよ、
 少しでも会いたいなって思うんだったら、会っても良いわよ。
 私にわからないようにしてくれたら怒らないから。
 タマお姉ちゃんは、心が広いんだからね」
 
タカ坊は、それには答えず、私をゆっくりと引き寄せるとやさしくキスしてくれた。
 
「タマ姉。
 ささらは、タマ姉にとっても大事な友人の一人だと思うし、
 もしも、彼女が困ってるんなら助けてあげたいし、
 頼みごとがあるなら聞いてあげたい。
 でもね、それ以上の気持ちは無いし、持っちゃいけないことも理解してる。
 だから、彼女が会わないって言ってるんだったら、無理には会わない」
 
「ホント? でも、彼女、ひょっとすると困ってるかもしれないわよ?」
 
「何? タマ姉は、会って欲しいの?」
 
「そ、そんなことは無いけど…」
 
タカ坊は、昔の自分だったら、会ってたかも知れないけれど、
今はそんな気はないと言ってくれた。
確かに、昔の彼なら、こんな状況を放っておけなかったかもしれない。
 
それは…
 
ちょっと大人になったのかな?
 
それとも…
 
私のことを考ええくれたから?
私が一番だから?
私以外は見えないから? とか。
 
本当に、こいつはニブチンだし、誰にでも優しいからね…
ちょっと心配だけど、今日は信じておきましょ。
こんなのを好きになった私が悪いのよね、ホント。
 
「じゃ、この話はこれで終わり。食事にしましょ、タカ坊。今日も腕によりをかけて作ったわよ」
 
楽しかった日々はあっと言う間に過ぎて、もうすぐ帰らなきゃ
それまで、目一杯楽しんじゃうぞ。
 
今日も、少しお酒を飲んで…少しよ、少しね、ねえタカ坊。
 
あれっ? タカ坊ったら、どうしたの、なんで逃げるの?
 
え? 私が、にゃーにゃー言ってる?
そんな訳ないじゃないの
ちょっと、気持ちいいだけ
 
しっぽが生えてる? んな分けないでしょ
 
でーん タッカ坊、捕まえたっと
あれー タカ坊 動かないぞー
 
ねぇ、タカ坊、今日は優しくしてね、昨日みたいなのはいやよ。
 
…恥ずかしかったんだから…
 
………
……
 
それから、しばらく経った日の昼下がり。
私は、楽しかったタカ坊との日々を思い出しながら、縁側に座って空を眺めていた。
 
あの時はどうしようかと思ったけど、何も無くってよかった。
楽しかったなあ…もうすぐタカ坊も帰ってくるし…
 
「姉貴、なに、ニヤニヤしてんだよ」
 
あ、雄二だ、そ、そうかしら、今ひょっとして、相当ぼけ〜っとしてたかも。
 
「姉貴、姉貴にエアーメイルが来てるぜ。残念ながら、貴明じゃねえけどな」
 
相変わらずのきれいな字。差出人はすぐにわかった。
封を切ると、そこには彼女の思いがつづられていた。
 
何故、タカ坊と別れたのか…。
 
『前略
 
 先日は、電話で失礼しました。
でも、久しぶりに向坂さんと話せて、とても楽しかったです。
あのときには何も話せず、失礼しました。
 
 
私自身も、あの時は少し心の準備が出来ていなかったものですから。
 
少し、心の整理が出来ましたので、筆を取らせていただきました。
ただ、この手紙は、決して貴明さんには見せないで下さいね。
私と貴明さんの仲を後押ししてくれた向坂さんだけに、少し本音を話したくなったので…
 
実は、貴明さんと別れたのは、私自身の問題だったんです。
 
あのころ、こっちに来て新しい生活が始まり、
なんとか馴染もうと頑張ってみたんですが、何をやってもうまくいかなくって…
いつも、貴明さんのことを思ってばかりいたんです。
 
恥ずかしい話ですが、その頃、貴明さんのもとへ戻って一緒に暮らしている自分をよく妄想していたものでした。
 
そんな時、親しい友人から「ささらは、何がしたくて勉強してるの?」と言われ、ハッとしました。
そうです、もう、貴明さんから離れてアメリカに来た意味を忘れてました。
 
私は、自分を磨いて独り立ちできるように頑張って、
そして、貴明さんと一緒になろうと決心したはずだったんです。
その時、いろいろ考えたんですが、やっぱりこのままじゃいけない、
貴明さんともっと距離をとらなきゃと思ったんです。
でも、これ以上距離をとるって…。
 
貴明さんにそう言えば、多分、「うん、いいよ」と言って協力してくれると思ったんです。
でも、それじゃダメなんだなって、思ったので。
 
だから、好きな人が出来たと言って、少しの間だけ距離をとろうって、思ってたんです。
 
実際、その後、私はいろいろの資格も取って、今ではようやく自立できるようになったように思います。
でも…正直に言うと、貴明さんは待っててくれると思ってたんです。
まさか、向坂さんにさらわれるとは、思ってませんでした。
 
別に、うらんだりはしていませんから、ご安心を…その時はちょっとショックでしたけど。
 
私は、貴明さんを手放して、自分自身を取り戻しました。
そのことに、後悔はありません、ちょっぴり残念なだけです。
だって、初めから終わりまで、彼を私の勝手に彼を巻き込んだだけですもの…。
 
だから、向坂さんとの間に割ってはいるつもりなど、これっぽっちもありません。
まあ、私も、貴明さんよりもっと素敵な彼を見つけるつもりですから…ふふっ。
 
では、お体に気をつけてお過ごしください。
 
草々
 
(追伸)結局、貴明さんとはお会いしていませんから、ご安心ください。』
 
そう、そうだったのね。
うん、わかったわ。
 
久寿川さんに見守られながら幸せになりますね。
ホント幸せ。
早くタカ坊帰ってこないかな〜。
タカ坊が帰ってくるまで、あと1週間。

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長いこと放ったらかしにしていて、すみませんでした。ちょっと個人的な事情もありましたので… 

アメリカに行ったタマ姉に、ささらから電話が…大変ですよね。だって、元カノなんですからね。でも、タマ姉だってささらだって、タカ坊に比べると、ずーと大人だから、大人の会話っていうか、駆け引きが出来るんだろうな…? なんて考えて書き始めたら、結構どろどろした話になって、何回も書き直しました。っていうことで、あんまり出来はよくないかもしれませんが、あんまり、長いこと放ったらかしなのもと思い、意を決してうpしました。まあ、そういうのも、遅れた原因ではあるんですけど…もし、楽しんでいただければ幸いです。 

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