バレンタインデー(郁乃)
「ただいま〜。」
「あ、お姉ちゃん、お帰り。うわっ、すごい荷物だね…。それ全部、チョコレート用?」
 
バレンタインのチョコレートの材料を買いに行くといった姉が帰ってきたときの買い物の量はすごいものだった。
 
「うん、そうだよ。だって、今年は郁乃の分もあるものね。」
 
そう言って、嬉しそうに微笑むお姉ちゃんは本当に幸せそうだった。
そうか〜、あたしの分もあるのか〜。
そりゃ、大変だっ…て…えっ?あたしの分って何それ。聞いてないよ。
 
「お、お姉ちゃん、あ、あたしの分ってどういうこと?」
 
「え〜郁乃も、どうせ作るんでしょ?本格的に、チョコ作るのって多分初めてでしょ。
だから練習用の分も買ってきたのよ。
ちょっと量が多くなったかもしれないけど、失敗作は、あとで、二人で食べようね。うふふ。」
 
「ちょ、ちょっと、お姉ちゃん。あたし、あげる人なんかいないよ。
だって、まだ編入して半年ぐらいだしさ、男子の名前だってまともに覚えてないんだから。」
 
「え?郁乃…河野くんにあげないの?入院中はお世話になったでしょ?」
 
な、な、な、なんで!あたしがあいつに、手作りチョコとかあげなきゃいけないのよ。
そりゃ、お世話にはなりっぱなしな事は事実だし、贈りたいのは、やまやまだけど…。
 
「や、そ、そりゃそうだけど、それなら義理チョコでいいじゃない。手作りチョコあげたら、勘違いされちゃうよ。」
 
「大丈夫よ…お姉ちゃんなんか去年も手作りチョコあげたけど、
  勘違いされなかったよ〜勘違いしてほしいんだけどな…
  え?って、うそうそ、うそだよ〜郁乃〜。」
 
お姉ちゃん、顔真っ赤だから。
全然、ホントじゃん。
まあ、気が付かなかった振りしてあげよう。
あいつに劣らず、鈍いしお姉ちゃんも…。
 
「わかったわよ。そのかわり、ちゃんと作り方教えてよね。」
 
「わかってるよ。今年はねチョコレートクッキーにしようかと思ってるの。
河野くんって、あんまり甘いものは好きじゃなさそうだから、
クッキーにビターチョコでデコレーションなんて、素敵でしょ〜。」
 
あ、こりゃだめだ、完全に自分の世界に入ってるわ。
まあ、いいか、お姉ちゃんが大きいのを作って、
あたしは、小さいのにすりゃ、あたしのは義理だって思ってくれるよね。
 
「お姉ちゃん。何時作るの?」
 
「今年のバレンタインは、月曜日だから、土曜日と日曜日でがんばりましょうか。」
 
なんか、やる気満々ね。
 
 
そして、日曜日、クッキーを焼いて…焼いて…って、うまくいかない。
お姉ちゃんに助けてもらうんだけど、どうしても、うまくいかない。
まあ、別に義理だからどうでもいいと言えばいいんだけど…
「郁乃のは、堅めに焼いたんだね。」とか言われると頭くるから、何とかしたい。
 
でも、生まれてはじめて作るお菓子は、そう簡単じゃなかった。
性格が雑だからな〜お姉ちゃんみたいにできないしね。
 
結局、見かねたおねえちゃんが、私の分まで焼いてくれることになって、
あたしは、デコレーションだけということになった。
やっぱ、お姉ちゃんは何やってもすごいなぁ。
 
でも…でも、お姉ちゃん…すごいんだけど…なんで、こんなに大きなクッキーになってるの?
「お姉ちゃん。もっと小さなやつにしてってお願いしたでしょ。」
「だって〜郁乃ぉ。どうせなら大きいほうが気持ちが伝わるじゃない。」
 
いや、お姉ちゃん。あくまで、義理だから…でないと、
それに…こんなに大きかったら、メッセージ書かなきゃいけないでしょ…
それって、義理チョコじゃないから…
 
どうしよう…そうだ!いいこと思いついた。
 
「郁乃は、どんなメッセージ入れるの?決めてる?」
「うん、でも、恥ずかしいから、書いてる間はお姉ちゃん向こうに行っといてくれる?」
「え?いいよ〜。」
 
自分の分にメッセージを入れてから、意味深な笑顔を振りまきながら、
お姉ちゃんは居間のほうに行ってくれた。
 
じゃあ、あたしは…
 
…ん、結構難しいな…うわっ、太くなっちゃった。
…あ、字が曲がった。
 
…まあ、いいか義理だもんね。
 
冷蔵庫に入れて固めて…お姉ちゃんがいない間にラッピングもしちゃおう。
 
…やった、できた。
 
「お姉ちゃんできたよ。」
 
その声に反応してお姉ちゃんが居間から来る気配がした。
 
「あ〜、ラッピング終わってる〜。こら〜なんて書いたのよ。教えなさい。」
「あのね…ないしょ。」
「こら〜郁乃〜教えなさい〜」
 
あはは、お姉ちゃん喜んでる。
 
 
次の日、このみが一緒に渡しに行こうって、誘ってくれたから、朝早くこのみの家に行って、二人で、直接家まで渡しに行った。ちょっとまてよ…これって義理に見えるかな?
 
「タ〜カく〜ん。おはよう、バレンタインのチョコだよ〜。今年も、頑張ったのであります。
それから、いくのんからもあるんだよ。」
 
「あ、あの、こ、これ。一応、手作りだけど…お、おまけに名前も入ってるけど、義理だからね。勘違いしないでね。義理よ義理。おかえし期待してるわ。」
 
「ありがとう、二人とも…すごいね、大変だったんじゃない?」
 
「もう、それは大変だったでありますよ。タカくん。うふ〜、おかえし期待してるのであります。」
 
「うん、わかったよ。ありがとう二人とも。」
 
「じゃあね、また後でね、タカくん。」
「じゃね。」
 
よし、義理っぽく渡せたよね。
あとは、多分、うまく渡せないで、うじうじしてるお姉ちゃんの背中を押しに行くだけだね。
 
そして、私のを見てくれて、お姉ちゃんの気持ちに気付いてくれると嬉しいんだけどな…
国宝級に鈍感だからなあいつは…。
 
気付いてよ…お願いだから…
それが、あたしの一番。
 
『Happy Valentine おにいちゃんへ   いくの』
 
一生懸命考えたメッセージだから。
お姉ちゃんのことに気付いてほしいメッセージだから。
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退院後初めてのバレンタイン。何も考えてなかった…というか、手作りチョコなど夢にも考えてなかった郁乃はお姉ちゃんに巻き込まれます。
妹の心、姉知らずの愛佳はあいかわらずのマイペース。
郁乃は、お姉ちゃんと貴明が付き合っていないことを、退院後初めて知って、なんとかくっつけてあげようと考えてるけど…姉がねぇ…という状況。
最後のメッセージは、最高のメッセージ?遠まわしに、愛佳と一緒になってほしいとの願いが。 
貴明がこれで気がつくか…というと…無理でしょうね。どうも、けなげな郁乃に肩入れしてしまう作者でした…

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