ちゃるルートにて

「それでタカ坊はいいわけ?」 
 
「最善じゃないけど、精一杯やった」
 
精一杯ね…
 
事の発端は雄二の見合い話。相手は、このみの友達の山田さん。
お父様から聞いたときには、ちょっと早いかしらとも思ったのだけれど、
あの子は、いつもふらふらしてるから、そのほうがいいかな、なんて思ってた。
でも、本人は、どうやらそうではなかったのね。
まさかねぇ、タカ坊に代役を頼むとは…。
 
タカ坊もタカ坊だから、機嫌よく(?)代役になっちゃうし…
でも、一回目は、お互い代役同士となってご破算。
 
2回目の仕切り直しでは、雄二も諦めたのか、結構乗り気で出かけていった。
でも、タカ坊は、山田さんの気持ちを知って、
「ちょっと待った〜」って感じで、雄二と山田さんの間に割って入り、
なりゆきで告白(?)しちゃった。
 
タカ坊は、山田さんの見合いをつぶすために、偽りの恋人を演じてるだけだと言ってたけど…
本当に山田さんもそう思ってるのかしら?
 
偽りの恋人とはいえ、やってることは普通の恋人同士とあまり変わらないわけだし、
それに、初めは感謝の気持ちだった山田さんの気持ちだって変わっていくに決まってる。
 
だから、毎日『それ以上近づかないで』と願ってはいたんだけれど、
私の願いとは裏腹に、二人の距離はどんどん縮まっていく。
 
追い討ちをかけるように、ま〜りゃん先輩から生徒会主催の劇の話が舞い込み、
主役にタカ坊と山田さんが抜てきされた。
シナリオも、山田さん作成のもので進むことになった。
 
止める機会は何度もあったのに、さらに近づいていく二人を横目に、
何も出来ない自分が情けなかった。
 
 
 
そんなある日、タカ坊が劇の練習を休んだ。
と、同時に、山田さんも、具合が悪いから休むと連絡が入った。
 
私は、すぐにピンときた。
具合が悪いんじゃない、家の人に止められたんだと。
タカ坊と山田さんの間になにかあったんだと。
じゃあ、私にはチャンスなの?
そ、そうかもしれない…けど、タカ坊は私には…多分…
 
でも、最後のチャンスかも。
う〜ん、タカ坊が、私の思ってるように動いてくれるとは思わないけど…まあ、いいか。
うん、タカ坊の家まで行ってみよう。
 
多分、寝てるんだろうな…
タカ坊の寝込みを襲うのは久しぶりかな?
ピンポーン、ピンポーン…でないわね。
えと、鍵は…あった、あった、置き場所変えてないんだから。
 
階段をとんとんと上がり、ドアを開けると、ベッドの上にタカ坊はいた。
 
「やっぱりいた」
 
「タマ姉…」
 
「タカ坊、主役が練習サボったりするのはどうかと思うわよ? ねっ、今日って…ヒマよね」
 
「別にヒマってわけじゃ…」
 
「練習をサボって惰眠をむさぼっていたんだもの。当然ヒマよね?」
 
私は、有無を言わせず、タカ坊を着替えさせて、デート(?)に誘った。
 
あちこち回って、結局私の家に連れてきて、昔懐かしいくじら餅なぞをふるまった。
くじら餅を食べるタカ坊は、まるで、昔のタカ坊そのまま。
このままの関係がずっと続いて、そして、いつか…
タカ坊が私のほうに振り向いてくれることを願っていたんだけど…
 
「…ありがと、タマ姉」
 
「…え?」
 
予想外な彼のありがとうにびっくりしてしまった。
 
「心配してくれたんでしょ、俺のこと」
 
そうなんだ、タカ坊にとっては、私は、あくまで『タマ姉』。
それ以上でもなく、それ以下でもない。
 
タカ坊、私は、そんなよく出来た女じゃないのよ。
本当は、嫉妬深くて、独占欲の強いただの女の子なの。
 
でもね、あなたには、その姿は見せないように、
そして、いつかあなたが私に振り向いてくれますようにと願ってる、夢見る女の子なのよ。
 
今日だって、あなたの落ち込んだところに付け込もうと思ってたんだから…。
 
でも…そう言われたら、うなずくしかないじゃない。
 
「あ…ああ、そのこと…別に気にしないで。
私がそうしたかっただけで、特に…お礼を言われるようなことをしたわけじゃないから」
 
「ところで、雄二は?」
 
「あの子なら。今日が休みだって知って、大喜びで出かけていったわ」
 
「え? 練習が、休みになったって? どうして?」
 
そうよね、タカ坊は知らないのよね。
これを言うと、タカ坊は、山田さんのもとに走っていくかも…
だけど、言わないわけには行かない。
 
だって…私はタマ姉。
 
「ん…仕方ないわ。
タカ坊だけじゃなく、山田さんの方も休むって連絡があったから。
主役の2人が休みなんじゃ、練習にならないもの」
 
「え?」
 
「具合が悪いから、とは言っていたけれど、きっと違う。
家の人に止められたのね。事実上の出演辞退。
それで、この期におよんで劇は仕切りなおし。練習しようがないわ」
 
あ〜あ、言っちゃった。
でも、言わないわけにはいかないもの。
私は、最後の力を振り絞って、私か山田さんかどちらを選ぶのかの選択を彼に迫った。
…と言っても鈍感なタカ坊がわかるわけは無いかもしれないけれど…
私にとっては、最後の賭け。
負ければ、タカ坊は手に入らない…。
 
そして、私自身のけじめ。
 
「家のためとはいえ、あの子も大変よね」
 
「え…?」
 
「あの子の気持ち、何となくだけどわかるわ」
 
「え…?」
 
「あの子と私…似てるものね。片方は山田家の娘、そしてもう片方は向坂家の娘。
そして同じように、いろいろなものを背負わされている…だからね、何となくわかるの。
あの子の気持ちが…口では生意気なことを言っておきながら、
本当は肩にのし掛かる重みに身動きすら出来ない。
何もかも投げ捨てたい。そんな呪縛から解き放たれたい。
でも、まわりの期待を裏切りたくない。そこまでする覚悟も無い…」
 
なんだか、山田さんの話をしているのか、
自分の話をしているのかわからくなっちゃった。
タカ坊、だから…だからね、私は待ってるの。
山田さんと同じように…
 
あなたが、手を差し伸べてくれるのを。
山田さんじゃなく、私に…
 
「…だから…だから…待ってるの。
いいえ、夢を見てるって言った方がいいのかしら、
お姫様になって、そんな自分を連れ出してくれる王子様が現れる夢を…」
 
「…」
 
「ふふっ、そんな子供みたいなって、笑われるかもしれないわね。
でも、多分、あの子も同じ…王子様に手を差し伸べてもらいたいの」
 
「…」
 
「さて…と、それじゃあ晩ごはんの支度してくるわね」
 
「ごめん、タマ姉。俺…行かないと」
 
そう…ね。
あなたは、そう言うと思ってたわ。
私の手じゃなくって山田さんの細い手を引っ張ってあげるのね。
 
本当は、私も自分の気持ちに素直になって
『行かないで、私と一緒にいて』って言えばいいのかも。
でも、もう、今じゃ遅いかな。
 
それに、それが出来るぐらいなら…
 
なんだか、少し惨めな気がする…
 
でも、仕方無いじゃない…
 
タカ坊にそういわれたら、仕方が無いじゃない…
 
だって…タマ…姉…だもの…
 
「…そう…行ってらっしゃい」
 
タカ坊は、その言葉を聞くと、私に一礼して立ち去って行った。
そうなることは、わかっていた。
今のタカ坊に何を言っても分からないでしょうけど、最後の…最後の…。
 
タカ坊…愛してるわ。
 
………
……
 
大立ち回りの末に、二人は結ばれて…一件落着…か。
たぶん、私のお膳立てとかにタカ坊は、感謝してくれてるとは思うけど…
それは、私の望んだものじゃない。
 
結局、一件落着してないのは、私だけ…
なんて思いながら、生徒会室のドアを開けた。
そこには、久寿川さんが一人でいた。
 
そうか、ここにも一件落着してない人がいたんだっけ。
 
「おはようございます、生徒会長」
 
「あ、お、おはようございます、向坂さん」
 
「ねえ、久寿川さん、なんだか…その…寂しそうよ」
 
「…、…そ、それを、言うなら、向坂さんだって」
 
二人で顔を見合わせると、ふふふと苦笑いがこぼれた。
 
「縁がなかったと諦めましょう、向坂さん…いえ、タマ姉さん」
 
「そうね、勇気の無かった二人だと思って諦めましょうか、久寿川さん…いえ、ささらさん」
 
二人で、なんとなく納得してるところにドアが開いた。
 
「おはようございます、生徒会長と、…姉貴」
 
あ、雄二だ。
よくよく考えてみれば、山田さんとタカ坊がくっついてしまったのは、この子のせい?
 
「ねえ、久寿川さん。
よく考えてみると、タカ坊と山田さんの橋渡しをしたのは雄二だって思いません?」
 
久寿川さんは、私のほうを見ると、ハッとして、私に同意してきた。
 
「そ、そうですね、向坂さん。彼が第一級戦犯ですね」
 
私は、雄二に、つかつかと近寄って、いきなりアイアンクローを。
 
「姉貴、やめてくれ〜。割れる、割れる、割れる…。会長〜助けて…」
 
「いいえ、助けません。
向坂君にはお仕置きが必要ですね。
まーりゃん先輩!」
 
「とぉ〜。さ〜りゃん、呼んだか?」
 
どこからともなく、ま〜りゃん先輩が現れた。
 
「ま〜りゃん先輩。向坂君におしおきをお願いします」
 
「ま〜りゃん先輩、私からもお願いします」
 
と私もお願いした。
 
「よし、さ〜りゃんとたまりゃんの願いなら」
 
その後、雄二がどうなったかは、記すこともない。
 
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ええと…こういうのって難しいですね。一応、せりふはゲームのものをほぼ100%使用しました。
ん〜やぱぱり自分の言葉でせりふ書かないとなんか実感わきません。
あんまりこういうのって好きじゃないんだけど、タマ姉ルート以外のときのタマ姉って可哀相じゃないですか?
特に、このちゃるルートは一番可哀相だったので、タマ姉の気持ちを表せればと思いましたが…難しかったです。
100%どころか、50%ぐらいもできてないかも…です。
私の文章力ならこのぐらいが限界かもしれませんが… 
 
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